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室内から…

奥山の部屋に居候になって、来たその日の夕飯から世話になっているが、奥山は料理上手だった。しかも、バランスよく手早く数種類を作り上げるから、感心する。 手先は器用だと思っていたが、まさか料理までとは、予想の範囲をはるかに超えた。 奥山の家に居候して僅か2日後、いつものように夕食を済ませて、コーヒーを飲みながら、2人でくつろいでいた時だった。見慣れない番号から携帯に電話が入った。 末尾が「0110」だったので、警察署でよく使われてる番号だということに気付くのに時間はかからなかった。 警察からの電話を無視するのは少々躊躇われる。奥山に促され、通話をオンにすると、聞こえて声は男性のものだった。アパートの最寄りの警察署の有馬と名乗った。 「実は、ご自宅のアパートが火事になりまして。小火(ボヤ)ではありますが、放火の疑いがあります。ご自宅にはいらっしゃらないので、大家さんに携帯を教えて頂きました。火元が室内とみられています。事情を聞かせていただきたいので、一度、アパートに戻っていただけますか?現場を見ていただいた上で、署の方でお話を伺いたいのですが、調書の関係もありますので、少々お時間を作って下さるとありがたいです。自分、有馬と申しますので、アパートに着きましたらお呼び下さい。」 はい、とだけ返事をして、通話を終える。これは強制だな。まぁ、自宅だから、行かないわけにもいかない。 ため息をつきつつ、立ちあがる。 「……どうした?」 憂鬱丸出しなオレに奥山が、声をかけてくる。 「アパートのオレの部屋、放火されたみたいなんです。一応、出火元が室内ってことで、アパートの現状を見てから警察署で、取り調べがあるみたいなんで、とりあえず、警察に呼ばれました。これからアパート行ってきます。」 「……おまっ……何、冷静に……」 奥山は車を出すから一緒に、と身支度を始めてくれた。夜も10時を廻っていたが、これから取り調べとなると、解放されるのは、真夜中か、明け方だろう。かなりの時間を拘束されるであろう今後の時間を思うと、明日が休みなことだけは感謝だな、と思いながら外出用の服に着替えた。 「あ〜ぁ、こりゃ小火って言っても全滅じゃねぇか。」 部屋を見た奥山が大げさなリアクションで言う。家電も本もすべて消防車からの放水でダメになっしまった。 「この本、好きだったんだけどな〜」 「あ、その本ならウチの書庫にあるから、安心しろ。この一帯に並んでるのは大概あるぞ。」 この火災での唯一の救いは、同じアパートの近隣の部屋に被害が出なかったこと、くらいだ。自分の部屋の中のものは、間違いなく全滅。最初こそ拒否した奥山の家への非難が、まさかの結果オーライとなったのだ。 火元は寝室側ではなく、リビングがわりに使っていた洋室。そこに敷いていたラグマットに引火物質を撒かれた上での放火だ。うっすら重油の匂いが拡がっている。 室内からの放火となれば、ガソリンの確率は低い。揮発性の液体を撒いて火をつけたのならば、何らかの怪我をしていてもおかしくはないし、これだけの小火で済むわけがない。撒かれたものは、ごく少量だろう、と推測できた。 でなければ、こんなボロアパートなら全焼していただろう。着火出来れば良かったのだ。入手が簡単なものを考えれば、灯油である可能性が高い。しかもオレは現段階では容疑者の一人なのだから、そんな説明をされるのも、まだ、後の話になる。 よくニュースで、火元の情報を流しているが、全焼した家屋から激しく燃えた場所なんてわかるものなのか?と思っていたが、我が身に降りかかり、目の当たりにしてみると案外わかるもんだな、と他人事のように、その光景を見つめていた。

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