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真実の言葉 Ver.翔

翔へ 今日、僕は児嶋先生に投薬の打ち切りをお願いしました。 たぶん、それについての疑問を残していると思うので、こんな形で気持ちを伝えることを許して欲しい。 児嶋先生に身体が辛いから、という理由を話したことも、嘘ではないけれど、モルヒネとの併用も可能だと翔も聞いているだろうから、それが言い訳にならないことは、僕もわかっている。僕の勝手な都合で振り回すのはこれが最後だと思います。本当にごめんなさい。 君を傷つけてばかりで、本当に申し訳なかったと思っている。余命宣告を受けた時、1度は諦めた人生だったので、死ぬことが怖くなりそうで、君から離れることを勝手に選んだ僕は、本当は弱い人間でした。 偶然にも、最悪な形ではあったものの、再会してからの僕は、前にも増して、翔のことを好きになって、好きで好きで、好きすぎて、思っていた通り、生きることに執着が生まれてしまいました。そして、君に近づく全ての人たちに、嫉妬し、その塊になっていました。 健常のドクターや、ナースが羨ましくて、お世話になっているから当たり前なのに、他の人間に微笑みかけている君を見て、嫉妬から八つ当たりを何度もしてしまいましたね。そんな僕に君は何も言いませんでした。 けれど、翔を満足させてあげられない自分が嫌で仕方なかった。翔とはずっと一緒にいたい。けれど、僕は僕の人生を再度考え直してみた。 翔を満足させてあげられないこんな身体で、健常な翔や周りに強く嫉妬をした。僕がつけた場所へ再度強く刻印を残したのは誰なのか、嫉妬で気が狂いそうになっては、君に酷いことをしてきた。 児嶋を殺したいとまで思ったこともあった。 僕の為、とはいえ、児嶋先生と取引をしたことは、やはり僕としてはショックでした。 僕がなにをしても、君は何一つ咎めない。それも辛かったんだ。愛しているから、僕は嫉妬で君を憎む前に、愛したままで人生を終わらせたいと思った。 勝手だけど、僕は僕の人生を終わらせる。翔は翔の幸せをつかんで欲しい。いつまでも僕に囚われてはいけないよ。また、次の人生があるのなら、また君と出逢えたら、今度こそ添い遂げたいと思う。 僕は君を愛してる。 人生の最期に、人を思う気持ちを教えてくれてありがとう。君には与えてもらうばかりで、僕からは何も与えてあげることが出来なかったことが心残りです。 君が希望する医師になって、その姿を目にすることが叶わないのは残念だけれど、君のその優しさで、たくさんの命が救われることを陰から見守りたいと思う。これまで、どうもありがとう。そして、さようなら。 さようなら その文字が1番キツイ。この世に徹の身体も魂もない。携帯電話が目の隅に映る。もう、彼からのコールが鳴ることもない、メールが入ることもない。 しかも児嶋どのことがバレていたことにショックもあった。生きることを諦めたのはその所為なのだろうか……? ふと、手紙を見たあと、彼が遺したメモリースティックが気になり、オレは彼のノートパソコンをたちあげ、メモリースティック差して、開いてみる。その中にはいくつものファイルがあり、几帳面に1ヶ月ごとにファイルがわけられていた。1日ひとつのワードに、多い時は数ページ書かれていた。そのファイルを一つずつ開いてみた。 そこで見た内容に、オレは驚いたなんて言葉では言い表せない。徹の本音が… 心の中に渦巻いていた激しい感情がそこには書き綴られていた。 気持ちを書き殴ったような内容の文章に、徹の嫉妬の深さを知ったのだった。それは翔と書かれていたけれど、最終的には処分しようとしていたメモリースティックだったのだろう。 そこで、なにもかも徹に気付かれていたことを知り、児嶋との関係を決定づけるあのドア越しの会話を聞かれていたことを知ったのだった。

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