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答え合わせ

しばしの沈黙が流れた。赤信号で車を停めた奥山は、呆然としたままのオレを横目でみながら、ニヤリと笑った。 「そう。それが正解だ。答えなんかねぇんだよ。ただ、何かの遺伝子信号が狂ってるんだろうな。だから、残してはいけない遺伝子を持っている、という考え方もある。」 思わせ振りな言い方をしたくせに、答えがないとは、どういうことだ!? 「はぁ?バカにしてるんですか?」 思わず口をついてしまった。 「してねぇよ。あくまでも仮定の話だ。同性愛者限定の話ではないだろうし、バイの場合はどうなるか?子孫を残そうと思った時点で、そのカラクリは成り立たない。 戦国武将は子孫を残すために、何人もの妻を政略結婚で娶りながらも、いざ、戦場に出れば、抱くのはそれなりの年齢の少年(おとこ)だ。 けど、お前は男に抱かれることしか知らないし、俺は女じゃ勃たない。さて、それはどういうことだろう?どちらにも共通していることは、子供は作れない。」 「……何が言いたいんです?」 話が不穏な方向へと流れた。 しかも、この男、サラリと何をカミングアウトした? 突っ込むところがあり過ぎて、なにから話したらいいのか、突っ込んでいいのかが、わからない。 「隠し事は嫌いなんでね。取り敢えず、俺はそっちの人間だということを伝えただけだ。それは柳田も知ってることだから、一応、な。 でも、何処かのバカみたいに脅したり、強姦したりはしねぇよ。 ただし、おまえが望んだ場合は別だ。美味しくいただいてやる。児嶋と柳田を陥落させた身体には、興味があるのが正直なところだ。」 と笑う。 ――どんだけぶっちゃけてんだ? 唖然としながらも、暫くはこの車の世話にならなきゃならないかと思うと、児嶋のストークとは別の意味で、憂鬱になってきた。 送迎の時間は、互いのスケジュールにあわせて、だったが、朝が早いのも問題はなかったし、奥山が遅い時は図書室で、勉強をしていたので、大きな問題はなかった。 ただ、その日も、その次の日も、毎日欠かすことなく、手紙は直にポスティングされていた。 『最近、新しい男の車で送迎かい?君はいけない子だね。男の趣味が悪くなっていないかい?送迎なんて、私がいくらでもしてあげるのに、甘えベタなんだね。』 『今は、耳鼻咽喉科にいるそうだね。手応えはどうかな?君は外科希望だったよね。』 『近いうちに食事でもどうかな?』 段々と、手紙の内容も話の距離が詰まってきているのを見て、さすがの奥山もまずいと思い、相手が、少なくても自宅前まで来ている、というのに、1人で帰宅するのは危ないのではないか?と玄関先まではついて来てくれた。 女じゃないから大丈夫、と言ったが、 「相手の男に薬盛られて組み敷かれたり、抱かれて喘いでたんだからそこは信用できねぇな。抱かれたいなら話は変わるが。」 という。身から出た錆なんだろうが、男が男に貞操を守られる為にサポートされてるとは、情けないにも程がある。 その日の手紙は、 「何故、私を避けているんだ?なにを照れている?それだけでは、君の躰をを喜ばせてあげられないじゃないか。変な男のところにいないで、早く私の元へ還っておいで?」 と、書かれていた。それを見る奥山の表情も、日々険しくなっていく。 「なんか、書き方とか、内容とかに違和感を感じるんだよなぁ。」 と言い残し、その日は帰宅していった。 オレはその答えを見つけられないまま、浅い眠りについた。

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