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番外編 悪夢の始まり 2

――夕飯を外食で済ませ、奥山の部屋のリビングのソファに並んで座っていた。目線を合わせると話しづらいのではないか?という、奥山なりの気遣いのようだった。 コーヒーを目の前に置かれて、そこから立ち上る湯気を見つめたまま、なにから話したらいいのかを考えていた。 奥山は何も言わない。ただ、話し出すのを待っているだけだった。たとえ、夕方のことでも、他愛のない話でも、どちらでも対応をするだろう。 けれど、話さなくてはいけないような気がする。ある意味、蘇生させてくれたのだから。 オレは、ゆっくりと口を開き、子供の頃からのことを話し始めた。 「最初は小学校の二年生の頃からだったかな。登下校の時に、何度も色んな人に声をかけられたんだ。一人の時だろうが、友達と下校していようがお構い無しに。 最初は男の人だった。次は女の人。いろんな理由をつけて、どこかに連れて行こうとするんだけど、『知らない人についていってはいけません』って、お決まりの言葉を盾に断り続けていたんだ。 家は特別お金持ちでもないし、父親はサラリーマンで、母親もパートに出ないと、月々の生活費すら足りないような家庭だったから、身代金目的の誘拐なんてされても、払えるお金なんてなかったのも、子供心に弁えてはいたんだ。 それでも、強行突破して1度、車で拉致られて、アイマスクをされて、どこかの部屋に連れ込まれて、アイマスクは取ってくれたけど、男ふたりがかりで、裸にされて縛られて、ベッドに投げられて、泣いて嫌がったけど、足を広げられて、何百枚も写真を撮られた。 その後に口淫と後ろに指も入れらて、精通させられたよ。射精することがあれほど気持ちのいいものだって、最悪の形で実感して、なんか、複雑な心境だった。 さすがに指2本が限界だったけど、その時になって、初めてオレは、そういう対象なんだって知った。 一緒に下校してた友達が最初に交番に駆け込んでくれて、目隠しをされて連れ回されたのを不審に思ってくれた人がいて、その部屋に警察が乗り込んできて、その場での強姦は未遂で終わったんだ。」 奥山は苦虫を潰したような表情で、 「……ヤられたも同然だがな。」 と呟いた。 「中学にあがると、今度は担任に、何かあると、呼び出されて、プリントのコピーとか、簡単な手伝いをさせられていたんだけど、手伝いが終わる度にボディタッチをしてくるようになって…… 日を増すごとに、その場所がおかしくなっていって、そのうちにキスをされるようになった。さすがに担任と関係を持つなんて気はさらさらないから、それは困るって言ったら、逆らうと内申を落とすって言われて、何も返せなくなった。だから、キスもさせたし、服の上からって条件で、触らせたい放題触らせていたんだ。 それも、数回繰り返すうちに、たまたま職員室に戻ってきた校長に見つかって、学校に家族も呼ばれて、生活指導の先生やら、学年主任やら、出てきて、大問題になった。 3年間、その繰り返しで、その度に、手を出してきた教師は、次の年には転勤になって、オレの前からはいなくなるんだ。でも、その次に来る教師が同じことを繰り返すから、そのうちにオレまで疑われ始める始末だったよ。 『おまえが誘惑してるんじゃないか?』って。 それでも、医者になる夢は諦められなかったから、必死に勉強だけはしていたんだ。そこでしか現実逃避が出来なかったのもあったし。親もオレには腫れ物にでも触るような態度になるし、弟達は小さすぎて、やりたい放題だし。 でも、その騒がしさも、その時のオレには救いだったんだ。弟達がいなかったら、もっと冷えた家庭になっていたかもしれないって、いつも思うんだ。 でも、さすがに高校生にもなれば、もっと力がつくだろうと思ってたし、簡単に拉致られるような体型でもなくなるから、油断してたんだ。 だから、あの日も誘われたから、仲良くなった5人で、お泊まり会に参加したんだ。」 話が本題に入る。 奥山は、コーヒーを1口飲むと、ソーサーにカップを戻して、オレの膝の上に手を置いた。

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