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第4話
天気のよい一日になりそうだった。青い空の一部が窓から見える。黒沢の後にシャワーを浴びて鏡の前に立つ。白い肌に潤んだ瞳、痩せて不健康な身体、長くなりすぎた前髪。青ざめた唇、対照的に赤い、身体中に散らばる痣。
鏡に映る自分の顔を両手で押さえて、桐島は目を閉じた。
ほとんど眠れなかった。黒沢に抱かれた後は睡眠導入剤を飲むタイミングがつかめず、いつもそのままだ。カーテンの色がさまざまな色に変わっていくのをじっと眺める。幸せなのに。一緒にいられるだけでいいと願うのに、なぜ自分はもっともっとと欲しがるのだろう。たとえば、それは黒沢にこの現状をわかってほしいとか。知られたらなにもかもが終わる。黒沢に着いていかなければ、この関係は終わるのだ。それは嫌だ。離れたくない。これは執着ではない。自分は黒沢を愛している。そう思うのに。なんだろう、この焦燥感は。矛盾する心、そんなものは必要ない。
さっと髪を乾かして、シャツとジーンズを身につける。もっと跡を残してくれればいい。全身に散りばめてくれればいい。もっと黒沢のものだと、自分に見せつけてほしい。今はそれしか確かなものがない。不安定な日々の中で、桐島は少し弱り始めていた。
遅い朝食を摂ったあと、黒沢はリビングで新聞や本を読んでいた。桐島はそれを邪魔しないように仕事をしようと思ったが黒沢に注意され、特になにをするわけでもなく黒沢の横に座っていた。新聞も本も最近読んでいない。視線を泳がせるのもうっとおしいだろうと思ったが、のぞきこんでもなにも言わないので、そのまま一緒に読ませてもらった。
壁の時計を見ると四時になっている。あっという間の時間の速さは、黒沢が隣りにいるからだろうか。黒沢が立ち上がり、着替えをしてくる、と言った。なにも言われないので、桐島は黒沢が読んでいた本の途中からを読んでいた。しばらくすると眼鏡をかけたまま、スーツ姿の黒沢がやってきた。眼鏡、ということは車を運転するのだろう。桐島は少し不安になって尋ねた。
「……ねぇ、どこへ行くの?」
「行けばわかる」
「近く?遠く?」
「近く」
「外へ行かないとダメ?」
「桐島。外出だ」
桐島は諦めた。強制外出の合図だ。
「どんな格好をすればいい?」
「そのままでいいぞ」
「え?」
白いシャツにジーンズ。どこに行くのかわからないが、そんなに気にしなくてもいいようだ。とりあえず桐島は髪だけ梳かして、車のキーを持って歩いていく黒沢の後を追った。
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