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旧友へのお願い Ver. 徹

「……まったく……おまえなぁ、久しぶりに連絡よこしたと思ったら、逢うのが病院でしかも間も無なく死ぬって、なんの冗談だよ。衝撃的すぎて笑えねぇわ。 それに俺は探偵じゃねぇんだよ。 それでも、出来るだけのことはやってみたが、そっちも笑えない結果になってっぞ。こんな形で、てめぇの教え子のこんな過去なんぞ、知りたくなかったわ。」 「悪かったよ!」 翔が来ないであろう児嶋の休みの間に大学時代からの旧友に頼んで、翔のことを調べてもらっていた。僕にはもう、その余力すら残されていない。だからこそ、頑丈そうなこの男に…… 翔の大学の講師であるこの男に頼んだのだ。 手渡された書類を手にして僕は言葉を失った。 バックバージンではないことは、わかっていた。けれど……ここに書かれていたことは、想像以上に残酷だ。 けれど、多分、間違いなく真実だ。そこには、小学生時代からの親類からの性的虐待、教師による未成年者強制猥褻、仲の良かった人物が先頭に立って、先輩、後輩、同級生それぞれからされる、定期的な集団レイプ。翔の心がボロボロで、簡単に他人が信じられなくなるほど傷ついてきていたことを知った。 「奥山、頼みがある。 僕は今、延命の為に投薬治験をしてるんだ。 だけど、もうやめる。 やめなきゃいけないんだ。 僕は彼の犠牲の上で生かされた。 彼が僕の為に躰を、売ってまで、 投薬を続ける理由が許せないんだ。 本来なら僕が彼に償わなきゃ いけないんだけど、 どんなに、この投薬を続けても、 病気の進行を遅らせるだけで、 治ることはないんだ。 僕にはもうその力は残っていない。 お願いがあるんだ。彼を…… 高宮翔を守ってやってくれないか?」 奥山は心底イヤな顔をした。 「……お前……俺の性癖を理解してんだろ? それは俺に教え子を食えと言ってるような もんだぞ?しかも、お前のお下がりかよ」 お下がりとは失礼な言い方だ。 だから、こっちも失礼と思わせる 言葉を返してやる。 「彼を落とせるならいいんじゃない? だけど選ぶのは翔だけだよ。 あ、そうそう、間違っても脅すなよ? 逆効果だから。」 「あのなぁ、高宮が大学でなんて言われてるか知ってるか?『難攻不落のプリンス』だぞ? 簡単じゃねぇんだよ。 けど、まさかノンケのお前を逆に落としていたとはなぁ、人ってのはわからねぇもんだな。」 「あはは……頭がいいのに医大生って センスないんだね」 緊張感のカケラもない僕をみて、 奥山は頭を抱えた。 が、反論はしてこない。 センスがないのは認めるんだ? 「……この内容を知る前までなら、 それなりに出来ただろうが、 こんな手負いの野良猫をどうやって 手懐けりゃいいんだ?攻略法があるなら、 俺が教えて欲しいわ。」 僕は奥山の弱音なんて初めて聞いた気がする。 「彼の根底にあるのは、優しさだ。 だけど、この過去が原因で、 人を信じることが怖くなってるんだ。 根気良く、本音で向き合う、それだけだよ」 そう。人は1人では生きていけない。 それは翔も痛いほどわかっているのだろう。 一度、認めた人間との繋がりに しがみつかなければならないほど、 人を信じることに臆病にならざるを得ない 過去を持つ。けれど、 そこから這い上がれるほど彼は強い。 時間はかかるかもしれないけれど、 大切に思える人を見付け出すことが 出来るだろう。 「悪いな、奥山。多分、僕は秋まで持たない。この調査書は処分して欲しい。 大変なことを頼んで申し訳なかった。」 奥山は複雑そうな表情で僕をみているがなにも言わない。 「ちゃんと話せるのは最期になると思う。 僕の最期のわがままだ。聞いてくれるか?」 「……受けられるものならな」 僕の最期の願いを奥山に託した。 翔、僕はもう、君を犠牲にはしない。 ここで、僕は僕の人生に幕を引く。

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