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久しぶりの横浜
※桐生カプあります 二人のおせっせあります
久しぶりの日本だ。
嬉しい……!
皐月はワクワクと電車を降り、颯爽と足を進めて蒼と並んで歩く。
蒼の学会を口実に久しぶりに日本に帰国した。11月だがボストンより少し暖かい日本にホッと胸を撫で下ろし、興奮が止まらなかった。
食べたい食べ物、飲みたいお酒、読みたい本が貪欲に思い浮かぶ。しかしながら、到着すると荷物をホテルに預け、すぐに横浜へ挨拶しに行く事になっていた。次の日から蒼が学会があり、紅葉くんもこの日しかスケジュールが空いてないらしい。
「…………皐月、横浜なんて久しぶりだね」
関内駅から続く並木通りを蒼と歩きながら色づくイチョウを見上げる。黄色く染まったイチョウと異国情緒溢れる雰囲気に、ボストンとはまた違う雰囲気を醸し出している。
ここにくると様々な建築様式が見られ、よく一人で訪れた。イタリアルネサンス期のパラッツォ建築を思わせる古典的建造物や無駄のないシンプルなスタイルの現代的な様式までと幅広い建築物を楽しめるからだ。
「そうだね、日本にいた時は蒼ちょっと冷たかったからなぁ……」
蒼と付き合って、北海道から戻り、東京での同棲生活がスタートした。初めは順調だったが、次第に雲行きが怪しくなり蒼は冷たくなった。きっかけは分からないが、蒼が自分に対して疑いの目を向けるようになり、桐生への想いを指摘して最終的に突然の別れを告げられた。
あの時は散々だったが、乗り越えてしまうと懐かしい記憶になるのかなと、ちらりと蒼を見ながら思う。
「ご、ごめん。あれは僕が酷かったよね……。傷つけて、本当にごめん。申し訳ないと今でも思ってる…………」
その視線に気づいたのか蒼は急に足を止めて、深々と頭を下げた。周りの人の視線が集まり、慌てて蒼の身体を起こす。
「い、いいよ。別にもう怒ってないから。頭を上げて!」
「本当? でもごめんね、皐月……」
過ぎてしまった事なのに、こうして丁寧に謝ってくれる蒼が可愛い。
「いいよ、今こうして一緒にいられるんだから。あ、後でホットワイン飲んでいい?」
「皐月、赤ワインは少しだけにしてね?」
蒼は困った顔で手を伸ばし、手を繋ぐ。互いに見つめ合いながら笑って歩いていく。刺されたり、記憶を無くしたり、事故に遭ったりと本当
に色々あった。でも、こうして一緒にいられるだけで、満たされて幸せだと感じる。
「……あ、桐生、元気かな。あいつ不器用だからなんだか、たまに心配になる」
不意に桐生の顔が浮かぶ。
桐生とは連絡を取っていたが、段々と桐生は忙しいのか、最近は音沙汰がない。心配になりつつも葉月さんと上手くいっていると聞くので、下手にこちらから連絡をするのは控えていた。
「僕より桐生くんの方が気になる?」
蒼がにこっと横で笑いかける。目の前には大桟橋が大きく見え、晴天のせいか観光客が歩いているのが遠目でわかる。
「ち、違うよ! なんていうか、桐生は弟というか、家族的な感じで、時々心配になるんだよ」
顔を赤めながら話すが、何故か桐生に抱かれた記憶を思い出してしまう。確かに桐生を愛していたが、身体だけを重ねた記憶しかない。そしてその記憶も朧げで思い出せない。
「そう? ……皐月は桐生くんには素を出すから、本当はちょっと本気で妬けるんだよ」
「素?」
大桟橋を横目で横切り、山下公園の中を歩いていく。蒼の言葉に驚きながらも、芝生で子供達が楽しそうに遊んでいるのを横目で見ていた。ボストンで悠と遊んでいたのがなんだか懐かしい。
「そう、素だよ。でも家族ならちょっと安心したかな」
蒼は眉を上げ、少し諦めたような顔をした。
桐生とはもう終わった関係だが、幸せになって欲しいとは心から思っている。桐生には何かあると頼ってしまい、なんだか申し訳ないと思いつつ顔を合わせると悪態をついてしまう。
長い坂を登り、横浜の風景を楽しみながら、やっと大きな屋敷に着いた。
蒼が隠し場所から鍵を取り出し、門を開ける。
「あれ? 誰もいない?」
蒼は玄関に入ると誰もおらず、人気のなさに驚く。確かにこの時間に約束していたと思い、腕時計を確認する。
「そうだね……。もしかして店の方かな? 皐月、ちょっと僕は喫茶店の方も見てくるからここで待っててくれる?」
「う、うん。いいけど……」
蒼は隣接する玄関脇の廊下に逸れて行ってしまう。残った自分はボストンからの手土産を持ちながら佇んで、広い屋敷を眺めていた。壁にはいくつかの絵画が飾られ、重厚ながら居心地の良さを感じる内装だ。
ふと、何処からか音が聞こえた気がした。
ん?
物音?
どこからか掠れた声が聞こえる。
広い屋敷には誰もおらず、気になって靴を脱いで勝手に長い廊下を歩いてしまう。
なんだろう?
泥棒か…?
いや、自分も変わらないけど、もしかしてもあるし……。嫌な予感がザワザワと背筋を通りながら足を進める。
『………ぁ……ッ…………』
その声は一番奥の左の部屋から漏れ出ていた。
ギシギシと床を軋ませながら、部屋の前まで来る。
『……葉月さん……んっ……』
え?桐生?
なんで?
僅かな隙間から葉月を仰向けにして組み敷く桐生の裸が見え、一瞬で目が丸くなる。
『……んっ……ぁっ……きりゅくん……だめ……』
ちゅっちゅっという吸っていく音が聞こえ、聞いてはいけない卑猥な音に本能的に耳を澄ましてしまう。
『……何が駄目なんです? …………言って下さい』
僅かなドアの隙間から桐生が葉月を見下ろしながら、腰を深く孔に押しつけている。葉月は両手を絡められ、抵抗出来ずにふるふると首を横に振る。それを桐生は耳朶を噛みながら、葉月の横顔を嬉しそうに眺めていた。
や、やってる……。
桐生と葉月さん、前は付き合っていないとか言っていたけど…………。
それは甘く蕩けるような二人の情事だった。
『…………ぁっ……ぁっ……やだっ……だめっ……』
赤く火照る躰を桐生に組み敷かれ、葉月はこみ上げてくる快感に耐えられず泣きそうだった。
『…………葉月さん、嫌ならやめましょうか?』
桐生は嬉しそうに言って、さらにゆっくりと深く突いていく。
『…んっ……いやっ……きりゅくん……やめな……いで……ぁっ……あ……!』
葉月はビクビクと背中を仰反り、ぷっくりと開いた唇を貪るようにキスする桐生が見えた。
な、なんか俺の時よりねちっこくて、厭らしい……!!
見ているこちらが恥ずかしくなるほど、桐生は葉月を執拗に愛撫し反応を楽しんでいる。
踵を返し、そろそろと静かに軋む廊下を戻る。
な、な、な、なんなんだ。す、凄かった。
桐生も凄かったが、恥じらう葉月さんも年上とは思えない程の可愛さに驚く。
童顔だとは思っていたが、桐生の危うさにハラハラしてしまう。
そして他人の情事を目にして、ドキドキと鼓動する心臓を落ち着かせる。しかし、じんわりと半勃ちで反応してしまい、どうする事も出来ない。
「あれ?皐月どうしたの?え、なんで……」
「あ、蒼……!?」
その後、隠れて空き部屋でしてまい、紅葉くんに怒られたのは言うまでもない。
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