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番外編 告白 3 Ver.奥山
「よくもあんなに、堂々と暴露しましたね。」
帰りの車の中、ムッとむくれた翔が助手席で丸まるように小さくなっている。
「きっぱり振らないから、つきまとわれるんだ。あやふやにしていたら、ああいったタイプは、第二の児嶋に成りかねない。それに、もうすぐ退院だろ?
そうしたら、実家に戻って結婚するらしいじゃないか。
しかも、本妻とは子供は作るけど、おまえを愛人にしたいと言ってたんだぞ?――ったく冗談じゃない。
しかも、アイツが原因で、実家にすら顔を出さない奴が、何を言ってるんだか。」
キョトンとこちらを見るが、ふぅ、と一息ついてから
「……知ってたんですか。」
「そりゃあな。あっちこっちで噂になってるから、調べなくても耳に入ってくるってもんだ。夏も冬も長い休みですら、それを利用して、バイトをしてた、っていう目撃談は、おまえのファンの間では有名な話だ。
5年生以降は、柳田と過ごしていただろうし、それ以降は俺と一緒にいたんだから、わからないわけないだろ?実家に帰ってないのは一目瞭然だ。アイツらに会うのが怖かったんだろ?
けど、いつまでも逃げてもいられないだろう?孫は作ってやれないけど、親には顔を見せてやっても良いんじゃないか?親御さんだって会いたいだろ。」
「そういう敬吾だって、実家に顔を出しているの?オレとずっと一緒じゃん。」
「俺は親とはほぼ、毎日顔を合わせてるから良いんだよ。」
その言葉にさらにキョトンと、何を言われているのかわからない様子で、何を聞けばいいのか戸惑った表情で、黙り込んでしまった。
「うちの大学の医学部長は俺の父親だ。ちなみに、脳神経外科の看護師長は俺の母親。内科には妹もいるし、兄貴は、整形外科にいるから、みんな嫌でも会うからな。
まぁ、ゲイなのをカミングアウトしてから、勘当同然の身だ。ここの大学病院の経営者は、俺の親戚だから、みんな勢ぞろいしてるってやつだ。だから理事にも入らなくて済んでる」
意外だ、という表情をしながら、反面、納得した、という表情をしていた。
「だから、奥山って苗字の医師が多いんですね。けど、そんなんで、オレが傍にいたら、さすがにまずいんじゃないですか?」
「だから、何度も言ってると思うが、カミングアウト済みだから、良いんだよ。逆におまえが相手なら、あっちも文句どころか、歓迎するだろ。あんだけの事件に巻き込まれておきながら、主席で大学を卒業して、さすがに、ウチの病院で引っ張りだこで、コツコツ真面目に働いてる人間を、見下すような連中じゃねぇよ。
実際、あっちこっちの科から、おまえの意見を無視したように、おまえが欲しい、っていうオファーはあるし、都度、親父に呼び出されてるから、はっきり言って面倒臭い。けど、おまえ自身の希望が心臓循環器なんだから、他に行く必要は無いし、手放す気もねぇよ。」
前期の頃は、断るのも面倒臭いくらい、あちこちの科から声がかかったが、本人も最初から他には行くつもりもなかったので、後期になった今でも、同じ場所にいる。後期臨床研修医までくれば、もう、その科で、ほぼ決定する。大まかに括れば外科医だ。
少し目を離すと、トラブルに巻き込まれる。面倒なことになる前に、出来るものは排除しておいた方が良いだろう。
しっかりしていてそうで、当の本人は、結構、間抜けで、隙だらけだ。ちょっと目を離すと、どこに連れ去られてしまうかわからないほど。過去のことが原因で、警戒心の向く方向が間違っている。
ただ、窓越し、講堂で見ていただけの頃の方が今考えるとよっぽど恐ろしいことだったのだ。
高校時代のこともあり、他人との距離を程よくとって、他人を懐に寄せ付けない、付き合いの悪さが幸いして、それほどの大ごとになってこなかっただけだ。
知り合ったきっかけや、最初にしつこいほどに誘い出したのは柳田だというから、多分ヤツもこの本人も自覚のない魔性に、柳田自身も気づかずにヤラれてしまったクチなのだろう。
全くもって恐ろしい。それに、自分も毒され、その毒を手に入れて、溺れている。
きっと、蠱毒のような代物かもしれない。
その美酒に溺れて病院に行くことを怠 って柳田は命を落としたのかもしれないのだから。
けれど、翔が蠱毒なら、俺が解毒すればいい。
「オレって信用されてないの?」
たまにこんな子供のような質問を投げかけてくる。そんな姿も可愛いと思うが、自分の前だけにして欲しい。
「いや?信用も信頼もしてるし、どこにいっても人気者のパートナーで鼻が高いよ。ただ、隙だらけなのが心配なだけで。」
「自分だってモテるくせに。修羅場を経験させられてるのはこっちも同じだと思うんだけど?」
また、ムスッとしながら睨んでくる。
「そんな色っぽい目線で言われても説得力がねぇな。帰ったら、嫌というほど甘やかしたくなる。今からエネマグラでも、入れるか?柳田のアレ、おまえが使ってたんだろ?お仕置き用に持ってるぞ?」
「嫌だ。それは嫌い。………ってか、それ、敬吾が持ってたのかよ……」
本当に心底、嫌そうな表情をしていた。
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