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救命救急 ① Ver.翔

他の科と違うのは対応が24時間、いつ、どんな患者が運ばれてくるのか、わからない。 それぞれの科の担当医の宿直はあるけれど、 特に、夜間に最初に緊急搬送されてくるのは救命救急だ。 学生の身では、昼間の救命救急の見学が主となってるが、それでも、色々な患者は搬送されてくる。 休んでる時間は、本当にくたびれていて、動くのも大変そうなので、お茶やコーヒーを用意する。それを口にしながら、だらしなくソファに身を沈めていても、緊急搬送の連絡が入れば、人が変わったように機敏に動き出す。 患者には疲れを見せず、全力で蘇生させている姿はかなりの迫力だ。看護師のアシスタントにもなれない自分とは大違いだ。 ここで救命救急さえ経験すれば、他の実習は自大病院でもいい、とさえ思うほど、ここの救命救急には期待をしていた。実のところ、鈴木を担ぎ込んだのも、ここの救命だ。 救命医の佐川とは、大学絡みで互いに見知ってはいた。あの時に受入体制を取ってくれたのも佐川だった。 『高宮くんがいてくれて、助かったよ』 あれから、1年、学生の身分ではあったけれど(未だ学生だが)、そんな一言が嬉しかった。 腕や足の骨があり得ない方向に曲がった事故患者や、血塗れの事故患者、呼吸不全の老人、親の不注意で火傷や誤飲をした子供達。意識混濁で、くも膜下出血の可能性のある患者、色んな患者が無差別に運ばれてくる。 けれど、よほどのことがない限り、毎日、大量に搬送されてくるわけでもなく、時間に余裕がある時もある。 その日も、オレがいる間には搬送がないのではないか?と思ったその時に、緊急搬送の連絡が入った。 その患者はこの病院の外科に通う男性。内臓不全の呼吸困難で運ばれてくる、との連絡があった。外科のナースステーションにカルテを取りに行って欲しい、との救命医の佐川からの指示で、外科のナースステーションへ向かう。 電子カルテもあるはずだが、特に搬送が多いその男性だけは、一刻を争うことが多いらしく、電子カルテをプリントした中に、ナースからの書き込みがあるため、救命では、その時の記録を探す時間を短縮するために、未だ紙を使用したカルテを使用していた。 かなり頻繁に入退院を繰り返しているらしく、外科のナースが保管しているという。 かなり気が利くタイプの佐川は、連絡を先にいれてあるから、受取るだけで大丈夫だから、と軽い口調で告げた。 外科のナースステーションにたどり着くと、外科の看護師長の新海が、申し訳なさそうに、 「取りにきてもらっちゃってごめんなさいね。午後回診があるから、身動きがとれなくって。来てもらって助かるわ。これ、頼まれてた患者さんのカルテ。よろしくね。」 そう言って渡されたカルテの名前を見て目の前が歪む。 ーーこんなことって………!! オレは、そのカルテを見つめたまま、フリーズしてしまった。倒れなかったのが不思議なほど、グルグルと目が回る。何かで殴られたのではと思うほどの衝撃を受けていたが。 「高宮くん?」 新海がいつまでも動かないオレを不思議に思い声をかけてきた。 「……あの…すみません、この患者(クランケ)って……」 「あ、柳田さん?可哀想よね、この若さで……たぶん、そのまま入院になると思うから、その時にはまた、高宮くんについて来てもらおうかしら。私たちの目の保養に。」 そんなナースの軽口も耳に入らない。その名前、生年月日、そして、その内容……… 末期の進行ガン………ステージ 4 余命半年未満 抗がん剤治療、拒否 告知の日付は、去年の12月。 …………………………………ナニコレ?

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