54 / 114
覚悟のない覚悟 Ver.翔
仕事でしか顔を合わせてこなかったのもあるが、今まで見たコトのない仕立てのいい私服姿で、いつものオールバックではなく、髪型もラフな感じで乱された見慣れない男に、最初、誰だか気付けなかった。
けれども、その眸に見間違いはない。
髪型が違う所為もあり、いつもの姿よりは、
だが、若干、若く見える。
ドアとは反対側の壁に寄りかかり、腕を組んで待っていた、と言わんばかりの児嶋の姿が視界に入る。
児嶋はオレが病室の扉を閉めると、ゆっくりと近づいて来た。その歪んだ表情が怖くてオレは後ずさるが、すぐ後ろがドアだった。
「……本当にいい表情 をしてたねぇ。2人でイイコトしてたんだ?仲間に入れて欲しいくらいだったよ?」
ニヤリと嗤う児嶋の表情には狂気すら感じる。その表情に嫌な汗が背を伝う。
「……な……なんのお話ですか?」
それでも、出来る限り逃げたくて、目線を合わせたまま後ずさるが、すぐ後ろは徹の病室のドアだ。二歩も下がれないまま、ドアに背が当たる。ドンと音がしたが、徹はなにも反応をしていない。
「あんな色っぽい表情 して……あの場で押し倒してしまいたくなったよ。あの場で我慢出来た私を褒めて欲しいくらいだ。」
踵と背中がドアに当たってしまったことに気を取られ、目線を逸らしてしまった。
児嶋も数歩も足を進めてないのに、目の前で足を止める。わずか数センチの距離で顎を掴み、顔を強引に児嶋の方へ向けられてしまった。不意に目を合わせてしまう。
欲を孕んだ眸を間近で見てしまい、戸惑い、
怯えが先に走ってしまう。動揺に眸が揺れる。なんとか震える手で、その手を振り払い、顔を背けながらオレは必死で声を絞り出した。
その声すら震えて情けない状況でも、一刻も早く、この場から立ち去りたかった。
「こっ……公共の場で、何を仰っていらっしゃるんですか……?」
互いに声は抑えていて、他の病室には聞こえてはいないだろうが、誰が聞いているかわかったもんじゃない。
「……場所を変えれば良いのかい?例えば……後ろの病室の中で、っていうのはどうかな?
目の前で君を犯したら……彼はどんな顔色するだろうねぇ。」
血の気が引くのがわかる。青ざめるオレを見て、ますます児嶋は強気の姿勢を崩さない。
「なっ……!!……なんの脅しですか?」
「契約を忘れたわけじゃないだろう?夏休みだって例外じゃない。なのに、君は私を避けてるじゃないか。契約は破棄かい?」
ぐっと拳を握り、俯いて歯を食いしばる。逃げ続けてはいられない……『延命』をかけた『契約』なのだ。覚悟を決めなくてはならない。
「……わかりました……どこに……どこに行けば良いんですか?」
「物分りのいい子は好きだよ?」
と、児嶋はニヤリと嗤い、オレの手を引いて歩き出した。
厄日としか言いようがない。昼間と同じものを後孔に入れられた上で、児嶋の車に乗せられた。車の振動だけでもかなりの刺激だったが、最近のハイブリッド車は信号で停まるとエンジンも止まる。そのタイミングでバイブをオンにするのだ。
「……はぁ……やっ……やめ……て……」
喉が仰け反ってしまう。暗がりで誰に見えるわけでもないが、羞恥もある所為か、外ということもあり、必要以上に身悶えてしまう。
運転席の児嶋がふっ、と嗤った。バイブはオンのまま車を発進させる。
「やっ……とめっ……あぁぁっ……!!」
気を失った訳ではない。けれど、身悶えているうちに、気付くと見知らぬ地下駐車場に、車は止まっていて、悶える姿を見つめられていた。
「……さて、歩いて行こうか」
歩くとグイグイと1番感じるところに意地の悪いオモチャが当たり、バイブの振動も加わることにより、かなりの快感と苦痛の狭間で足元もおぼつかない。
児嶋にもたれかかるように寄りかかり、支えられて、やっとの思いで辿り着いた扉を目の前にした時、安堵の息を吐いてしまった。
部屋に入ると、ホテルというよりは、その場所はマンションの一室のようだった。
まさか、児嶋の部屋?
リビングのソファに座らされ、前だけ寛げる形で、すでに勃ちあがり、強制的に促された快感で蜜を流し続ける下肢を口に含まれた。元々限界に近い状態からの刺激に我慢がきかない。
「……いゃっ……だっ……あぁっ……!!も……イくっ、イっちゃ……うぅ……!!」
それでも口を離してはくれない。堪えきれずに腰を揺らしながら、白濁を児嶋の口の中に放ってしまう。
「流石に薄いね。もっと濃いのを期待してたんだけどなぁ…」
「……あんたが……言った……んだろう……?イイコト……してたんだ……って……わかって……いながら……なに……言ってんだ……」
息が上がり、スムーズには話せなかったが、睨みつけながら言い放った。実習先の医師だろうが、敬語を使う理由など、この状況下では意味をもたない。けれど、それは肌を何度も重ねてしまった結果でもある。
「そうだね。おかげであの後は君の表情がずっと離れなくなってしまってね…彼の前で君を抱いてしまおうかと本気で考えたほどだよ。」
ニヤリと嗤う表情は、欲情していた。
腕を引かれて、立ち上がらせると、そのまま別の部屋へ移動しようとする……目的がわかる。
嫌がるのも聞いてもらえず、寝室に連れて行かれ、エネマグラを抜くから脱げ、と言われジーンズと下着を脱いだが、全裸になれ、と命令されて渋々と脱いだ。
児嶋も同時に脱いでいく。そして抜くと言ったのに、じっくりと肌を貪り、オモチャを散々抜き差しされて喘がされ、疲れ果てているのも無視して、えげつないオモチャを抜くとすぐに児嶋のいきり勃ったモノを挿入され、
「やっ……まだ……ヤダ……あぁぁ……んッ」
腰を揺すりながら、胸の尖りにしゃぶりつき、感じる乳首を転がされ、ひたすら喘がされた。
無機質なオモチャでは感じられない生身の快感にひたすら啼かされた。身代わりなんかじゃない、そう思うのに、本当は他の男に抱かれるのなんて、嫌なはずなのに、口から漏れる言葉は裏切っていた。
「あぁぁっ!!……イイっ……はぁぁっ…んっっ!!……とお……る……ソコ、好きっ!!」
「……ベッドで他の男の名前を呼ぶなんて不粋だねぇ……そんなにあの男はイイのか……?
他の男の肉棒でかき混ぜられて、咥えこんで離さないように締め付けてるのは誰のものかな?本当は生身が欲しいよね?君の大好きな『徹』にはそれを望めない。悔しいよね?こんなエッチな躰を抱けないなんて、もったいない」
「……う……っさい……んぁあ!!……」
嫉妬したかのようにさらに激しく突き上げられて、追い上げられ、そのまま意識を手放した。
この日、ドア越しの会話を徹に聞かれていたことを知るのは、もう少し後のことになる。
ともだちにシェアしよう!