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謎だらけの電話 Ver.翔
四日後の夕方、やっと解放されて帰宅した。
その日は疲れきってしまい、倒れるようにしてベッドに辿り着くと、あっという間に眠りに落ちてしまった。
目が覚めた時には面会時間をとうに過ぎてしまっていたが、直接電話をするのも怖かった。病室を訪れなかった四日間に、なにをしていたのかを問われたら、また口籠ってしまうだろう。それは容易に想像できた。勉強は言い訳にならない。
『急用が入って、ここのところ、顔を出せなくてごめん。明日は絶対に行くから。』
短いメールを送って、冷蔵庫を覗く。どんなに急用でも、このレベルのメールを普通なら送れただろう。けれど、それができない状況下、というのは滅多なことではない。
簡単になにか食べれるものはないかを見たが、予期せぬ拉致に野菜や肉が台無しになっていた。
「くっせぇ…」
ゴミ袋へ入れて、他のゴミも一緒にまとめてマンションの集積所へと捨てながら、財布を片手にコンビニへ向かった。
すぐに簡単に食べれるものを購入し、コンビニを出たところで携帯が鳴った。表示を見ると徹だ。声を聞きたい反面、なにを聞かれるかが怖い。なにせ、この4日間は彼にとって、ツッコミだらけなのだ。疑問形で尋ねることが山のようにあるはずだ。
「…もしもし?」
それでも、声を聞きたい意思が勝つ。
『躰、だるくない? 今、大丈夫?』
「今、外だけど、コンビニから帰るとこだから平気。」
そう答えつつ、内心はドキドキだ。
……というか、今、なんて言った?
聞き返す勇気もなかった。
『…メールありがとう。明日、逢えるのを楽しみにしてるよ。ただ、明日は検査でほぼ一日がかりだから、夕方なら病室に戻れると思う。』
穏やかな徹の声に安心しつつ、なんで怒らないのか、責めないのか、不思議な気持ちになる。けれど、自分から墓穴を掘るような真似は出来ない。
「うん、わかった。徹の体調はどう?なんか変わったことはない?」
『……ないよ…そうだなぁ、児嶋先生が夏休み、って病院にいないのもあって静かだったよ。』
口調が急に冷たくなり、ゾッとする。急に出された児嶋の名前にドキッとしてしまう。オレが顔を出さない期間と、児嶋の夏休みが被っていたことを少し責められた気がした。
「…へ…へぇ、そうなんだ。」
返す言葉が見つからない。ここで徹から踏み込んで空白の時間をどうしていたのか、と聞かれたら、言葉が出なくなってしまう。話題を変えた方が良さそうだ、と思った矢先に、
『柳田さーん、そろそろ病室に戻ってくださーい』
看護師の声がする。何故、部屋で電話をかけなかったのか?何故部屋を出てるのか?聞く間もなく、普段通りの口調に戻った徹が、
「ごめん、見つかっちゃった。また明日ね、楽しみにしているよ。おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
謎だらけの、通話はきれた。
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