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わくわく温泉旅行 良い夫婦編

 桐生と葉月さんを誘われ、温泉旅行に来た。何故かは自分でもわからない。たまたま葉月さんが商店街の福引で三等の景品を引き当て、優待券を手にしたらしい。四人まで行けるということなので、急遽、日本に来て暇をしていた蒼と自分に白羽の矢が当てられた。  たかが一泊二日。されど一泊。どうして元恋人と現恋人の弟という非常に気まずい人材を選択をしたのか、全く理解が出来ない。 「……はぁ。何で桐生と温泉なんて来なきゃならないんだろう」  鄙びた旅館に到着し、開口一番そんな言葉が出てしまう。蒼と葉月は受付でチェックインの手続きを2人で行っている。桐生と2人ソファ先に座ってその様子を見る。蒼と葉月が並ぶと親子に見えるほど、葉月は童顔だ。たまに桐生に犯罪じゃないかと物申したくなる時があるが、あえて言わないでおく。 「温泉なんて昔、よく行ってただろ」  桐生は顔を顰めながら不機嫌そうに言う。恐らく仕事で寝てないんだと思う。  広いラウンジに向かい合いながら座り、窓一面に見えるオーシャンビューに視線を移した。 「確かに……。そういえばよく行ってた気がする」  家で会う事が多かった桐生だが、旅行は何回か行った記憶はある。ちなみに蒼とは二回ぐらいしかない。元々桐生も温泉が好きなので、たまに熱海など近場で一泊してたりしていた。 かと言って、身体だけ求めた関係だったので、する事は決まっている。 「……あの時は悪かったな。おまえに優しく出来なかった」  桐生は当時を思い返したのか、急に頭を下げて謝った。 「な、なんだよ………急に。別に過ぎたことだし、いいよ……。あ、でも、やっぱり悪いと思ったら桐生、あの飲み比べセットを蒼に内緒で買ってよ。」  土産コーナーに見える地酒セットを指差す。日本酒も好きだが、蒼には適量を飲んで欲しいと強く言われてるが今日は無礼講だ。 「……皐月、僕がなんだって?」  お約束の展開に背後から蒼の低い声が聞こえる。振り返るとにこにこと笑顔を向け、薄緑色の瞳は嫉妬で染められているように見えた。 「え、えっと……、海が綺麗だよなって桐生と話してたんだよ。な、桐生?」 「そうだな。地酒セットを内緒で買って欲しいなんて一言も言ってないもんな」 「き、桐生くん……!」  早く明日になれ………。と思いつつ、後ろで申し訳なさそうに佇む仲居さんと目が合い、初日から居た堪れなくなる。

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