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リアルと疑問 ver,徹
実習中とはいえ、期末考査を終え、試験休みからの夏休みに入り、翔の実習も休みに入った。が、彼は変わらず見舞いにきてくれていた。
僕の方は治験薬投与のおかげか、まだ、自力で動けるとはいえ、ギリギリの状態だった。
車椅子や寝たきりに近づいていってる気がしてならない。実際、翔がいなかったら寝たきりになっていたかもしれない。
僕自身、治験患者なのもあり、薬の効果の確認の検査は、他の患者よりも多くなってしまう為、いつ、何時から検査があって、どれくらいの時間がかかるのか、は、事前に話していた。
だいたいは、その時間に合わせて来ていたり、部屋にいない間も、誰もいない部屋で、勉強をして待っていてくれたりした。クーラーが効いてるからいいね、と微笑む。
僕が借りているマンションにも、エアコンはついているが、1人の時に使うのは気が引けるのだと言う。
変なところで貧乏性なのが、少し不憫に思う。
雪の多い北国の方の僕の出身と違い、彼は同じ本州でも関東からは南の方面の出身のはずなのに。けれど詳細な彼の出身地を僕は知らない。
その日も、点滴を支えに検査室に向かおうと、ゆっくり歩いていると、階下の目線の先に児嶋と翔が何かを話しながら歩いていた。
好きな人、というのは、特別なのだろうか?
すぐに見つけることが出来てしまう。特に階下にいるのはその2人だけではない。
今日の検査のことは伝えてあったので、翔が来る時間にしては、約束してた時間とは違い、
かなり早い時間だ。
なにか、他に用事があるのだろうか?
研修も休みのはずだが、それを差し引いても、何かがおかしい。
それに今日の検査には、児嶋は立ち会わないはずだった。吹き抜けになっている所為で、階下の状況は見えるものの、話の内容までは聞こえては来ない。
これは僕の偏見かもしれないが、児嶋は舐め回すような、いやらしい目で翔をみているのに反して、翔の表情は堅い。
けれど、何か、言い合うような調子で会話をしていた。なにかを拒否をするような……
そんなイメージだった。
僕の病状のことだろうか?もし、そうであるなら、主治医としての児嶋の表情は、深刻さのカケラもない。
僕のことだけではなく、他人の命の話をするのに、妙に高圧的であり、軽口を叩いてるようなそんな表情をするのであれば信頼するに値しない、そう思った僕は、その話の内容が気になりだして止まらなくなった。
こっそり2人の会話を盗み聴きする気満々で、後をつけていくのだが、向かっている方向がなんだかおかしい。
実習でもないからなのか、外来も病室も検査室もない方向へ向かって行く。翔の足取りは重そうだった。人気が無くなった途端に、翔の方を抱き始めた児嶋も気に入らない。
廊下には、点滴のタイヤの音すら吸収してしまうような絨毯が敷き詰められ、この先になにがあるのか、僕も知らなかったが、医療関係者でも、上のクラスの医師が使うのであろう仮眠室のような扉が並んでいた。
その中の一つの個室に翔の方を抱き、押し込むように連れ込み、鍵をかけた音が静かすぎる廊下に響く。
扉に耳をくっつけて、出来る限りの音を拾うために耳を澄ます。その区画は、とても静かで、扉は重厚そうではあるが、微かに中からは、何か話してる声はするものの、なにを話しているのかまでは、はっきりとは聞こえなかった。
ただ、それでも、翔の声がいつもの僕と話している時のような優しい口調ではないことだけはわかった。
それが少しの間、静かになった。
しばらく静かになっていた、と思っていたが、次に微かに漏れて来たのは、僕の腕の中でしか聞いたことがなかったはずの翔の快楽を告げる 声と、それを楽しむような児嶋の声。
僕はその場で目を見開いてフリーズした。
呼吸がうまく出来なくて苦しい。
ショックで胸が痛い…………
心の何処かでわかっていたことだったけれど…
思ってた通り、翔は児嶋に狙われていたのだ。
それからジワジワと湧き上がってくる児嶋へと自分へと向けた怒り。
そして、疑問。
何故、翔が児嶋の手に堕ちたのか?
あの様子からして、自分が中途半端にしか
抱いてあげられないからその先を求めたのか?いや、そんな底の浅い人間じゃない。何か理由があるはずだ。
けれど、わからないことだらけだった。他人に抱かれた翔の声を聞き続けることが苦痛となり、僕はその場を全速力で離れたのだった。
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