「徹が今、欲しいものってなに？」 突然の質問に僕の目が点になる。 そのままの表情で、一言だけ 「翔」 と指を差す。 「オレ以外で！！それと人に指ささない！！」 真っ赤な顔をして、反論してくる。その表情がすごく可愛らしい。成人男性に言うことでもないのだろうけど。照れてる姿が愛らしい。 それに僕は、いくつかのことに気付いている。 本当に欲しいのは『翔』の心と躰だ。 ｢僕に物欲はもうないよ。手に入れたいものは翔だけだよ？｣ それは嘘ではない。今の僕の世界には翔しかいない。その為に生き抜いたようなものだ。 たぶん、先日届いた通販のことを聞きたいのだろう。持ってきたそれに少し興味を示した。 「通販やってるのに？」 案の定、その答えが返ってきた。 「あれは特別だよ？見てみる？」 そう言って箱を開けて中身を出す。 「……なっっっ！！！」 翔は、さらに真っ赤になりながら、言葉を失っていた。 「今の僕じゃ君を満足させられないからね。物には頼りたくはなかったけど……」 そう言って見せたのは、大人のオモチャだった。 「ネットって、本当に便利だね。コンドームだろうが、専用ローションだろうが、簡単に手に入るよ。夏休の勉強の時間を使って、これをいれて一日過ごしてみてよ」 エネマグラ……ほかのディルド類には目を向けていたが、それを見た瞬間だけ、真底嫌そうな顔をした。嫌な思い出でもあるのだろうか？ ｢病院にパソコン持ち込んで、何をしてるのかと思ったら、こんなもんを検索してたのかよ。｣ 呆れ声でそのオモチャを、手に取って見ているが、エネマグラだけには絶対に興味を示さない。 「セックスは確かに気持ちいいけど、オレは徹と抱き合うだけで十分、気持ち良くなれるんだけど？」 「それじゃ、僕が不安なんだ……今は……僕が生きてる間だけでも、翔を独占したい……」 翔は、その言葉に不安そうな表情をした。 「そんなことをしなくたって、オレは徹しか好きじゃないし、徹だけの物だよ？オレはそう思うけど、徹は違うの？」 「……違わない……けど……翔のイく時の顔が見たい。誰にも見せない表情を、僕だけが見れる優越感に浸りたいだけなんだ。それとも、ここで、オナニーしてくれる？」 さすがに他人に自慰行為を見せる、というのは可哀想とは思うが、他人のオナニーなんて、AVくらいでしか見ることはないだろうし、ゲイビはもっと、観る気さえおきないので、実質、見れるとしたら、彼のものだけだろうし、彼以外の男の裸や、ペニスになんて興味すらない。 「……わかった。」 何を納得したのかは、わからないが、とりあえずはオモチャを受け入れる気にはなってくれたようだ。まだ、開脚させて、僕の前でオナニーさせることは、彼には難しいようだった。これは僕が、ICUで悩みに悩んだ結果の意趣返しだ。だから、わざと言葉を選んで発している。 僕だけが好きで、僕だけのものだ、と言いながら、他の誰かに躰を許している翔が、どうしても許せなかった。 醜い嫉妬だと思う。そんな嫉妬を生み出させた原因を作ったのは紛れもなく、目の前の男だ。初恋であって、初めて本気で好きになって、手に入れた男だ。 そんな事を考えながら、彼に僕の指を舐めさせ、後孔に舌で触れる。腰を高く上げた体勢で、彼の後孔が良く見える。ぴちゃぴちゃと音を立てながら、後孔や、陰嚢の間をいったりきたりしながら舐め濡らす。 会陰は表側の前立腺と言われるほどの性感帯だ。念入りに舐めてやると腰が揺れる。彼の口から指を抜き、仰向けにして自分で足を広げさせ、濡らした指を、後孔に少しずつ、ゆっくりと挿入していく 自分が触っていない数ヶ月のブランクがあるようには思えないほど柔らかい。1本目が馴染むのも早く、すぐに二本目の指を挿入する。気持ち良さげに内壁が収縮する。 ３本目も軽く飲み込み、あまりにも悦さそうに悦がっていたので、ディルドに早々にコンドームをはめ、ローションを塗って挿入してやると、身を捩り、腰を振って悦んでいく。薄く開いた眸が縋るように僕を見ているのが、気持ちいい。 ｢……はあ…ンッ…ンッ……イィ……｣ それが、僕が生死をさ迷った原因だと知っているけれど、彼が何故、児嶋の手に落ちたのか、なんて、今は聞きたくもなかった。児嶋は外面がいい。甘い声に、穏やかな口調、甘いマスクで、いつも微笑んでいる。 けれど、あの日、翔は不機嫌そうに児嶋と話していたにも関わらず、迷うことなく、あの部屋へ二人で入り、ことに及んでいたのだ。あれが初めてではないはずだ。 今、自分の腕の中で悦がっている翔は、自分で抱いていた時よりも、違う艶を含んでいる。 ――そんなに男に抱かれるのが好きか？ 自分では抱いてやれないのが悔しいが、一度は、身を切る思いで別れを選んだのだから、それは自業自得と言ってもしょうがないことでもあるが、嘘をつかれていること自体がどうしても、納得出来なかった。少なくても、救命で再会した時には、この色気はなかったのだ。 根比べになってしまうだろうが、自分からは絶対に聞く事は無い。その嘘に付き合ってやろうと思ったのだった。