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12月 健康診断結果① Ver.徹

きっかけは初夏に受けた会社の健康診断で引っかかり、いつまでも再診に行かない僕に総務から命令が出て、12月の忙しい時期だというのに、半ば強制的に会社命令で、週末を利用して人間ドックに入った。 正直、翔との時間を取られるというのは不本意だったが仕方ない。 数日後、半休を取り、結果を聞きに病院へと足を運んだ。 『どなたかご家族と一緒にこれませんか?』 前もって、こんなことを言われること自体、碌な結果ではない、とは思うが、親兄弟は田舎で、すでに他界した父に変わり、姉が子育てをしながら、アルツハイマーで、すでに寝たきりになっているの母の介護をしている。 義兄も、自営の仕事が忙しく、週一ペースでしか休むことなく、家族を養う為に働いている。連絡こそ、たまにとっているものの、介護と子育てという過酷な生活状況の中、唯一の姉に来てもらうことも躊躇われた。 だからといって、結婚してるわけではないから、そういった部分での家族もいない。 自分より遥かに年が若い、医大生とはいえ、まだ、付き合ってるだけの状態パートナーだからといって、翔を連れていくのもおかしな話だ。なにより、臨床試験直前の今、心配をかける時期ではない。 悩んだ挙句、上司にお願いをして、話を一緒に聞いてもらうことにした。嫌がる僕を、人間ドックへ放り込んだ張本人を捕まえたのだ。 このまま、何か問題があるなら、会社に迷惑をかけることにもなるだろう。手続きや話を伝える手間は省けて、多少は楽になるだろうが、結果次第では、入院も覚悟する必要があるかもしれない、そう思ったのも事実だった。 社内の誰かと聞いていた方が、説得力も生まれるだろう。 入院、最悪は手術をするのではないか、くらいの心構えで病院へと足を運ぶ。ここのところ働き詰めで、休みも少なかったから、多少、休めると思えばいいんだ、と。 確かに、ここ数ヶ月、夏を過ぎた頃から、体調不良は自覚していた。翔にも、何度となく顔色が悪い、とは言われてきた。けれど、ここにきて思いも寄らない結果を聞くことになった。 「大変申し上げにくいのですが……」 そんな出だしから医師の話は始まった。 結論から言えば、ステージ4の末期ガン。 残された余命はあと半年あるか、ないか。 数カ所に転移したガンの切除は可能な場所と不可能な場所、それぞれに点在しているとの話だった。 すでにリンパに転移してるものもあり、ほぼ、全身が癌細胞に侵されている、といった状態だ。 「健康診断の直後に診察に来てれば、ここまで進行してなかったかもしれませんよ?」 そうかもしれない。こんなに呆気ない結末を迎えることはなかったかもしれない。 肝臓、腎臓、脾臓、膵臓、沈黙の臓器と言われる場所から広がった癌は、痛みを伴うことなく、多少の体調不良で着々とその進行を広げていたのだ。 これから先は、何処に転移してもおかしくなく、場所によっては、苦しむことになるだろう、とも言われた。 上司は、言葉を失ったように青ざめて俯いていた。短期間で転移を続ける進行性のガン。確かにショックではあるが、僕は結果を静かに受け止めることが出来た。 誰しも、自分がまさか……? と思う結果だと思う。 まだ、ギリギリ30歳手前で、癌になる確率も、それほど高い年齢ではない。お酒は嗜む程度でタバコを吸うわけでもない。それでも、未来がない、と宣言されたにしては、現実味がないのが正解、と言ったところだろうか。 予想外に、ここで人生を終らせることは、あっさりと受け入れることが出来た。 ただ、心残りは一つだけ…… 「手術をして取れる場所は切除してその他の部分を抗がん剤治療を、という方法もあります。 抗がん剤治療を行うか、行わないか、は、ご本人の意思にお任せしますが、少しでも進行を遅らせるために、抗がん剤治療を受けられますか?…と言っても、いきなり無菌室でのつらい治療を行うわけではありません。負担の少ない錠剤での投与で、様子をみていこう、というものです。 それでも、体力が落ちたり、食欲もなくなったり、体調不良を訴える人もいます。お仕事は、出来れば休んでいただいて、療養という形を取るのが良いと思います。 切除手術を希望される場合は、入院をしてもらいながら、投薬治療を含めて、経過を診ていく形になります。 どちらを選択しても経過を診るために定期的に通院はしていただく形にはなりますので投与についてはご本人の意思にお任せしています。」 「……お聞きしますが、手術をしたところで余命は変わらないんですよね?」 「……そうですね。抗がん剤治療で、少しは変わるかもしれませんが……完治はお約束できませんし、多少の延命処置、としか……」 医者は、渋い表情をしながら、にらめっこをするように、映し出されたMRIの画像をクリックし、画像を動かしながら、再度、ガンの位置を確認するかのように、ディスプレイを見つめながら言った。 どちらにしても、もう会社にはいられないし、長期療養をしたとしても、戻ることなく死ぬだろう。 「……結果が変わらないのであれば、手術も抗がん剤治療も受けません。」 それならば、と、はっきりと医師に告げた。 「……お、おい、柳田?!」 上司は驚いた表情(かお)で僕を見たけれど…… 僕は受け止めてしまったのだから、気持ちに変更はない。 抗がん剤治療が辛いことは、話の上だけだが、知ってはいた。何をしたところで、死を迎えるまでの時間がわずかにしか変わることがないのなら、足掻くだけ痛い思いをして、加えて、辛い思いをするだけだ。 どうせなら、翔が医者になる姿までは見たかったけれど。そこまで保つことはないだろう。 ならば、答えは一つだけなのだ。 「……そうですか。わかりました。私は今後、柳田さんの担当医になります児嶋です。」 これが、児嶋医師との最初の出逢いだった。

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