43 / 212

第43話

『きょうへい、おしっこ』 「大丈夫か?トイレ行っといで」 『うん』 「一緒に行くか?」 『へいき!』 珍しく電車で取引先に行って 帰りの乗り換えの時におしっこしたいことに気付いてきょうへいの耳元で伝えると 荷物を持っててくれるから トイレに急いだ 間に合った、とトイレで無事におしっこをして きょうへいの所に戻ろうとさっきの場所には戻ってきょうへいを探す あれ、いない どこいったんだ、とキョロキョロと辺りを見回すけどきょうへいの姿は見えなくて 連絡しようとポケットに手を突っ込むが 携帯も鞄の方に入れていたようで 連絡することもできなくて まぁすぐ帰ってくるだろう、とさっききょうへいと別れた場所で待ってる事にした すると グイ、と腕を引かれ すぐに振り向いた 『きょうへ、…っ、あれ、』 きょうへい、どこいってたんだよって、 文句でも言おうとしたのに 「祈織だよな…?」 『……た、いち…?』 「だよな、やっぱり。前名古屋で会ったぶりだよな?」 『え、おまえ、なんで、ここ』 予想外の人物で頭が回らなくなる 汰一だ、 前に名古屋に出張に行った時に偶然会った おれの高校の同級生の、汰一だ おれが、酷いことをした人、 「あぁ、就職してこっちにして戻ってきたんだよ。祈織も仕事帰りとか?」 『あ、うん』 「へえ、あ、このあとよかったら」 『おれ、かえるから』 「あ、なんか用事とか」 『うん、人と一緒にいるし、』 「あの前、名古屋で一緒にいた人か?」 『そうだけど、』 なんでこんな所に汰一が、と 嫌なドキドキがする 早く、匡平に会いたい、 「じゃあ今度飯でも行かないか?」 『えっと、なんで、』 「なんでって…1度祈織とちゃんと話したかったから」 『でも、おれ、』 「いいだろ、飯くらい。番号変わってないよな」 『変わってないけど、』 「じゃあ連絡するから」 『えっと、うん』 と、急いでその場から離れて きょうへいを探す 『きょうへい、』 どこいったんだよ、 きょうへいに会いたい、 きょうへい そんなはずないのに おれの事置いて帰っちゃったんじゃないかと不安になる 『きょうへい、』 人が多すぎてきょうへいが見つからない ずっと、心臓がいやにドキドキしていて 苦しくなる 苦しい と、その場に蹲りそうになった しかし、 「シバ!ここに居たか」 と、肩を掴まれて振り向くと 『…きょうへい、』 「どうした、泣きそうな顔して」 『どこいってたんだよ、』 「惣菜買ってた。晩飯。お前だし巻き好きだろ」 『……置いてかれたかと思ったじゃん』 「いや、置いてくわけねえだろ」 『勝手にいなくなんなよ』 「悪いって。泣きそうな顔すんなよ」 『だって、きょうへいいなかったから、』 匡平いた、 置いてかれてなかった、と 安心感で視界が歪んで 情けなくなって下を向いた 「シバ、どうした?」 『なんでも、ない、』 「ごめんな、驚いたよな」 『……きょうへいの、ばか』 「シバ、もうタクシーで帰ろ」 と、腕を引いて改札から出て連れていかれる 何かきょうへいに話したいのに 喋ると一緒に涙が出そうになって ずっと黙ったままきょうへいについて行く 「シバ、他に食いたいものあるか?なんかいるならコンビニで買ってこうか。うちなんもねえよ」 と、言われたけど首を振る なんも食べたくないし早く家に帰りたかった その後は家に着くまで15分くらいずっと無言だった タクシーから降りて 家に入ろうとしたけどフラフラしてその場に座り込む 『きょうへい、気持ち悪い』 「あ?酔ったか?」 うん、と無言で頷くと きょうへいは背中を撫でてくれた 「ほら、荷物持ってやるから」 と、荷物を持ってくれたけど 頭がぐるぐるして立ち上がれなかった 「酔っちゃったか。シバー、帰ったらちょっとゆっくりしような」 うん、と頷いて そのまま2.3分くらい座っていたけど 匡平はずっと背中を撫でてくれていて ようやく少しだけ動けるようになると 身体を支えて立たせてくれて そのまま家に連れていってくれた 家の中に入ると いつもの匂いで少しだけ安心して きょうへいがお着替えをしてくれて 水とお湯半々のやつをくれて それを飲むと気持ち悪いのがようやく治まってきた 「疲れたか?駅で1人になってびっくりしちゃったか?」 と、聞かれたけど 首を振る 確かに、きょうへいいなくなってびっくりしたけど それだけじゃなかった 『きょうへい、寝る、』 「そうだな、ちょっと寝てな」 ベッドに行く時もきょうへいも一緒に来てくれて ベッドに横になると 隣でよしよしと背中を撫でてくれて落ち着いたのかもしれない、 何か言わなきゃ、と口がはくはくと動いてしまう けどなんにも言えなくて じっと匡平の顔を見ると 「シバー、1人にしてごめんな。早く寝な」 と、また頭を撫でてくれた 『おきたら、たまご、食べる』 「お前が起きるまで待ってるな」 と、きょうへいは言ってくれて ようやく嫌なドキドキが治った

ともだちにシェアしよう!