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選択肢 Ver.翔

会わせてもらえないまま、ICUでの蘇生後、 血圧上昇により、ICUを追い出されてから、 あっという間に過ぎた5日間を乗り切り、 今日から徹は病室に戻るというのに、 オレはまた、児嶋に拉致されていた。 徹の新薬の経過は良好で、ガンの進行を、 僅かだが遅らせていることが、 ハッキリと確認出来ていて、 MRの研究室から派遣されてきている 松野も、想像以上の効果に 驚いてるようだった。 「驚きですね。柳田さんのパワーは 未知数ですね。 これだけのガンを抱えたまま、 全力疾走ですか。 興味深いですね。何があったのか わかりませんが、たぶん火事場のくそ力、 というヤツなんでしょう。 彼の場合、最初にお話させてもらっていた 時点での身体の状態からしても、 自力で歩けること自体が、不思議なほど でしたからね。 うまく培養してけば、この薬は うまく化けるかも知れませんよ? それが何年後になるかは、わかりませんが。」 将来的な話だ。最近、世間で騒がれている 『万能細胞』に化けるかもしれない、 という仮想的な話でしかない。 けれど、それが完成するのには、 かなりの時間を要するだろう。 オレが生きている間に完成するかどうかさえ、 謎だ。どちらにしても、全身を蝕まれている 徹では、それでは間に合わない。 今すぐにでも、今と同じように点滴を使って、 悪い細胞を死滅させて、 その部位を再生させる、としても、 間に合うかどうかさえ、わからないのだ。 徹に残された時間は短すぎる。 そんな話をぼんやりと児嶋の利用している 医局の休憩所兼応接間にある 小さなベッドの上で、 そんな会話を聞いていた。 病室のようなカーテンが閉められているだけ ではあるが、相手からはこちらの存在は わかってはいないだろう。 あんな事があったというのに、 児嶋のセクハラは未だ続けられていていた。 手を縛られ、今も少しでも身動きをしたら、 後孔に嵌められたオモチャが前立腺を 直撃して、1人で悶えてしまうことに なるだろう。 手のひらサイズの小さな、流線型の 定規のようなものだが、その先端は、 前立腺の良いところに当たるように 出来ている。少し前まで、 そのオモチャについてる輪の様なところに 指をかけた児嶋が、粗相をした子供のお尻を 叩くようにそのオモチャがアナルを 出入りしていた。 エネマグラという厄介な代物だ。 「…くっ…ふっ…うぅん…」 出来る限りの小さな声で喘がされていたのは わずか数分前だ。 たとえ小さくても声を出せば、 至近距離にいる松野には気付かれる。 いつもより大きな声を出してしまえば、 ドアの向こうまで聞こえてしまいそうな 部屋の中は、いつもの部屋よりも声を 抑えなければならない。 徹を人質に取られてしまえば、 反抗することも出来なかった。 そのセクハラの後、児嶋自身の仕事の関係で、やっと開放されたのは、松野が帰った30分後 だった。 そのまま、病室に向かい、遠慮がちに 部屋へ入る。 あれからまともに話をするのは、 初めてになる。 ドアの前で多少の躊躇のあと、 部屋のドアをノックし、返事を確認する。 それでも、万が一、あの日の原因が なんなのかを聞く勇気がない。 もし、聞かれてら…… もし、バレていたら…… なんて、説明したらいいのだろう……? バレてないとはいえ(たぶん)、 先日の佐川とのことも、重くのしかかる。 そんな杞憂とは裏腹に、扉の向こうの徹は、 いつもと変わらぬ笑顔でオレを 招き入れてくれた。 「……久しぶりだね、翔……」 何かを吹っ切ったような感覚がする。 まさかだとは思うが……

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