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番外編 告白 8 Ver.奥山

「この仕事をしていると、どうしても他人の死には疎くなる。 ……さすがに久々に、柳田に呼びだされて、開口一番に、間もなく死ぬと言われた時には、心底、堪えたけどな。 実際に亡くなったって、おまえから連絡を受けた時には、『その時が来たんだ』って冷静に受け止めてる自分が、少し、歪だとは思ったよ。」 唇が触れるか触れないかの位置で、静かに告げると、翔は少し戸惑った素振りを見せながら、 「……オレも……そうなってくのかなぁ……」 翔がポツリと呟いた。 「もちろん、1人でも多くの命を救う為に、ここまで努力を重ねてきたつもりだし、これからもその気持ちは変わらない。それでも、どうしようもできないことだってあるのもわかってる。それを覚悟した上で、オレはこの道を選んできたつもりだと思ってる。だけど、正直、最初に失ったのが、自分の元恋人だと……徹だったのは、少し堪えた。 オレも一緒だよ。柳田徹って人間が、オレらの心に深く刻まれたことに、何ら代わりはない。」 向かい合い見つめあったまま、静かな空間の中、今にも触れ合いそうな息がかかる距離での話は終わりがみえない。 「…きっと生涯、徹の死を引き摺って生きていくんだと思う。敬吾は、そんなオレでも受け入れてくれるの?」 か細い声で尋ねてくる翔が、いつもより弱々しく見えた。 「今更、なに、馬鹿なことを言ってやがる。柳田の事は他人事じゃねぇし、俺が惚れたのは、歩くだけで厄介ごとを寄せ付けてくるような男だ。それに、過去があってのお前だろ。どうしたって過去は変えられねぇんだよ。全部ひっくるめて、俺が引き受けてやるから覚悟しろ。」 これくらい強く言わなければ、また、心を閉ざしてしまいかねない危なっかしい恋人。 手なずけてしまえば猫のように擦り寄ってくる。難攻不落なんかじゃない。傷付くのが他人より怖い普通の人間だ。 ただ、その美貌故に歪んだ愛情を身に受け過ぎて、恐怖心に拍車がかかってしまっただけ。 人を愛すれば、一途にそれに応えてくれる。 「愛してるよ。一生涯手放さないからな。」 そう言えば、舌をさし出して、腕を首に回して引き寄せ、キスを強請る。軽く触れるだけのキスをして、下唇を舐め、一度唇を離し、イタズラっぽく微笑んで、またキスをする。そんな小悪魔的な誘惑を教え込んだのが、ほかのヤツなのが気に食わないが、俺も満更ではない。 傍に置いておかなければ、何が起こるかわからない恋人には苦労をしそうだが、いつも外で見せている手負いの獣のようないつもの鋭さはなく、弱い部分をさらけ出してくれてくれたのは大きな進歩だと思う。 この恋人とのキスは気持ちいい。 「死が2人を分かつまで、なんて重たいことを考えてるような男でも、問題ない?」 「死んでも離す気なんてねぇよ。」 クスッと翔は微笑み、抱きついてきた。 この男は、かなりの一途だ。歪んで傷ついた心を癒すには時間がかかるだろう。一人の人を愛したい、その気持ちは良くわかる。 「……もう、おまえ以外、誰もいらない……」 そう言ってキスを深めていく。 この躰を知ってしまったら、もう、誰も抱けない気がした。絶対に離してなどやらない。俺から離れられない躰にしてやる、と祈りに似たことを思いながら抱いてきた。 そして、今夜もその行為に溺れていくのだった。

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