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2月の終り Ver.徹

徐々に荷物を移し、新しいマンスリーマンションに荷物も運び終えていた。もう、前の部屋にはリサイクル業者が入り、部屋はもぬけの殻になっていることだろう。 最後の週末に、渋る僕を強引に誘い出したのは翔の方だった。すでに引越しを済ませていた僕は、半分は別れる為に引越したのに、部屋に呼ぶわけにはいかない。 勉強に行き詰っているなら、気分転換が一番だ、と、ドライブに誘うと翔は喜んだ。 少し遠出をして、伊豆方面の海を見に行った。 湘南だと季節問わず混雑しているだろうと選んだ伊豆は正解だったらしい。 海風に当たったり、お昼に海鮮を食べていると、嬉しそうに刺身盛りに手を伸ばし、勢いよくご飯を食べていた。 食の進まない僕を気遣いながらもお腹の調子が良くない、と言うと、僕の分の刺身をおかずに嬉しそうにご飯を頬張っていた。 その姿が見れただけでお腹いっぱいになれた。 帰りの車の中でも、他愛のない話をしながら、僕は最後の言葉を復唱していた。このタイミングで言うしか、僕の逃げ道はなくなるだろう。 試験を控えた翔には可哀想な思いをさせてしまうかもしれない。僕のエゴを恨みや憎しみに替えて前に進んで欲しいと願う。 ドライブをしたあと、彼の家の近くに車を停めて、別れを惜しむかのようなキスをした後、僕は何度も復唱してきた言葉を舌に乗せる勇気がなかなか、わいてこなかった。数分、沈黙が続く。やっと重たい口が開いた。 演技だとバレないように、声を震わせないように、精一杯の虚勢をはる。 「……翔、ごめん、君以上に好きな女性が出来たんだ。結婚を前提に付き合うことになった。年末は、親兄弟に彼女の紹介も兼ねて帰郷してたんだ。 だから、今までみたいな関係は、もう続けられない。これからは君に会う時間も取れない。不貞を続けられはしないだろう?翔も愛人なんて嫌でしょ?だから、今日限りでこの関係を終わりにしたいんだ。」 「はぁ?なんの冗談…?」 最初こそ、突然の言葉に驚いて、冗談だと否定してくれ、という表情をしていた翔だったが、それでも、僕も必死に表情を作り続けた。次に何か言葉をを発したら、気持ちが揺らいでしまいそうだった。 悔しそうに、少しの言葉を投げつけてきた翔は、それでも、納得をしなきゃいけないのだと思っているのか、黙ったまま、悲しそうでいて、泣きそうな表情で僕を見上げていた。握り拳を血管が浮き出るほどに握り込んでいた。 そして、納得しないまま、怒って車を降りて行ってしまった。振り返ることもなく。 これで良いんだ… そう言い聞かせながら、翔と別れた場所から、翔がアパートに到着した事を確認した後、車を移動させるけれど、溢れる涙が堪えきれず、目の前に見えた近くのコンビニの駐車場の隅に車を停めた。 泣き出しそうな表情が目に焼きついている。今になって、身を裂かれるような激しい胸の痛みと、彼への未練で、押しつぶされそうになりながら、止まらない涙に苦しめられた。 義兄の言うように、すべてを打ち明けた上で、共に時間を過ごすべきだったのだろうか? けれど、それでは、諦めた生に縋りつきたくなってしまうだろう。 残された時間は、刻一刻と削られている。 筋力も、体力も落ちてきているのもわかっている。着々と転移を続けている病も、多少の進行を抑える薬を服用しているとはいえ、痛みを伴うようになってきていた。もう、痛み止めも、段々と使用量が増えてきている。 その痛み止めがモルヒネに変わるのも、時間の問題だろう。微弱な抗がん剤も、仕事を退職すれば、ストップさせる予定だ。そうなれば、一気に進行をするだろう。 辛い気持ちは、時間が風化してくれる、そんな言葉を耳にするけれど、翔への気持ちは、消えるどころか、時間が経てば経つほど、ますますの未練を増していくばかりとなってしまった。 初めての恋はあまりにも不器用で、情けないものだった。

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