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4月〜臨床実習 Ver.翔

心配していた試験も無事に好成績で合格し 改めて心配なく進級を迎えた。 五年生になり、臨床実習がスタートした。 二週間周期で各科を回り始めると、毎日が新鮮だった。 外来から始まり、病棟研修も、想像していたよりはあっけなく過ぎて行く。 まだ、医師ではないので、治療を施す、というよりは、見学しながら、どのように対応するか、処置するか、を学ぶ場になっている。 興味深ったのは小児外来だ。 小児科、産婦人科は時間が不規則な上に休みも少ない、という理由で希望者は確かに少ないが、ここの病院の小児科医は比較的多い患者を確保していた。女性の外来専門医を数人置いていることが一番の理由だろう。 けれど、様々な症状でくる子供達の流行病を診ながら、その症状に応じて、検査を受けさせると、大概、予想通りに引っかかる。 外来に来る患者の大半は、何らかのウイルス感染や怪我などをした子供たちだ。おたふくや水疱瘡、麻疹、風邪や時期外れのインフルエンザ、RSウイルス感染、これからの季節は、溶連菌や、プール熱、流行り目なども流行りだす。小児の感染病は、誰もが通過するものだし、症状が軽い小児のうちに済ませなければならないものもある。 元々医者を目指したきっかけは、小児医療だ。心疾患を持って生まれたが為に、子供の頃は、心臓だけでなく、身体も弱かったが為に、入退院を繰り返していた。病院内で友達になった子供が、何人も夜中に容態が急変して、亡くなった。子供心にその事に傷ついたりもしていた。 小学生になる頃には、心臓に空いていた穴は塞がり、何の問題もなくなっていた。 それからは、体力作りの為に、スイミングに通わされたりもした。 逆に小児病棟で入院している患者は、自分が見てきた世界と同じように、深刻な病で入院している子供が多かった。年齢も様々だが、小児癌を患っている子供や、重い心臓病を抱える子供、障害を持った子もいれば、骨折、事故などでの怪我をした子供もいる。 どの子供たちも、明るく、人懐っこい。退屈な入院生活の中、医者の卵のオレの仕事は、その子供たちの遊び相手が大半になる。学校に行けない、と嘆く子供たちのために、簡単な勉強を教えたり、簡単な遊びを一緒にする。明るくて元気なように見えても病人で、点滴を引きずりながらプレイルームに来ている子供たちも多かった。自分の友達たちも事実そうだった。 「子供たちの扱いに慣れてるのね〜。イケメンで優しい先生、って、子供にもお母さんにもすごい評判ですよ。」 看護師にそう言われ、苦笑いする。 「オレは子供の頃、小児病棟の常連患者だったんで、そっち側の気持ちがわかるだけです。」 「あら、本当?そうは見えないわよ?子供にもお母さんにも看護師にも大人気の高宮先生には、是非、うちに来て欲しいわ。私たちも目の保養になるし。このまま残って欲しいくらい。」 そう言われるのは嬉しいが、ここで医師にはなれない。 「ありがとうございます。でも、まだ僕は学生ですから。」 と笑顔を作り言葉を濁しておく。この、人の良さそうなベテラン看護師の小児病棟の看護師長の矢橋も口調が柔らかく、他人に威圧感を与えない。いい看護師だと思う。 次に行った皮膚科も同様に湿疹一つで、何によるかぶれなのかを一目診ただけで、薬を処方する。経験、実績をみるには最高の現場かもしれない。 判断が難しいものもあったが、医師たちはそれぞれに検査や知識をフル稼働している。 予想外に、レーザー治療が多いことに、興味が湧く。シミやほくろの除去の治療だけでなく、タトゥを消したい、という人が、予想外に多い。 一時の感情で彼氏、彼女の名前を彫ってしまうと、彫る時も痛いだろうが、消すのには、もっと時間も費用もかかるし、治療後の火傷のような後が痛々しい。 全てを覚えきれるとは思わないが、それぞれの科の診察や診断は、面白かった。 そんな日々に慣れてきて、毎日が充実していた。以前の生活に戻ることが出来て、もう、今は辛くはない。 もし、偶然彼に会うことがあったとしても 彼が望むような医者になって、胸を張って 『今が幸せだ』 と笑顔で伝えることが出来るような医者になりたかった。 そのために、日々の各科の観察と努力は惜しまなかった。 そして、翔がこの病院を選んだ理由…… 自大病院では受け入れのないからこそ選んだ救命救急の順番が回ってくる。

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