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番外編 そして……
そこまでをただ、黙って聞いていた奥山が、
「……で?どうする?俺としては手術は失敗しましたって、ヤツの息の根を止めてやりたいくらいだがおまえはどうしたい?」
オレはチッと心底嫌な表情をして舌打ちをした。その反応を待っていたかのように、それを見た奥山は、それまでは真剣な表情をしていたのに、突如ニヤニヤとし始めた。
答えの出ている質問を投げて、わざとらしく聞いてくることにイラッとすることがあるが、それ以上に理解してくれていることもわかっているから性質 が悪い。
「ほんっとに性根が悪いね。まさかそんなことを思うわけないだろ?あんたがさぁ、こんな簡単なオペを失敗なんかしてみろ、あんなヤツの為に折角のあんたの腕に傷がつく。それに過去はどう足掻いたって消せないんだよ。それに、仕事に私情を挟むのは嫌いなんで。」
「あはは〜、だよな。」
そう言って笑っていたのに、敬吾は急に真面目な顔をする。
「正直なところな、今でもおまえを苦しめてるやつは、殺しても害はないと思ってる。色んな意味でこいつは殺してやりたいところだが、まぁ俺たちは医師だ。目の前で死なれたり、殺したりは、おまえの本意ではないだろ?」
奥山はオレの手を取って……
その甲にキスをする。
「おまえが前に言ってただろ?因果応報だ。
いいことも悪いことも、やった分だけ、自分に返ってくる。身体にメスを入れること自体だって、十分、ヤツの罪の証なんだろうな。」
メスを入れる人、全員が他人を苦しめた人だとは言えないし、思えない。何の罪のない人の方が多いはずだ。
「まだ、過去のことは思い出せば辛いけど……あんたが、オレの救いになってくれたらそれでいい。一つでも多く救える命を救いたい。それがオレの夢であり、徹の願いだ。」
そう言ってオレは奥山の唇へ自分の唇を重ねる。応える唇は優しい。
ゴツい外見のクセに。
「フォローするわけじゃないが、岩切はおまえのことが好きだったのかもしれねぇな。今更、譲る気はねぇけど。おまえが情に流されたとしても、全力で奪い返すぞ。」
「……――ったく、何聞いてたの?優秀な医者のクセに、そういうところは本当にバカだよね。トラウマを植え付けた奴に普通、惚れるわけないだろ?それに、オレは追われる恋愛は出来ないんだよ。だから知らねぇヤツから告白されても付き合えなかったし、自分が好きになれない相手を相手にするほど暇でもない。よく覚えておけ。あんたが、オレに追われてるんだよ。」
たとえ、先に恋愛対象として好きになったのが、奥山であろうとも。
先に憧れたてこの大学病院を選んだのは、オレの方が先だ。
彼の首に腕を回して、耳元で囁く。
「好きだよ。敬吾。」
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