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また、明日…… Ver.翔
こんな時に限って、というタイミングの悪いことは、割と多くあるが、今日は特別に最悪だ。
徹はオモチャを手にしてから、少しSっ気が出た気がする。オモチャを見せてもらった次の面会の時には、一つも息を乱さず、徹はオモチャでオレを貫いた。息をあげ、オモチャに悦がり、一人、イってしまった。
「……その表情、最高…」
オモチャは際限を知らない。徹の気の済むまでイかされることもあった。なにを荒れてるのかわからないが、たまにそういう日がある。
そんな日も荒い息のまま
「……も……ムリ……出ない……」
そういう時ほど、そう訴えてもやめてくれない。ドライでイかされ、イきっぱなしになった躰は、なおも敏感になり、そこからの愛撫が始まり苦しいほどだった。軽く撫でられただけでも電流が身体中に流れるような強い刺激になる。それを気を失うまで繰り返されるのだ。それは、まるで拷問のようだった。
そして、今日もなんだかすこぶる機嫌が悪い。
「今日は、前に約束したエネマグラを入れて過ごしてみようか?」
――いや?約束をした覚えはないのですが?
たまに一日中いようと朝から顔を出したら思えばこれだ。 勉強道具を広げていると腕を取られる。ニヤリと見上げた表情に思わずゾクリとする。
「…んっ…」
案の定、全く勉強に集中出来ない。
少しの振動が良いところに当たって息が上がってしまう。安定した位置を見つけてやっと
集中、と思うタイミングで、バイブスイッチを入れられてしまい小さく声を漏らしてしまう。今日の勉強は諦めた方が良さそうだ。
看護師の検温や食事の時間の把握はあるのか、その前にはかなり静かにしてくれる。
予想外な時間に部屋のドアをノックする音がした。オレ自身も苦悶してる最中のことだった。
「……はい……」
と、徹は不機嫌な声で返事を返すとドアが開く。そこには児嶋と外科病棟の看護師がいた。
オレは必死で息を整えたが、感じきった表情まではどうにも出来ない。
条件反射とは恐ろしいもので、咄嗟に開いたドアへ目を向けてしまったが、開いた本にすぐに目を落とし俯き、気付いてないふりをした途端に徹に布団を乗せられた。
一瞬の児嶋の興奮した表情には、ゾッとした。
後ろにいる看護師からは見えていないだろう。
「どうしたんですか?児嶋先生?今日は回診予定日ではなかったはずですが?」
徹からの質問なのに、児嶋はニヤリと嗤い、オレを見下ろしているような視線を感じる。
「本来なら明日の予定だったんだけどね。私の明日の予定がどうなるか、わからなかったから、前倒しにさせてもらったよ。何か、不都合でもあったかな?
ところで体調はどうですか?柳田さん。検温や血圧は問題がなかったようですが、身体の変調はないですか?」
「……えぇ、お蔭さまで。痛み止めも一緒に点滴してもらってますからね。この投薬を始めてから、体調は特にすこぶるよくはなっていませんが、現状維持って感じですよ。」
狙って踏み込まれたのが、物凄く納得が出来なく、徹の不機嫌が目に見えてわかるほど、不機嫌に答える。
「高宮くんも、今日は最後まで見舞ってるの?」
「……えぇ……そのつもりです。」
わざと声をかけ、顔をあげさせた。ここで顔を上げないのは不自然だからだ。
蛇に睨まれたカエル、という言葉を思い出させるほど、翔は児嶋の空気に飲まれていた。
顔をあげないわけにはいかなくなってしまった。目が合うとニヤリと嗤う。背筋に冷たいものが走る。でも、今日一瞬のことだ。
明日から児嶋は夏休みに入るはずだ。
安心して徹との時間を過ごせる……はずだ。
軽く胸や背中の音を聞いて、児嶋は病室を去っていったが、オレの受難はこれからだ。
児嶋が機嫌を損ねてくれたおかげで、散々喘がされ、たくさんのキスをした。
そのキスはとても甘く、優しいものであることには変わりないのに、どこかに激しく燃え上がるものが見える。翻弄されたまま、そのあとの記憶が全くない。気絶したか、溺れてしまっていたのかすら分からない。
目が覚めた時、面会時間はギリギリというところだった。児嶋が去った後、エネマグラで散々喘がされて、ディルドでも攻められ、あっという間にイってしまった。その後の記憶がないので、そのまま気を失ってしまったようだ。
「…あ〜ぁ、起きちゃった。泊まっていけばいいのに。」
「ここで実習してるんだから、そういうわけにはいかないよ。明日は大学に寄ってから来るよ。」
「そっか、じゃ、また明日。」
明日の約束が出来ることが嬉しい。
『面会時間は後10分です。』
放送が入る。支度をしてギリギリに部屋を出た。ドアを閉じてエレベーターに向かおうと振り返ったが、そこでオレは足を止めた。
そこには獲物を仕留めるような眼差しで嗤う児嶋が立っていた。
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