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だから進藤先生はモテる

「木戸先生? 聞いてます?」 「あ、ごめん」  看護師長が眉を寄せてこちらを見ていた。ちゃんと話を聞いていたつもりだったのに。いつのまにかぼうっと回想へ耽ってしまっていた。 「しっかり聞いてくださいね。大事な申し送りなので」 「はい……すみません」  くすくすと他の看護師に笑われる。30も半ばの歳になっても俺の顔は相変わらず童顔で、今でも20代前半とかに間違えられていた。  そのせいか、年齢よりも低く扱われることが多い。50代の看護師長には母親目線で怒られたりもするし、他の看護師や医師からはいつまで経っても新人のようなしょうがないわね目線で見られるのだ。 「すみません。遅れました」  そこに、同じ小児科医の進藤が急ぎ足で姿を現した。進藤は最近、他の病院から移ってきた医者だ。俺より数年先輩で、腕も良く、ついでに顔も良い。なので、女性の看護師には人気があった。 「当直お疲れ様です。美奈ちゃん、大丈夫でした?」 「はい。ちょっと喘息の発作が強く出たみたいです。もう落ち着いています」 「そうですか。回診でも気をつけてみますね」 「お願いします」  進藤は空いている俺の右隣へ立つと、机の上にあるカルテに手を伸ばした。ついでにこちらを見て軽く微笑む。俺はその笑顔に笑顔で応えた。  こういうことを、さりげなくできるところがモテるんだろうな。と勝手に納得する。  よく見ると、進藤は他の看護師や医師ともさりげなく笑顔で挨拶を交わしていた。 「305の飯島健太くん、昨晩熱が上がったので解熱剤を投与しました。今は熱も下がっていますが、また上がるかもしれません。注意お願いします」 「308の井上優ちゃん、オペ後経過も順調で後遺症などもありません。今日回診で問題がなければ退院の方向で進めます」  自分の担当患者のカルテを手にして回診時に注意する点を頭に入れていく。 「では申し送りを終わります。今日も宜しくお願いします」  お願いします、とめいめい答えて、持ち場に戻っていった。俺もナースステーションを出て、午前中の外来患者を診るために外来診察室へと向かった。

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