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独占の刻印 Ver.翔

聞いたことのないような冷たい口調が、頭上から降ってきた。 徹は何かを聞き出したいのか聞き返してきた。 完全に固まってしまった。自分でも何を言い出そうとしたのか思い出せない。 いや、言えない。 だから取り繕うしかない…… 「……ごめん、何を言おうとしたのか…… 忘れた……」 ポカンとした間抜けな顔で、正直に応えた。 徹もなにか苦い顔をしていたが、その答えに 吹き出した。が、寂しそうに 「たまに考え込んでるから、なにか悩みがあるのかな?と思ってたんだけど、こんな僕じゃ力になれないよね。」 「……そ……そんなことない。徹が……徹がいてくれるから、オレ、頑張れてる。」 そう。この状況を守るために、この人の命を 護るために、児嶋に躰を売っているんだ。 「医学の勉強のことは僕にはわからないジャンルだから、応えてあげようがないけど、なにかあるなら話して欲しい。」 そっと手を伸ばされる。その手が嬉しくて、 ベッドへ入り込んで、その腕の中にするりと 入り込む。前の病室の頃からこっそり ベッドで抱き合っていた。 個室になってからはその機会も多くなる。 たとえセックスが出来なくても、徹の腕の中は気持ちいい。その胸に頬ずりするように顔を うずめると頭を抱きしめてくれる。 ふと、鼻をくすぐる徹の匂いが好きだ…… 「オレは徹の笑顔に癒されるんだ。徹がいてくれれば、なにも望まない。」 そう……このぬくもりを護りたいんだ。 「僕としては、それは、ずいぶんと寂しい 意見だなぁ。笑顔だけ?」 そう言ってキスを落としてくる。 顔をあげてオレはその唇を再度求めて貪った。シャツの中に入り込んできた手が肌を撫で回す。その気持ち良さに反応してしまう。 「……んっ……ふっっ…」 キスの合間に吐息が漏れる。 シャツが捲られて肌にもキスを落としてくる。激しく抱かれたい。そんな気持ちになるような愛撫にもどかしくなることもある。 自分のものだと主張するように最近、徹はキスマークを残す。都度、児嶋はそれに触れて嫉妬するかのように荒々しく攻めたてた。そのキスマークの上を、さらに吸い跡を強く残す。 「……本当に君は敏感だね」 その言葉が児嶋の声と重なるように耳に響き、ビクッと躰が強張った。けれど、乳首に触れた舌に感じてすぐに躰が弛緩する。 「……徹……これ以上は……止まらなくなる」 これが終了の合図。徹の体調も考慮して、 一定時間で止めないと命に関わる。 徹はハードな運動が出来る身体には戻ってもいない。それに男性機能も失われている。 躰の時間の流れがゆっくりになっているだけなのだから。薬の反動なのか勃つこともなくなっていた。 「なんか、通販届いたんだけど、ここ、置いとくね」 徹宛に通販が届いた。物欲が出るのは良い兆候なのだろうが、何を頼んだんだか…椅子に座ると徹が、 「産婦人科はどう?」 「別に。初期の妊婦検診は、超音波検査は突っ込むからね。ノンケなら喜ぶんだろうけどね。 まぁ、計画妊娠は喜ばしくていいんだけど、 できてたからって堕ろすだとか、風俗嬢が性病にかかっただとかいう話が、思ったより多かったことにうんざりする。」 ノンケであっても見るだけ、というのは限度があるらしい。最初こそ下心で見ていても、繰り返していく内になんとも思えなくなってくるみたいだ。男性医や実習生には患者一人につき、女性の看護師や助産師が監視に入るのだが、 それは法で定められていることだ。 性的犯罪を防ぐ為に第三者の目が入るのだ。 「翔の希望ってどこなの?」 「話したことなかったっけ?そういえば。 心臓血管外科だよ。今までは、ね。今は…… 迷ってる。とにかく医師免許がまずは先かな。初期臨床研修で最終的に決めればいいと思うし、大学に残る選択肢もあるし…」 大学に残れ、という話は、担当教授から 話は出ていた。 「そう……か……医者の姿、見たいなぁ。 外科に来たら見れるかな?」 「そうだなぁ……見れるんじゃないかな。 医者いうよりは、今は看護師見習いみたいだけどね。」 たとえ、児嶋に着かなくても、姿くらいは見せられるだろう。けれど、あの男が手を回さない訳はない。たぶん、外科にきたが最後、連れ回されてはセクハラ三昧になるだろうことは想像出来なくはない。 それを考えるだけで憂鬱になってくる。 まだ、児嶋のいる外科には、外来も病棟も実習は回ってきてはいない。 医師が実習生に手を出すリスクは大きいはずなのに、その延命を脅しに使ってまでも、児嶋が男の、実習生のオレの身体を求める理由が、全くわからなかった。

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