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ストーカー
「……なぁ、高宮。最近、お前のことを嗅ぎ回ってるおっさんがいるって話、聞いてるか?」
翔は眉を寄せる。なんの話だ?というように。
昼食中、実習仲間の田村が、遠慮しがちに聞いてきた。学生や女性ならともかく、おっさん、という部分が、気持ち悪い。心当たりがないわけてもないが、元々、派手に遊ぶ方ではない。けれど、児嶋は拘束中のはずだ。
病院ならではの、一般人が入れない従業員用の食堂にとりあえず、感謝だ。
「……なんかさ、噂になってたから気にはしてたんだけど、おまえ、イケメン系じゃん?
俺は直接見てないから、噂の域を出ない話だって思ってたんだけど……
実はさ、俺のダチにもそのおっさんに声かけられたヤツがいて、そいつが言うにはさ、聞いてくる内容も、高宮の身辺調査みたいだし、そのオッサンの目つきも危ない、って言ってたもんだから、一応、報告しといた方がいいと思ったんだけど、高宮はその話、知ってたか?」
「いや、知らない。」
「そっか。まぁ、俺の身近までそんな話が来るぐらいだから、マジなんだと思うんだよな。忠告しておいた方がいいかな?って思ったんだ。おまえさぁ、結構、危険なんじゃないのか?気をつけろよ?」
「あぁ、忠告ありがとう。助かるよ。気をつけるようにする。」
ありがたい忠告だった。その後、数日間は周りにも警戒をしながら、実習にも大学にも普通に通っていた。
が、特に何事も起こることなく、数日を過ごしていた。そのうちに日本人独特の平和ボケした頭は、警戒心を薄れさせてしまっていた。
この日もいつも通りに帰宅して、郵便物に目を通した時に、一通の差出人のない封書が目に入る。そういった手紙は珍しくはなかったが、通常は、学校の下駄箱限定だ。宛名は自分宛だが切手もなければ住所も書かれていない。
ということは、直接アパートのポストへ投函されたことになる。背筋にゾワリと悪寒が走る、が、中身はあんな話の後だけあり、かなり気になった。ハサミで封書を開けて取り出すと、隠し撮りされた自分の写真と、一枚の便箋が出てきた。
『このままじゃ終われない。諦められない。君は私だけのものだ。』
差出人が児嶋なのは、ほぼ明白だが、住所は知られていないはずだ。どうやら、いつの間にか後をつけられていたらしい。前もって田村に警告されていたのに迂闊だった。
どうしたらいいのかわからないまま、広くはない部屋だが、すべての窓やドアの施錠だけはしっかりと確認をしたのに、その夜は深い眠りに落ちることはなかった。
だるい身体を引き擦りながら、翌日も実習に向かった。一日、無心で先輩医師の指導に耳を傾け続けた。憂鬱な気分は晴れることはなかったが、気を紛らわすことは出来た。
寝不足の所為もあり、イマイチ覇気がないのを見越されたのか、先輩医師に、呼び出されたかと思ったら、
「高宮、ちょっと早いけど、今日はここまでな。坂木教授がお呼びだから、そっちに行ってくれ。お疲れ!」
追い出されるように、大学の敷地へ向う。運良く、この病棟からは敷地内だけで移動出来たのが救いだった。
今の不安定な精神状態で、外の無防備な世界に出るのは怖かった。少し頭を冷やすには寄り道もいいかもしれない。そう思いながら、研究室へと足を運んだ。
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