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いつか 前編

注意事項 ・文字書きワードパレットのリクエストから書いたお話。 ワード→電源コード、溜めている、泣かせる ・レンが横浜の店にいた時の話。 客が帰った後の部屋で、内線のコール音が鳴る。脱ぎ散らかした長衣だの髪飾りだのを拾い集めていたのをベッドの上にどさりと置いて、受話器を取った。 「はい、レンです」 『おう、テメェの部屋のカメラ切れてんぞ。どうなってんだ?』 砂のようにざらりとした声が耳に流れ込んできた。ベニヒコだ。 キャストの部屋には防犯カメラが設置されていて、映像はスタッフが常駐しているモニタールームに繋がっている。客が無理やり本番をヤッて料金を踏んだくったり、ヤバイ性癖のヤツがキャストを傷物にしようとすると、無線でベニヒコやクロに連絡が入り番犬どもがすっとんで来る。まあ、キャストが虚偽の報告や抜きをしないようにするためのものでもあるけど。本番アリと報告しといて、内容は口淫や手淫だけだったり、メニューにないサービスをして勝手に金を取ったりな。 「ちょっと待ってろ」 保留ボタンを押して、天井の隅で不正に目を光らせるカメラを見る。撮影中なら赤い小さなランプが付いているはずだが、今は光っていない。 クローゼットを動かし電源コードを確認すれば、新しい箱型のプラグが設置されていた。カメラのプラグは穴に引っかかってはいるものの、そのプラグが邪魔で浮いている。 スッゲー嫌な予感がする。カメラのプラグをしっかり嵌め直し、領収書をメモがわりに早く来いとの旨を書いてレンズに突き出した。 「盗聴機ぃ?ナメたマネしやがって」 部屋にやってきたベニヒコは箱型のプラグを弄ぶ。スタッフが計器を持って部屋をうろつき、他に盗聴機が仕掛けられてないか調べている。 「なんだ?サツか?」 「さあな。それを調べんのはそっちの仕事だろ」 「ヤベェ客に当たったか?たまにいるんだ、キャストに付き纏うゴミが」 ちょっと変わった客ならいる。同一人物なのに、毎回違う格好して別人のフリして来るヤツが。 でも無体を働いたことはないし、毎回高いプランで俺を買っていく太客だ。下手な事を言ってソイツが居なくなったら困るから、 「別に」 とだけ答えておいた。 「しばらく引っ込んどけ」って言われたけど、「客がつき始めたとこだから」って突っぱねた。溜めている利息を返し始めた矢先だったし。新規の客だけ入れるって条件で、営業は継続する事になった。 問題ない。あの客は新規の客のフリしてくるはずだから。 案の定数日もすればやってきた。今日は安っぽい量販店のグレーのスーツにビジネスバッグを下げ、仕事帰りのサラリーマン風だった。縁無しメガネの奥の色素の薄い瞳は、俺を見るといつものように甘く緩んだ。けれども口元も口調もわざと引きむすんで緊張を漂わせている。 「最後までしていいって本当?」 「そうですよ」 ニッコリ笑って、隣に座るヤツの手に手を重ねた。ヤツは少しだけ悲しげに眉を下げ「誰にでもそうするんだろうね」って呟く。そして眼鏡を取ると唇を重ねてきた。 リップ音を立てながら、こめかみも頬も首筋も啄まれる。他の客だったらキスマークや噛み跡をつけられやしないか冷や冷やするけど、コイツはちゃんと弁えていることを知っているから気楽でいい。肩紐を外す手つきも胸の尖を転がす舌使いも丁寧で、頭の天辺からゆっくり蕩かされるような快感に溺れそうになる。ふわふわした思考が飛ばされないようにソイツにしがみつけば、澄んだ目が愛おしそうに細められた。 この目だけは、どんなに姿を変えてきても変わることが無い。 「ーーー綺麗だ」 自分の考えていたことが言葉に出たかと思ってドキリとした。けどそれを発したのは客の方で、裸に剥いた俺を俯瞰しながら頬を撫でていた。 「嬉しい」 って蠱惑的に唇を引き伸ばしながらその手に指を絡め、頬を擦り寄せればソイツの喉が鳴った。チョロイな。しっかり延長料金を捲き上げることもできそうだ。 お互いのペニスにゴムをつけると、俺を抱き込みナカに挿ってくる。質量と圧迫感に毎度息が詰まりそうになるけど、呼吸を促すようにキスが降ってきた。苦しいがキモチイイに変わっていく。 貫かれ揺さぶられながら「もっと」と強請れば「いいの?」と心配そうに澄んだ瞳が揺らめく。 身体を張らないといつまで経っても借金が減らないからな。頷いて甘えるように首に腕を絡める。 「もっと欲しーーーああっ!」 抽送が激しくなり、悲鳴に似た声が飛び出す。ひっきりなしに上がる嬌声に呼吸が乱れて思考も散らかる。これは、ヤバイ。目の前がチカチカする。 「あ、あ、ヤバッ、イクっ・・・から・・・ッ」 「ホント?」 ヤツは嬉しそうに顔を上げるけど、こっちは理性を飛ばさないようにするのに必死だ。ずれたゴムを直そうと手を伸ばせば、「ここがイイの?」てヤツの手が先に届いた。雁首から亀頭までゆるゆると指先で擦られ、声にならなくて背中をのけぞらせた。その間にもナカを穿たれ、搾り取るように前も扱かれる。やがてヤツの手の中で白濁が爆ぜた。身体の芯に激しくも甘い電流が走る。その残滓が引くまで、頭の中が真っ白になって動けなかった。 「気持ちよかった?」  視線だけ向ければ、いつの間にか服を着たアイツに髪を撫でられていた。 「ごめんね、泣かせる気はなかったんだけど」 親指が目元をなぞって、滲んだ水分を拭う。 ヤバイ。トんでた。何分経ったんだ?飛び起きてタイマーを見れば、2、3分しか経ってなくてホッとした。いや、ねえだろ。客をほっぽりだして寝てるとか。 素っ裸のまますみません、と頭を下げれば「大丈夫」と柔らかくポンポンと叩かれた。あの澄んだ瞳のまま。 「・・・前にも来られていませんか?」 少しだけ瞳が驚きに縮こまるのがわかったけど、 「どこかで会っていたかもしれませんね」 と口元に笑みを浮かべる。 それはねえな。寮とは名ばかりのボロアパートに押し込められて、逃亡防止にコンビニに行くのすら制限されてんだぞ?客に話すこっちゃないけど。 でもいつか、こんなとこ出てってやる。 「疲れてませんか?時間まで寝てていいですよ」 そうできるならとっくの昔からサボってるよ。カメラにチラリと視線を向ければ、ソイツも目敏くソレを見つけて「ああ」と納得したように声を出した。 それからベッドに俺を押し倒し覆い被さる。 「これなら誤魔化せそう?」 悪戯っぽく微笑み、耳元で囁く。 身動ぎするも腕で囲い込まれて抜け出せない。 イッたばっかだし、最近ずっと気が張ってたし、人肌の温度に包まれていると目蓋が重くなってきた。こじ開けようとするけど開けるなとばかりに目蓋や額にキスされる。意識が遠のいていくなかで、 「好きだよ」 と聞こえたような気がした。 end

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