88 / 114

説明してもらおうか?

こういう時、体育会系だと良かったのに、と実感する。持久力に不安を感じる。それなりの体力には自信があるが、いつまで続くのかわからないことには、そこまでの体力があるのか、が不安でならなかった。反撃できるならボコボコにする自信ならあるのだが…… 「ちょこまか逃げ回りやがって!!人のことをバカにするのもいい加減にしろ!!」 完全に頭に血が上っているようだった。互いに息を切らせながら、ジリジリと距離を計る。 相手の体力が先か、自分の体力が先か?というところで、足がもつれて転んでしまった。チャンスと、言わんばかりに、テーブルを飛び越えて、マサキはオレに馬乗りになり殴りかかろうと身構える。 ――……失敗した…… 顔にまだ、臨床実習中ということもあり、傷を作るわけにはいかない。頭を庇うように腕を顔の前に組んだ。片手で、それを退けようとしながら、もう片方の手で、殴られそうになったその時に、その声は響いた。 「なにやってんだ!!」 マサキは引き剥がされ、身体の上が軽くなる。軽く投げ飛ばされたマサキが、どこかにぶつかったのか、低く唸っているが、奥山は 「高宮、大丈夫か?」 「あ、先生、おかえりなさい」 噛み合わない返事をしてしまった。頭を打ったのか?と怪訝な表情をされて、あわてて訂正した。 「あ、いや、大丈夫です。あの……ありがとうございます。」 「顔にアザなんかつくって…」 頬を痛々しそうな顔で優しく撫でられる。むず痒い感覚に、再度、 「大丈夫です。」 と横を向いてしまう。 「……ったく……言いたいことは山のようにあるが、それは後回しだ。」 そう言って、奥山は振り返り、まだ、起き上がらないマサキを見下ろして、冷たい口調で、彼に語りかける。 「マサキ、これはどういうことだ?なんで、 おまえがこの部屋を知っている? 先日の話し合いでおまえとは終わったはずだ。もう、会わないと言ったはずだし、こんなことをするなんて、言語道断だ。 不法侵入と暴行罪で警察に突き出すことが出来るが、どうする?二度と俺らに近付かない、危害を加えない、と約束出来るなら、今回は見逃してやる。どうする?」 シュンとした、マサキはその言葉を飲んだ。言葉だけでは信用出来ない、と念書を書かせた上で、追い出したのだった。児嶋の件があってから、神経質になってるのはわかるが、そこまで、やる必要があったのか?と思うが、少し低脳なヤツを相手にするなら、それくらいは必要なのだろう。 奥山は相当激怒している。かなり怒られることを覚悟して、リビングに正座をする。 「まずは、なんで、アレを部屋に上げたのか、そこから説明してもらおうか?」 突然、訪ねてきて、約束をしているんだ、と言われたことで、了承済みだと、オレが思ってしまったことを始めに、会話したことをすべて話した。意外にも奥山は激怒することなく、笑い出した。 「すげぇな。カマかけられて、さらにかけ返したのかよ。しかも、おまえらしいイラつき方が笑えるわ。それであの猿が暴れだしたのか」 久々にまともに話した気がする。話した部類に入るのかは、わからないが、奥山の表情は思ったほど険しくはならないで済んだ。 「……ねぇ、先生。なんであの人と別れたことを教えてくれなかったの?」 無意識にでた言葉だった。 「話す……タイミングがなかったしなぁ。ここのところのおまえは、俺のプライベートなんぞどうでもいいと思ってただろ?そんな時に話したって、しょうがねぇことだしな。ダカラナニ?って思うだろ?」 確かに。そうだろうなぁ、と思いながら、ボーッとその顔を見つめていた。 近い距離感に少し戸惑いつつも……

ともだちにシェアしよう!