9 / 114

柳田宅 10月28日 22時 ver.翔

そんな週末をゆるゆると過ごすこと三ヶ月、焦れてきたのはオレの方だった。その日は大学の試験明け、というのもあり、柳田と酒を酌み交わしていた。 つい深酒をしてしまったオレは、無粋にも酒の勢いも借りて、踏み込んだ質問をなげかける。 「柳田さんって、彼女いないの?」 話が面白くて、背が高くて、高学歴で、一流企業勤めで、顔も悪くないし、性格もいい、なんだ?この完璧な人間は?そう思い、質問したのだが、柳田の表情が瞬間的ではあったが、少し曇った。 いつもの微笑みが消え、固くなったその表情が、ひどく珍しいものに思えた。 「…いないよ。翔くん、ここ何ヶ月も一緒に過ごしてるのに、面白い質問だね。」 「だって、柳田さんだったら、告白とかされるでしょ?」 「告白ね、されるけど、それで付き合ったとしても、短期間で、振られるんだよね〜、あはは。」 瞬間的に消えた笑顔が戻り、そう言って笑う。 「どうして?」 振られる要因が、今のオレには理解出来なかった。 「女性っていうのはね、自分を1番に見てくれない男と一緒にいてもつまらないんだって。それに、僕の話は難しいって、よく言われるかな。君は頭の回転が早いから、僕の話についてきてくれるけど、皆がそうではないからね。 あとは、他に好きな人がいるんでしょ?って、よく聞かれたんだけど、僕は今まで付き合ってきた相手に、必要以上の興味が持てなかったんだ。」 「どういうこと?」 「この人のことが好きで、自分だけのものにしたい、という感情を持ったことがないんだ。人としてそういう部分が欠落していたっていうのかな。だから、付き合っても、恋人というより、友達以上の感覚にはなれなかったんだ。」 「セックスする時はどうしてたの?」 「あはは〜、ストレートにくるねぇ。そこは男だからね。極端な話、感情がなくても勃つものは勃つんだよね。そこからは勢いだったなぁ。だから、いつも淡白なセックスしか出来てなかったんじゃないかな。」 そこまで話すと、一度言葉を切った。 そして、オレを優しそうな瞳で真っ直ぐに見て言った。 「でもね、今は少しわかる気がするんだ。翔くんと出会って、今がすごく楽しいんだ。少し自分がかわった気がするよ。こういう気持ちを女性に向けれたら、恋愛も結婚も出来るんだろうね。失礼な言い方だけど、翔くんが女性だったら、間違いなく僕から口説いていたと思うよ。」 そう言って、いつものように微笑んだ。何故、柳田の話し方が過去形だったのか、オレは、その言葉を良いように理解した。酔いというのは恐ろしいものだ。 オレは、しばらく抜いてないのもあり、その笑みに、ムラムラっとしてしまった。四つん這いで柳田に近付いて、ラグの上に押し倒すように、柳田の上に馬乗りになって顔を近づけた。 「柳田さんはオレの事好き?知ってます?男同士だって恋愛は出来るし、セックスだって、出来るんですよ。」 思わぬ至近距離と、その言葉に目を丸くして、絵に描いたような表情のままの柳田を引き寄せ強引にキスをした。 最初は触れるだけのキスを3回。1回、1回、顔を覗き込むが、最初は戸惑った表情はしたものの、嫌がる気配はない。言葉を発することも無く、殴られることもない。 今度は、唇を舌でなぞると、柳田の唇が軽く緩く開いていく。今度は舌を入れて、深く口付ける。舌を絡めると、また、最初は戸惑うようにだったが、それに応えるように、彼も舌を絡めてくる。 ゾクゾクっと背筋に快感が走る。オレの方が感じ入ってしまって息が早々にあがってしまった。 形を変え始めた下腹部が、緩い短パンを押し上げ、その存在を主張してきていた。それが視界にはいったのか、 「……翔くんが僕を抱くの?」 不安そうに柳田が尋ねてくる。オレが柳田を押し倒しているわけだから、この体勢なら、間違いなく誰でもそう思うだろう。それでも、意地悪く聞いてみたい、と思った。 「オレは柳田さんが好きだよ。セックスしたいくらい好き。柳田さんはオレに抱かれてもいい、と思う?」 「……僕も翔くんの事は好きだけど、それが友情なのか、恋情なのか、よくわからないんだ。僕は抱かれたことは無いから、よくわからない。わからないことだらけで、混乱してる……かな。」 「試してみる?」 「……そうだね。なにか答えが出るかもしれない。」

ともだちにシェアしよう!