56 / 114

謎だらけの電話 Ver.翔

四日後の夕方、やっと解放されて帰宅した。 その日は疲れきってしまい、倒れるようにしてベッドに辿り着くと、あっという間に眠りに落ちてしまった。 目が覚めた時には面会時間をとうに過ぎてしまっていたが、直接電話をするのも怖かった。病室を訪れなかった四日間に、なにをしていたのかを問われたら、また口籠ってしまうだろう。それは容易に想像できた。勉強は言い訳にならない。 『急用が入って、ここのところ、顔を出せなくてごめん。明日は絶対に行くから。』 短いメールを送って、冷蔵庫を覗く。どんなに急用でも、このレベルのメールを普通なら送れただろう。けれど、それができない状況下、というのは滅多なことではない。 簡単になにか食べれるものはないかを見たが、予期せぬ拉致に野菜や肉が台無しになっていた。 「くっせぇ…」 ゴミ袋へ入れて、他のゴミも一緒にまとめてマンションの集積所へと捨てながら、財布を片手にコンビニへ向かった。 すぐに簡単に食べれるものを購入し、コンビニを出たところで携帯が鳴った。表示を見ると徹だ。声を聞きたい反面、なにを聞かれるかが怖い。なにせ、この4日間は彼にとって、ツッコミだらけなのだ。疑問形で尋ねることが山のようにあるはずだ。 「…もしもし?」 それでも、声を聞きたい意思が勝つ。 『躰、だるくない? 今、大丈夫?』 「今、外だけど、コンビニから帰るとこだから平気。」 そう答えつつ、内心はドキドキだ。 ……というか、今、なんて言った? 聞き返す勇気もなかった。 『…メールありがとう。明日、逢えるのを楽しみにしてるよ。ただ、明日は検査でほぼ一日がかりだから、夕方なら病室に戻れると思う。』 穏やかな徹の声に安心しつつ、なんで怒らないのか、責めないのか、不思議な気持ちになる。けれど、自分から墓穴を掘るような真似は出来ない。 「うん、わかった。徹の体調はどう?なんか変わったことはない?」 『……ないよ…そうだなぁ、児嶋先生が夏休み、って病院にいないのもあって静かだったよ。』 口調が急に冷たくなり、ゾッとする。急に出された児嶋の名前にドキッとしてしまう。オレが顔を出さない期間と、児嶋の夏休みが被っていたことを少し責められた気がした。 「…へ…へぇ、そうなんだ。」 返す言葉が見つからない。ここで徹から踏み込んで空白の時間をどうしていたのか、と聞かれたら、言葉が出なくなってしまう。話題を変えた方が良さそうだ、と思った矢先に、 『柳田さーん、そろそろ病室に戻ってくださーい』 看護師の声がする。何故、部屋で電話をかけなかったのか?何故部屋を出てるのか?聞く間もなく、普段通りの口調に戻った徹が、 「ごめん、見つかっちゃった。また明日ね、楽しみにしているよ。おやすみ」 「あぁ、おやすみ」 謎だらけの、通話はきれた。

ともだちにシェアしよう!