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#3-8

「えっと……つまり、“”と仰る」 「うん。誰かと話してるときにそうしてたから、僕にも同じようにしてくれると思ったんだけど」  俺がどうしたいかを周は形にして知りたがっている。確かにあのときは、問いかけに対して言葉が出なかった。  周の言いたいことはよく分かる。だけど簡単なようで、それが一番難しい。この場合は、つまり欲望をさらけ出すということなのだから。 「単に人と話すのとは別物すぎる……つーか、それがまかり通るなら、周のほうこそ俺だけにいろいろ言わせるのはフェアじゃないだろ」 「ああ、確かにね。なら言われた通り、ちゃんと伝えるから目逸らさないでよ」  周がベッドに手をついて、俺の瞳の奥を覗き込むように見つめてくる。  吸い込まれるような瞳から放たれる周の視線は、目を逸らすことなど出来ないほど深くまで入り込んで、一切の隙も許さない。 「紅緒が好きだって言ったら、どんな反応してくれる? 君がしたいことも全部知りたい。僕に叶えさせて」  歯の浮くようなことを周は平然と言ってのけたけれど、言われたこっちは耳まで真っ赤になるほど照れくさい。 「なんで恥ずかしげもなく本人前にして好きとか言えるんだよ」 「“なんで”? 対等であるべきだって紅緒が言うから」 「涼しい顔して、とんでもないことするよな……」 「そういう紅緒は顔真っ赤だね」  思っていたよりも、俺にはまだまだ周流のコミュニケーションへの耐性がない。頭がクラクラしてきて、枕に顔を(うず)めた。  ぼーっとする中、こういう破れかぶれな状態だからこそ、思うままにいろんなことを言えるような気がしてくる。要は、ほんの少しの無恥(むち)と勢いに任せてしまえばいい。 「どうしたの、紅緒。大丈夫?」  心配してくれる声は優しいようでどこか少し冷たい。  周のような芸当は出来ないけれど、俺にだって思っていることを言うだけの精神力は微かに残っている。 「俺は……」  むしろここで言わなかったら、いつまでも先延ばしにしてしまうだけだ。 「俺の気持ちを周だけに知ってて欲しい。わがままだって分かってるけど、周の気持ちも、その興味も俺だけのものにしてくれたら嬉しい……かな」 「ああ、もちろん」  その口振りからするに、きっと周はどんなことでも叶えてくれる。断るわけがないと分かっていて、酷く自己中心的なことを願ってしまった。 「あと言わなくちゃいけないこと、もう一つあるんだけど――」  自分でもそれをわざわざ言おうとするなんてどうかしていると思う。 「――その、周のこと思い出して二回ヌいた。って、こんなアホみたいな話本人にするとか変態っぽいよな」  ただ、そうやって勢いに任せて笑い話にでもすることで、許されたい気持ちがあったのかもしれない。 「へえ、それは……ありがとう」 「は? ありがとうって、なんで?」  しかし、当の本人は想像とは違う反応を返してきた。  思わず埋めていた顔を上げると、周は話の馬鹿馬鹿しさを露ほども気にしない様子で続ける。 「薄々感付いてはいたけど、紅緒が自分から教えてくれたから感謝するべきかなって」 「感付いてることこそ“なんで?”なんだけど」 「さあ、なんでだろうね。紅緒のこと知りたいと思うからかな」  感慨深そうに言う周の気持ちとは裏腹に、周には下手な隠しごとは出来ないということを感じ取り、俺は気が気でなかった。

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