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現行犯 ③ Ver.翔
室内に響いた金属音は、鍵を開けた音だった。次に開いた扉から男性3人が入ってくる。
「あぁ?あぁあ、現行犯だな。こりゃ……警備員さん、見た?警察に通報して。」
完全に上半身の服は腕の部分が辛うじて引っかかっている程度に肌を晒し、ズボンも寛がれ、膝まで下ろされているアラレもない格好だ。その上に乗って、肌に唇を落としていた姿を目撃されれば、例え同性であっても何をしようとしていたかくらいは、容易に想像出来るだろう。
「なっっ…!!なんだ?君たちは!!勝手に入ってきてっ!!これは同意の上だ。今すぐ出ていけ!!」
児嶋は動揺して叫ぶ。が、相手の男は動じることなくオレを見下ろして状況を確認しながら、
「薬で意識朦朧とさせておいて同意はねぇだろ?法が変わったの知ってるか?男にも強姦罪は適応されるんだよ。ついでに薬で自由を奪った上での誘拐、監禁罪も適応されるだろうな。ついでに強姦、暴行未遂だ。
ちょうどいいことに、ここは病院だ。違法ドラッグでないにしても、彼を診せたら、他の医者はいくらでも、なんの薬を使ったか、くらいは証明してくれるだろう。なんなら俺が調べてもいいぜ?他病院の医師だがな。
表沙汰にされたくなかったら、今すぐ高宮の上から降りろ!!」
最後の語気は脅すように強く、その男は言い放った。
その場で警備員に抑えられ、力なく項垂れた児嶋の姿を見た安堵感からか、オレは男に佇まいを直されながら、その男に名を呼ばれているのだけれど、返事をしなきゃいけないのに、助けてくれたお礼を言わなければならないのに、口をパクパク動かすことしか出来ないまま、オレはそのまま意識を失った。
目が覚めた時、複数の女性が自分を覗き込んでいた。見覚えのある顔に外科の看護師たちだと気付くのに、少しだけ時間がかかった。
まだ頭は朦朧としている。狭くて硬い寝心地から、ストレッチャーに乗せられていることがなんとなくわかった。が、はて、この看護師たちはどこまで把握しているのだろうか?
「目が覚めた?ちょうど今、検査室から戻ってきたところなのよ?調べた結果、違法な薬じゃなかったから安心してね。」
そう言われても、反応のしようがなかった。
「まさか、児嶋先生がねー、噂にはあったけど、本当にそっち系だったとはねぇ。男でも美人だと苦労するのねぇ。ともあれ未遂で良かったわね。」
こちらも同類だとは気付かれていないようだった。児嶋がオレに絡んできて、嫌な顔をしていた、という目撃証言が取れていたのと、食堂からの連れ去りは、食堂のおばちゃんたちが見ていてくれた。助けにきてくれた男性が薬を盛られるところを見ていたので、そのまま児嶋を尾行して、警備員を呼んだところで、あの部屋に踏み込んだ、というシナリオらしかった。
児嶋本人は、すでに任意同行されて、この場には……というか、病院にはいなかった。
警察から長い聴取を受けた後、もう大丈夫だろう、と、オレをストレッチャーから車椅子に乗せ替えて、現場指揮を取っていた警察の偉そうな人と、医学長室へとその男に連れていかれ、話をすることになった。
警察が突入してしまったけれど、外来が終わっている午後だったのは、多少の救いではあるものの、何らかの噂は出るだろう。ただ、病院から逮捕者を出したと、世間に知れたとなれば、信用問題だ。
運が良いのか、悪いのか、オレは男で実習生だ。簡単な被害届けを出し、本当のことは表沙汰にすることなく、その後、児嶋は、どこかの他県の系列病院の離島へ飛ばされ、事実上の解雇となる予定だと聞かされた。
警察にお願いをして、接近禁止命令も出してもらう約束をした。そして、オレは実習病院変更の理由を調べに、教授命令で監査にきた大学講師の奥山に、たまたま拉致られたのを目撃され、助けられたというのがコトの顛末らしい。
医学長からは、迷惑を掛けたので、引き止めることは出来ないね、と苦笑いされたが、病院を引き払い、挨拶ですら、お世話になった総ての科に碌に出来ないまま、奥山と自分の大学に戻ることになり、彼の車に同乗させてもらうことになった。
「自分に隙があることを学んだか?教鞭をとってる俺が云うのもなんだが、勉強だけが生きていくすべてじゃねぇんだよ。」
まだ、自由にならない身体を気遣われたのか、と思ったが、そうでもなかったらしい。彼はタバコに火をつけてから、この後について話し出した。
「さて、と。問題はこの後だ。坂木教授になんて説明すっかな……本当のことを、すべてぶっちゃけるわけにはいかねぇだろ?まぁ、未遂だから、そこまで詳細に言うこともないだろうが、大雑把には話すしかないかもな。悪いが、おまえの過去については、おおよそのことは知ってると思ってくれ。その上で、一緒に考えてやる。」
見事なステアリング捌きを見せながら、乱暴な運転は続く。
「……え?……過去……?……知ってる……って……?どのあたりから……?」
思わず息を飲んだ。なにを知られているのかを知りたかった。それに、過去、と言った。どれくらいの過去を知られているのか……どれにしても、碌な過去ではないのだが。
「なに、青くなることはない。あの病院の連中の情報じゃねぇよ。思い出せ。俺の名前は、奥山敬吾だ。」
刹那、オレは目を見開いた。一気に覚醒させられた気分だった。
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