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説明してもらおうか?
こういう時、体育会系だと良かったのに、と実感する。持久力に不安を感じる。それなりの体力には自信があるが、いつまで続くのかわからないことには、そこまでの体力があるのか、が不安でならなかった。反撃できるならボコボコにする自信ならあるのだが……
「ちょこまか逃げ回りやがって!!人のことをバカにするのもいい加減にしろ!!」
完全に頭に血が上っているようだった。互いに息を切らせながら、ジリジリと距離を計る。
相手の体力が先か、自分の体力が先か?というところで、足がもつれて転んでしまった。チャンスと、言わんばかりに、テーブルを飛び越えて、マサキはオレに馬乗りになり殴りかかろうと身構える。
――……失敗した……
顔にまだ、臨床実習中ということもあり、傷を作るわけにはいかない。頭を庇うように腕を顔の前に組んだ。片手で、それを退けようとしながら、もう片方の手で、殴られそうになったその時に、その声は響いた。
「なにやってんだ!!」
マサキは引き剥がされ、身体の上が軽くなる。軽く投げ飛ばされたマサキが、どこかにぶつかったのか、低く唸っているが、奥山は
「高宮、大丈夫か?」
「あ、先生、おかえりなさい」
噛み合わない返事をしてしまった。頭を打ったのか?と怪訝な表情をされて、あわてて訂正した。
「あ、いや、大丈夫です。あの……ありがとうございます。」
「顔にアザなんかつくって…」
頬を痛々しそうな顔で優しく撫でられる。むず痒い感覚に、再度、
「大丈夫です。」
と横を向いてしまう。
「……ったく……言いたいことは山のようにあるが、それは後回しだ。」
そう言って、奥山は振り返り、まだ、起き上がらないマサキを見下ろして、冷たい口調で、彼に語りかける。
「マサキ、これはどういうことだ?なんで、
おまえがこの部屋を知っている?
先日の話し合いでおまえとは終わったはずだ。もう、会わないと言ったはずだし、こんなことをするなんて、言語道断だ。
不法侵入と暴行罪で警察に突き出すことが出来るが、どうする?二度と俺らに近付かない、危害を加えない、と約束出来るなら、今回は見逃してやる。どうする?」
シュンとした、マサキはその言葉を飲んだ。言葉だけでは信用出来ない、と念書を書かせた上で、追い出したのだった。児嶋の件があってから、神経質になってるのはわかるが、そこまで、やる必要があったのか?と思うが、少し低脳なヤツを相手にするなら、それくらいは必要なのだろう。
奥山は相当激怒している。かなり怒られることを覚悟して、リビングに正座をする。
「まずは、なんで、アレを部屋に上げたのか、そこから説明してもらおうか?」
突然、訪ねてきて、約束をしているんだ、と言われたことで、了承済みだと、オレが思ってしまったことを始めに、会話したことをすべて話した。意外にも奥山は激怒することなく、笑い出した。
「すげぇな。カマかけられて、さらにかけ返したのかよ。しかも、おまえらしいイラつき方が笑えるわ。それであの猿が暴れだしたのか」
久々にまともに話した気がする。話した部類に入るのかは、わからないが、奥山の表情は思ったほど険しくはならないで済んだ。
「……ねぇ、先生。なんであの人と別れたことを教えてくれなかったの?」
無意識にでた言葉だった。
「話す……タイミングがなかったしなぁ。ここのところのおまえは、俺のプライベートなんぞどうでもいいと思ってただろ?そんな時に話したって、しょうがねぇことだしな。ダカラナニ?って思うだろ?」
確かに。そうだろうなぁ、と思いながら、ボーッとその顔を見つめていた。
近い距離感に少し戸惑いつつも……
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