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わくわく温泉旅行2

 壁に背凭れながら、葉月は火照った身体を冷ました。内輪をパタパタと仰いでは涼しい風を当てながら桐生を眺めると、静かに本を読んでいる。端正整った顔立ちに濡れた前髪が垂れて、浴衣が似合ってるせいか色気を醸し出す。 なんだろう? そっと壁に耳を当てて、耳を澄ました。 『……んぁっ…あお……。』 ぱっと葉月は壁から耳を離す。 隣の声が丸聞こえだ。皐月の色艶ある声が壁から漏れて聞こえる。はっと思い、桐生に視線を移すがまだ気づいてない。 葉月は興味に惹かれ、そっと薄い壁に耳を澄ます。 『………皐月、桐生君とよく温泉に来てたの?』 初めて聞く蒼の甘ったるく絡みつく声に葉月の鼓動は速まる。こんな蕩けるような声は一度も聞いた事がない。 『……ひぁっ……ぁ、蒼、聞こえちゃ……ンッ…。』 どうやら2人はこちら側に向かって情事に励んでいるようだ。壁を挟んですぐ側でぬちぬちとした摩擦音までリアルに響く。 『ねぇ、皐月、答えて…。』  さらにブーーというような機械音がこだました。 あ、蒼兄は何を使ってるんだ………。 葉月は耳を疑いながら真剣に聞いてる。 『……やぁ…ぁん…あぁっああ…。』 皐月は乱れきった声が漏れて、壁越しに響く。葉月は真っ赤になりながら聞き耳を真剣に立てた。 激しい……。 兄も兄だが、皐月の乱れっぷりに驚いた。 色艶のある声で抗いながら、聞いてる自分ですら疼いてしまう。 『駄目だよ、聞こえちゃう。ほら、これで抑えて』 蒼は何かを皐月の口元に当て、さらにグチュグチュと湿った音が増した。 『んーーーンッ、んーー!』 皐月は声を押し殺しながら、パンパンと乾いた音が振動してきそうなぐらい耳に届く。 「………葉月さん?」 はっとして前を向くと、桐生が目の前に顔を覗いていた。浴衣から引き締まった胸元が見えて、ドキッとしてしまう。桐生もあんな風に皐月を抱いたのだろうか。 「あ、あ、お、温泉に入ろう。確かに部屋にもあったよね?」 流石に好きだった相手が部屋越しで今盛んにしているのを知って傷ついて欲しくない。多分、兄はわざと壁に向かって、聞かせるようにやってる。 「……?待ってください。何か、聞こえません?」  桐生は口元に人差し指を当てて、しっと呟きながら、壁に耳を当ててしまう。 すると盛大にため息を漏らし、葉月の両耳を塞いだ。 「……葉月さんは聞かないで下さい。駄目です。」 桐生は葉月を子供扱いするように壁から離した。 「ぼ、僕だってもう大人だから大丈夫だよ!」

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