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間話 黒と紅

注意事項 ・新しいキャラクター視点 ・暴力、無理矢理の表現があります。 横浜は中区にある中華街。 観光客が近寄りもしねえ薄汚い路地にその店はある。 ボーイズクラブ『帝愛妃』。 中国の後宮を模したイメクラだ。雷紋や唐草模様といった安っぽい中華風のネオンの装飾が施されたビルに入れば、外見の胡散臭さとはかけ離れた、後宮をイメージした絢爛な内装のロビーが客を出迎える。 それから皇帝が側室の閨に向かうが如く、キャストのいる部屋に通される。そこには貴妃服を纏った美少年や美青年が待っていて、酒の酌から下の世話までしてくれるって寸法だ。 オレは、そこのスタッフだ。 客がごねれば出て行って料金を毟り取り、キャストがトベば追っかけて借金を取り立てる。 たまに、新しく入ってきたキャストの"研修"なんかも請け負うことがある。 研修ってか躾だな。金を借りたのはそっちだってのにゴネたり突っ張ったりするガキがたまにいる。そういうガキをへし折るのには犯すのが手っ取り早い。ぶん殴るより効果は覿面でビックリするほど大人しくなる。それに、最初はイキがってた野郎がオレの下でヒンヒン言ってんのを見るのは気分がいい。 今日はアタリだった。 ソイツは女みてえなやたら綺麗な顔立ちと白い肌を持っていた。身体つきは細っこいし小柄で、いかにも襲ってくださいって風貌だ。そのくせ吊り上げられた目は鋭くて凶暴にギラついている。 こいつは唆るな。 何でも気に入らねえ客をぶん殴って前の店をクビになったらしい。 「研修?レイプの間違いだろ。それに俺はもうヘマしないしアンタらの言う通りにするから必要ない」 ソイツは女王サマみてえに堂々と腕を組んで言い放つ。その態度を突き崩して泣かせてやったらどんなに気分がいいだろう。 突っついてみるか。 「そうだな。元々ウリをやってたんだって?高校の時から。そりゃ経験も豊富だろうよ」 ゆっくり距離を詰めていっても、ソイツは微動だにしない。オレより背が低いくせに、まるで見下ろすように睨め付けている。 いいねえ、オレは強くて獰猛な生き物が好きなんだ。ライオンみてえに群れるヤンキーやら町をサメみてえに回遊するゴロツキやら。コイツは狼みてえなプライドの高さを感じる。ならそれらしく犯してマウントを取ってやろうじゃねえか。 「それに、いじめっ子が群がってきたんだって?」 「ああ、俺のことをビッチだのホモだの言ってきたヤツらのことか?ぶん殴って黙らせてやった」 くはっ、と笑いが漏れた。やべえ、めちゃくちゃ好みのタイプだ。 ベッドまでじりじりと追い詰めても、ソイツはキレイな顔のパーツを一つも動かしやしねえ。 「じゃ、テクがどれほどのモンなのか見せてもらおうか」 ベッドに押し倒そうと肩に手を掛けた瞬間、ソイツはふっと視界から消える。残像を追って下を見れば、ヤツの右足がオレの米神に叩きつけられた。倒れはしなかったものの、頭を揺らされて足がたたらを踏む。 「で?何の話だっけ。ケンカのテクならいくらでも見せてやるけど?」 「このガキ・・・!」 拳を振り上げて、ふと我に返った。本気でかかればオレの方が強い。 だが、コイツは商品だ。顔に、いや、身体に痣を1つでも作ろうもんならオレの方が不利になる。 「中々賢いチンピラだな」 これもただの煽りだ。その辺のガキには通用しただろうがこっちは仕事だからな。 手を伸ばしただけでソイツの身体に緊張感が漲るのが分かった。やり返す気満々だな。これはクソ面倒くせえ。 「今日は終いだ。出て行け」 ソイツはフンと鼻を鳴らし、ツンとすましたまま部屋を出て行った。勝ち誇った態度に腹が立つ。 アイツいつか絶対に犯す。あのすましたツラの皮をひん剥いて、ブッ壊れるまで串刺しにしてやろうじゃないか。 アイツはあんな可愛げのねえ野郎なのに、そこそこ客がついているようだった。見た目はいいからな。襲う機会を伺っていたが、中々隙を見せず悶々としていた。 そんな中、イイモノを見つけた。 もうすぐ開店だってのに店の前で悪ガキ共がケンカをおっぱじめて、全員蹴散らす為に出ていけばガキが1人袋叩きにあっていた。チビで細っこくて、ボサボサに乱れた黒くて長めの髪の間から白い肌が見えた。まるでアイツのような。 ガキ共の間に割って入れば、オレの顔や首筋から覗く彫り物を見ただけでヤツらは散って行った。地べたに蹲るガキの前髪を掴んで顔を吊り上げる。 悪くない顔立ちだ。あちこち腫れまくっているが、鼻梁や輪郭を描くラインが繊細で、顔の中身は整っていた。バキバキに割れた眼鏡の奥の切れ長の目は、コイツだれだ?って言うように瞬きしている。 襟首を引っ掴んで無理矢理立たせヤリ部屋、おっと。"研修室"に引っ張り込んでセックスした。 泣くわ暴れるわ押さえつけるのに手一杯だったが珍しいこっちゃない。ひ弱そうな見た目以上に馬鹿力で、コイツはキャストじゃねえから気にせず張っ倒してやった。 アイツに似た物を多く持っているコイツがぐちゃぐちゃに泣き喚くのを見て少し気が晴れた。久しぶりに性欲を発散できて気分も良い。 シーツと一緒にボロ雑巾みたいに丸まっているガキに、シャワーを貸してやってもいいと思うくらい機嫌がよかった。 ガキがシャワーを浴びている間、ソイツが持っていたリュックサックを開けて金目のものがないか漁った。 出てきたのは、スマホ、タオル、財布、定期、ミネラルウォーターのボトル、簿記のテキスト、大学ノート、電卓、筆箱。中身から見るに学生っぽいな。あと白い道着が出て来たのは少し驚いた。マジか。空手かなんかやってんのか? シャワー室から出てきたソイツは目を見開いて、その次は暗い色に沈ませた。何も言わずに黙々とオレが出した物をしまっている。 「お前、ケンカできるのか?」 オレが聞けばガキは少し顔を顰めた。 「・・・無理ですよ」 繊細そうな見た目とちぐはぐな、低く嗄れた声だった。まあ散々泣かせたせいでもあるが。 「じゃあこれは何だよ」 道着を見せれば 「それ、俺のじゃないんで」 と虚な目で嗤う。 「盗んだのか?」 「まあ・・・そんなところです」 ガキは服を着てリュックを背負った。 よく見ればシャツのサイズは合っていなくてジーンズは裾を少し引きずっていた。 ガキはドアの前に来るとゆらりと振り向いた。 「このビル、階段あります?」 もうこのガキに用はなかったから、指先だけで方向を指し示す。ガキは何も言わず出て行った。 変なヤツだ。何もかもチグハグで、大体来るときはエレベーターでーーーーー オイオイ待て待て待てあのガキどこに行くつもりだ?!シャツを引っ掛けて部屋を飛び出し非常階段へ向かえば足音が上から響いてくる。 ああクソッタレ! 重くなった腰に鞭打って屋上まで駆け上がれば、思った通りガキがいやがった。 こっちを振り向いたがちょっと目蓋を上げただけで、淵に向かって歩いていく。 「おい待て!何やってんだ!」 「・・・意外」 ぽつりとガキが呟くが人助けとかそんなゴミみてえな理由じゃない。 迷惑なだけだ。普通に汚れるし、警察が来れば営業どころじゃない。死体が出たなんて話が出回りゃ客が入らなくなるのは目に見えている。それにこの店は叩けばいくらでも埃が出てくるようなところだ。その原因をオレになすりつけられちゃたまったもんじゃない。 「いいから来いよ!ぶっ殺すぞ!」 ガキが少し笑った。 大股で近づいていってもガキはその場を動かなかった。ふっと吹けば霧散しそうな笑いを浮かべたまま。 「・・・殺してくれるんですか?」 取り敢えずぶん殴っといた。吹っ飛んで尻餅をついたガキを引きずって、階下のスタッフの詰め所に押し込む。 「死なせてやるよ」 って言えば、ガキは虚に顔を上げた。心なしか目に光が差す。 「でもやるのはオレじゃねえ。ヤベェヤツらとカチ合ったらテメエがオレの盾になって死ね。それまではオレのイヌだ。 オレがやれっつったことは死ぬ気でやれ」 少し間をおいて、ソイツは頷いた。 その日からソイツはオレの従僕になった。黒い髪に目に服と黒尽くめだったからクロと呼ぶことにした。 仕事を振られればクロに押し付けたり、客や酔っ払いが暴れてるって聞きゃあクロをその渦中に放り込んだり、気紛れにベッドに引っ張り込んでめちゃくちゃに抱いたりしてクロが早死にできるよう協力してきたつもりだ。 だがクロは死ぬどころか随分タフになった。 仕事やケンカの仕方を覚え始め、オレが言うことに先回りして動く。 ある時、セックスすることを初めて拒絶しやがった。ちょっとケンカを覚えたくらいで調子に乗りやがって。殴って手を縛り上げて強引に突っ込んでやったけどな。 終わった後、クロはオレを睨みつけていた。切れ長の目がナイフみたいにギラリと光る。視線だけでオレを殺さんとする凶暴さだ。 ゾクゾクしたよ。オレは強くて獰猛な生き物が好きなんだ。熱く脈打つ血潮が下半身に集まってくる。手っ取り早く言やぁ勃った。もう一回ヤッたのは言うまでもない。 クロはそれからもオレの使いっ走りをしているが、隙あらばオレの寝首をかく気でいるらしい。たまに殺気を感じるしすげえ形相で見られている時がある。まさか死のうとしていたガキがこんなオレ好みのイヌになるなんて思ってもみなかった。 あの生意気なキャストのことなんて、店が潰れるまで忘れていた。 摘発の前日、オレとクロはオーナーの上の人間に指示され帳簿と金を店から回収していった。オレを雇っていたのはオーナーじゃなくて、その上にいた黒社会の人間だ。ヤツらはガメツくて、借金を残しているキャストから金を巻き上げるよう命令してきた。あらかた居場所も金もおさえたが、ただ1人だけ見つからなかった。 あの一匹狼だ。   情報を集めていると、中国から来た売人がそれらしいヤツがいると言っていた。 国外だと?どうやって逃げた?めんどくせえから1人くらい放っておこうと思ったが、上からせっつかれてはるばる海を越え大陸までやってきた。クロも一緒に。なんでもオレの言うこと以外聞かず派手に暴れるらしい。 北京駅で観光客相手のガイドをしていたヤツを見つけた時は感動したよ。それに、ヤツの驚いたツラは中々見ものだった。 「よお、レン」 そう声を掛ければ、ヤツは目も口も全開にしていた。あの突っ張った態度をようやく崩すことが出来て気分がいい。 さあ、狩りの時間だ。 end

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