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柳田 宅 7月30日 ver.翔
その次の週末も、家呑みに誘われた。本当に呑んで他愛もない話をして、酔って潰れて眠るだけだが、楽しくて、どちらともなく、また来週、また来週、と、お互いに、そんな生活が当たり前になってきていた。
男女の関係であれば、彼氏彼女の関係にも似てるような気がするが、自分はともかく、柳田はノンケだ。そういった色っぽい話もなく、軽い下ネタが出たとしても、同じように軽く笑って、即座に終わる。
柳田は、話が上手だった。穏やかで優しい口調だが、今の姿からは想像出来ないような、過去にした悪さの話や、高校、大学時代のこと、今の会社であった面白い話など、知識も豊富で、話が尽きない。
知らなかったことも多く、点だったものが線になっていくような、納得するような話が多く、わからないことは即座に聞けば、より、わかりやすく説明をしてくれる。話題が豊富で飽きることがなかった。
そんな家飲みと、ほどよい温度に設定された綺麗で静かな部屋と、優しい笑顔に癒されて、世話をされる生活に甘えてしまっていた。
「ほら、今日は帰って、勉強をする日でしょ?もう!!意地はらないで、ここで勉強してもいいのに。」
翌朝、そう言って起こされて、シジミのお味噌汁と、ご飯と焼き魚の朝食をご馳走になって帰る、というのが習慣化してきていた。学生だという部分に、ものすごく気遣ってくれている柳田に、ついつい甘えてしまう。
いろんな資料を持ち歩くのが面倒くさくて、週末は、必ず帰宅して勉強をする、と言い張っていた。快適すぎる部屋に甘え過ぎてはいけないとは思っていたからだ。
けれど、なにをしていても楽しかった。料理が出来ないから、教えて欲しいと、まずはツマミになる料理を、と教わるけれど、口頭でされる指示が、知らないことだらけで、
「いったい、どういう食生活をしてるの?不摂生過ぎるよ?医者になったら、どうするの。炭水化物だけ取ってればいいってもんじゃないんだよ?」
普段の食事はもっぱら、カップ麺とおにぎりだと伝えると、呆れ顔で驚かれた。それくらいオレは料理が出来なかったし、腹が膨れれば良いものでもあった。
「今度の週末、レンタカー借りてくるから、荷物を1式取りに行くからね!!家に冷房ないんでしょ?それで、勉強捗るの?翔くんが夏休みの間くらいは、僕の部屋で涼みながら勉強してもいいんだよ?昼間は僕は仕事でいないんだから、丁度いいでしょ?放置したら、寝食忘れて机に向かったまま、餓死して干からびてそうだからね。」
とうとう、見るに見兼ねて、半強制的に夏休みの間の居候が決定してしまう。普段は柔らかい人なのに、妙なところが頑固で、押しが強い。
まともな食事を摂らせようと、気を使ってくれていることは目に見えてわかっていた。飲みの時の食事も、段々とバランスが良くなっていく。
「翔くんは美味しそうに食べるから、作りがいがあるね。」
「本当に美味しいんですもん。なんか、いつもご馳走してもらいに来てるみたいですみません。」
「何言ってるの。僕も誰かと過ごすことが少ない方だからね。今は週末が楽しくて仕方ないよ。翔くんと過ごすようになってから、月曜からの仕事も頑張ろう!!って思えて、色んなことに前向きになれた気がするし。」
「女性を口説く台詞ですよ?それ。」
「ん〜〜、そうかな?でも、翔くんに癒されてるのも本当なんだけどなぁ。ウトウトし始めてから、眠るまでを見てるのは、本当に癒されるよ。」
また恥ずかしいことを言う。確かに潰れるのは早いと思うが、そんなに観察されてたとは……
それでも、話せば話すほど、互いのことを知れば知るほど惹かれて行くのがわかる。
たぶん、オレは女を抱くことが出来ない。幼い頃から、男の性的対象にしかされてこなかったことも影響してるのだろうし、好きになるなら自分を抱いてくれる男しか好きになれない。本意では無かったが、後ろでイク快感を知ってしまっているからだ。
高校時代、オレは親友だったと思っていた男を中心に、校内で、ある日突然、3人の男に姦わされた。それからが地獄の日々の始まりだった。毎日のように何人もの男を相手に、売春紛いの強姦されていた。何人もの精液に塗れながら、その快楽に溺れていたのだ。
医師になる夢は子供の頃からあった。だからこそ、成績を落とさずに、大学は地元を離れ、他人とはあまり関わらないように生きてきた。実家とも、連絡は取るが、上京してから帰郷したことはない。
何人もの相手をしなければ、満足出来ない躰になってしまっているのではないか?という恐怖感は感じていた。
この柳田という男に興味を持ち、関係を持ってしまったら、2度とこの関係には戻れないだろう。丸く収まるか、完膚なきまでに砕け散るかの二者択一だ。
けれど、ノンケの柳田と、丸く収まる確率はかなり低い。この平和な関係は崩したくはなかったから、はっきりと気付いてしまった、心の奥に芽生えた気持ちを、この時には彼には告げないつもりでいたんだ。
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