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面会拒絶 Ver.翔
徹がICUから、病室に戻れるまで、
ただでさえ残された時間が、
どれくらいあるのか、わからないというのに、数日を無駄にしてしまった。、
それでも、蘇生できたこと自体が
奇跡なことは確かだ。
なんで、こんなことに………
あの時は、頭を抱えるしかなかった。
その時と比べれば容態は安定して、ガラス越しのICUでの徹を遠くで見つめるにも、安心できるほどだった。
けれど、徹は気付いた看護師が耳元で、オレが見てることを伝えても、こちらを見ることは一度もなかった。
いつも天井を見上げたまま、何かを考えている風でいて、ぼーっとしている。たまにちゃんと呼吸をしてるのか不安になるほど、身じろぎ一つしない。
いろんなカテーテルを入れられている身体は、心拍や血圧が表示されてる機械にも繋がっていて、バイタルは正常値で、ちゃんと生きていることは確認出来る。
離れていた数ヶ月を考えれば、今、こうやって姿を確認出来るだけでも幸せなことなのかもしれない。
なんらかの形で、児嶋とのことがバレたのかもしれない。だから、オレにも児嶋にも会いたくない、と思うのかもしれない。バレたにしても、どこまでバレたのだろう?
ガラス越しに徹を見ていたら、佐川に
「ちょっと付き合え」
と救命の医局の休憩所に連れていかれた。
都合よく、なのか、そのタイミングを狙っていたのか、休憩所には、誰もいなかった。
温められすぎて煮詰まっているであろうコーヒーを2つコップに入れて、片方をオレに渡してくれた。口をつけてみると、運良く誰かの淹れた直後らしく、まだ、美味しい状態だった。
「柳田さんのことなんだけどさぁ、実のところ、もう、とっくに救命から個室に移れてはいたんだけどさぁ、気持ちがまとまるまでは置いて欲しい、って言われたんだ。
俺らがとやかく言うことではないのかもしれないけど、何があったの?高宮くんも変な時期から、すごく様子がおかしいし。
医師連中はともかく、ナースたちの噂になってるよ。なんか、問題抱えてない?」
まさか、表に出ていたとは、不覚だった。
「……直接は、何もないです。
オレは一秒でも長く、柳田さんに
生きて欲しい、と願っているだけです。
どうしてでしょうね、
依存率が高いんですかね」
佐川は横目でチラリとオレを見た。
「おまえさぁ、柳田さんと恋愛関係にあるの?
見舞いの回数とか、立ち寄りとか、
はっきり言って、医師と患者の関係としても、男同士の友達としても、異常だよ。
たぶん、あの救急車の時が初対面だろ?
あの時と今では纏う空気が違うんだよ。
性癖までどうこう言わないけど、変な色気を
撒き散らしているから、気をつけろよ。」
「……誰にですか?」
「今の高宮くんの状態だと、男女問わず襲われる可能性があるってことだ。俺はノーマルだが、ここで俺が君を押し倒しても、たぶん欲情できる気がする。それくらい危険だと言うことを自覚しておいた方がいい。」
今更な話かもしれないが、これ以上の厄介ごとには巻き込まれたくないのが本音だ。
「ご忠告、ありがとうございます。襲われないように気をつけます。」
頭を下げて顔を上げた途端に、目の前に佐川の顔があった。驚いて、後ろに一歩引きかけたが、佐川はその腰に手を回し、顎を上げ、その唇を押し付けてきた。
驚きに開いていた唇の隙間から舌が入り込み、口内を蹂躙する。何が起こっているのかわからないまま、歯列をなぞり上顎を舐められる。
絡まる舌が気持ち良くて躰の力が抜けていく。チュクチュクと音を立て、糸を引きながら、
唇が離れる頃には、自力で立っていることすら出来ない。
「ほら、隙だらけ。高宮くんくらい綺麗だと嫌悪感なく、男でもイケるな。それに、その表情、やばいわ。今すぐにでも抱ける気がする。
万が一の時には、次の候補に入れてよ。さすがにここじゃ続きは出来ないからね。」
そう言いながら、シャツの裾から、手を差し入れて、誰もが弱い脇腹を撫でながらシャツをたくしあげる。
「へぇ、柳田さんもちゃんと主張してるんだ。
けど、それだけじゃないね。
すでに、お手付きなの?
それとも、柳田さんで脅されてるの?
一部で噂になってるんだよね。
児嶋先生はゲイなんじゃないか?って。」
顔面蒼白で口をパクパクさせることしか出来なかった。
「ふぅん。そこまでしてもでも、彼の命が大事なんだ。あの人は運ばれてくる度に、延命するなって言うけど、そこまで高宮くんに尽くされてるのにね。俺には君らの関係が理解出来ないよ。でも、俺も本気で君を口説くことにしようかな。児嶋先生は正直、好きじゃないし。」
医局で、なんていう爆弾発言……
佐川は尊敬する先輩だ。まさかの出来事に、
オレは唖然とすることしか出来なかった。
手を離されたオレは、床にペタン、と
崩れ落ちるように座り込んでしまった。
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