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番外編 告白 2

振り返ると奥山が、術後そのまま直行してきたようなスタイルで立っていた。白衣は来てるものの、 ――手術着には血痕着いてるし……ちゃんと着替えてこいよ…… 「こいつは俺のもんだから、今更、岩切さんには渡しませんよ。これでもやっとの思いで手に入れたもんでね。」 恥ずかしげもなく、言い放つ。 「……いつから聞いてたんです?」 「今だよ。おまえが情に流されないか心配で、心配で。」 本心でそう言っているようには思えないほどの軽口でほざいている。深いため息をついてから 「…あんたは、昨夜、何を聞いていたんだ?3歩、歩いたら忘れるのか?そこまでチキンじゃないだろ?本当にそういうとこ、バカだよね。」 その様子を呆気にとられた表情で見ていた岩切は、声を上げて笑い出したものの、まだ、そんな大声で笑えるほど回復はしていない。すぐに、痛みがでて(うずくま)ってしましまう。 「おい!!大丈夫か?」 オレは、焦って岩切の背に手を添えた。 「……っっ、相手が奥山先生だっていうのは意外だったけど、すごいな。俺が入る隙間なんてないのは、わかった。それでも、俺は高宮以外は、考えられない。」 なんていう爆弾を投下してくれるんだ、とヒヤヒヤする。 「……岩切さん、あんたのやったことの所為で、こいつがどんな人生を歩んできたのか知らないだろう?ここ数年で、こいつの人生はいろんな意味で変わったんだ。 出来ることなら、医者と患者の関係以外で、今後、こいつの人生には関わらないで欲しい。あんた以上に、こいつを欲しがる人間は、まだまだいるんでね。その中には度が過ぎて、警察のお世話になってるやつまでいる。 あんたの調教は完璧だったんだろうが、俺はその影にいつも嫉妬させられる。セックスの時のあのクセは、あんたが意図的につけたものだろう?」 クセ?そんなものがあったんだろうか? けれど、それでも岩切には充分、通じてるようだった。 「あまりにも彼が好きでね。それに悦ぶもんだから。それでも、誰かに気付かれたり、先生を嫉妬させるなんて、思いもしませんでした。先生も経験豊富なんですね。普通はそこまで気付きませんよ?」 「……経験豊富というほどじゃないけどな。けど、あんたの仕込んだハニートラップには見事に引っかかったクチだよ。本当に腹が立つ。」 2人の会話に入れない。クセ?ハニートラップ?何のことなのだろうか? 「手術は無事に成功している。再発の可能性は低いが、定期検査はちゃんと受けるように。あんたの地元の紹介元の病院の小田切先生には、すでに引き継いである。」 「素早いですね。手回しの早さが半端ないです。さすがですね。」 「敵は1人でも少ないに限るからな。ドクターからナースから患者に至るまで、コイツは大モテなんでね。ところが、当の本人はそっちにはまるで疎いもんだから、気が気じゃない。」 「奥山先生!だから、オレは、あなたが思ってるほどモテてませんから。」 「な?この後に及んで、こういうセリフが出てくるくらいだ。本当に油断大敵なもので。ウチでも、俺が手塩にかけて育てている、大切な俺の片腕の卵なんですから、連れ去り厳禁ですよ。万が一の場合は、強硬手段をとらせてもらうので、覚悟しておいてくださいね。」 にこやかに恐ろしいことを言う。 確かに、変な事件には巻き込まれてきたことは確かだが… 「誰が告白しても落ちない『難攻不落のプリンス』の異名を持つくらいだから、簡単には落とせないと思うし。」 「先生!!それは言わないでください!!」 恥ずかしい。真っ赤になってしまっていることだろう。 「それに、今のパートナーは俺なんでね。誰にも渡す気はないので、早々に諦めてください。」 有無を言わさぬ口調で告げると、さすがの岩切も、諦めたように寂しそうに微笑んだ。 「残念だけど、奥山先生に勝てる気がしないな。もし、奥山先生に愛想をつかした時には、俺を訪ねてきて欲しい。」 「万が一にもないがな。」 そこをなんで、奥山が答えるのかわからないが、とりあえず、オレも 「ごめん。オレは、ここで生きていきたいと思ってるから、岩切の気持ちには応えられない。」 そう言って岩切の申し出を断った。

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