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第6話

 更に車を走らせたが大した時間をかけず、すぐに地下駐車場へと入っていく。結局、横浜内で用は済みそうだ。少し安心する。 「このままメシに行くか? それともなんか欲しいものあるか?」 「……ああ、……えっと、ご飯、食べようかな」 「ああ、言い忘れてたけど、今夜、ここに泊まるから」 「えっ? なに、いきなり、それ」 「……嫌なら、やめるから」  めずらしく歯切れの悪い黒沢をいぶかしげに見上げたが、さっさと先に行ってしまったので、慌てて後をついていく。駐車場からエレベーターで五階まで上がり、フロアを歩き続ける。どこへ行くのかわからず桐島は不安になったが、とにかく黒沢についていくのに精一杯だった。  やはり、黒沢は人の目を引く。特に女性はよく彼を振り返る。桐島の常連の中には女性の客もいたけれど、年上の既婚者が多く、彼のことを男として見ているわけではなく、ペットと遊んでいる感覚のようだった。別に、女性に好かれたいわけではなかったが、同じ男として黒沢をうらやましいと思うことはある。人間的にも。そう、なにもかもが。 「おい」 「……え?」 「並んで歩け」 「あ、うん」 「なんでおまえはいつも隠れるようにして歩いてる」 「え? そう?」 「しかも下ばかり見てる」  黒沢は苦笑した。腕を引かれて、胸の鼓動が速まるのを感じる。 「仕方ないな。でも、まぁ、いいか。俺もあまり、おまえを見られたくない」 「え?」 「さっきから、女がおまえをよく見てる」 「え? ……勘違いでしょ」 「おまえって、鈍いのな」 「そ、そうかな」  焦って、黒沢の横を歩く。しばらく歩いてまたエレベーターに乗り込む。黒沢は六十八階のボタンを押した。  桐島はずっとうつむいたままだった。久しぶりの外の空気に酔いそうだった。薬を飲みたいと思ったが、黒沢と離れる機会はなさそうだった。

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