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第3話

「はぁっ、はぁっ…っ」 独りになるのが怖くて、晴人は商業施設に走り込んだ。肩口に振り返った先に正樹はいない。 何処か、隠れて、このままやり過ごして、あいつが諦めた所で、また、逃げて…。 5階のトイレ、広めの個室に逃げ込み晴人は鍵を閉めた。 「はぁっ、…ふっ、ぅ、ううっ…っ」 手が震える。 晴人は個室の中で落ち着きなく歩き回った。 もう諦めたか?いや、あいつが…そう簡単に…諦めるか?どうする、どうする? 「タトゥーは身体に馴染んで薄れるのが良いなって思ったんだ。」 「!」 「だってそれって、俺が、晴人に染みていく様でさ。ゆっくり、浸食する。」 トイレの出口から聞こえたその声を聞き、晴人は思わず自分の口を押さえて息を詰めた。 「なのに、消すなんて。酷いよね。」 不満気な正樹の声だ。 「まぁ…またそれは入れるとして…。」 コツコツとこちらに近づく足音が響く。 「ほら、出ておいで。追いかけっこも楽しいけど、長すぎると興醒めだよ。」 恐怖のあまり、晴人はその場でしゃがみ込み耳を塞いだ。 「自分から出てくるんだよ。」 声が徐々に低くなり、同時に足音が近づいてくる。 「晴人。」 「…うっ、」 こみ上げる吐き気を抑えて、逃げ場はないかとキョロキョロと辺りを見渡す。 しかし、無機質な個室には窓もない。 「はーるーと。」 コンコンッ 何故分かる? 晴人のいる個室をピンポイントで探り当て、正樹はノックする。 「…で、出ないっ‼︎大体俺は、お前なんかに、もう二度と会いたくなかったんだ!」 「へぇ?」 「何でまだ追ってくるだ!俺が逃げ時点で、気づけよっ!俺は、お前が、好きじゃない‼︎」 「…ふーん。」 ドア越しでも近づきたくない。 ドアから極力離れたところから、晴人は正樹を罵った。 正樹の声が低い。しかしパニックで構っていられない。 「大体なんなんだよ…お前…。怖いよ…。頭…おかしい…。」 「……」 「もう、俺がどれだけお前を嫌いかわかっただろ…諦めて、消えろよ…。」 「……」 「俺がお前を好きになる事なんか、もうないから…。本当……やめてくれよ…。」 「……」 気付けば、正樹の反応がない。 流石に此処まで罵倒されれば、諦めたか…? カチリッ しかし晴人の淡い期待は、軽い音で簡単に裏切られた。 開いたドアの先には、マイナスドライバーをもつ正樹が居た。 どうやら、外から鍵を解錠したらしい。 「ごめんごめん。開けるのに夢中で最後あたり聞いてなかった〜。で、なんて?」 場違いな程に爽やかな笑顔だった。

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