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第52話
「ごめん、お待たせ。どこ行く?」
『そこの焼き鳥、』
「おお、いいね。焼き鳥」
と、汰一と駅で待ち合わせして
焼き鳥屋さんに入ると
「とりあえずビール。祈織は?」
『…オレンジジュース』
「なに?お前酒飲めない?」
『飲めなくは、無いけど。今日ちょっと調子良くないから』
「体調悪いか?体調悪いなら別日でも良かったのに」
『んん、そういう訳じゃないけど』
「辛かったら言えよ?」
と、覗き込まれて
なんかむずむずした
『平気だから、』
「お、きた」
と、飲み物を乾杯して適当に焼き鳥を注文する
「ベーコントマト串だって。祈織トマト好きだろ?頼む?」
『あ、うん』
「つか本当に久しぶりだね。祈織卒業したらマジで消えたし。何やってたの?」
『卒業してすぐは…探偵事務所で働いてた』
「は?探偵?なに、真実はいつもひとつ的な?どんな事件あったの?」
『そんなアニメじゃないんだから事件ないよ。普通に人とか猫探したり、素行調査みたいな』
「へええ、なんで探偵なんかしたの?」
『家。出たかったから。探偵事務所、住み込みでさせてくれる所だったし、食事付きで』
「じゃあ別に探偵したかった訳じゃねえの?」
『うん』
「今の仕事探偵じゃないだろ?つか前名古屋で会った時は既に探偵してなかったよな?なんで?」
『探偵事務所、倒産して……まあ、老夫婦がやってたところだから。それで仕事も住むところも無くなって困ってたらあいつ、今の社長に会ったから、成り行きで』
「へええ、なんの仕事?」
『……まぁ、色々。風俗的な?』
「は?そんなん大丈夫なの?」
『まぁ、おれは事務系の仕事だし』
「まぁ、怪しくねえならいいけど…」
『怪しくは、全然ない。一般の介護用品とか清掃の下請けとかもしてるし』
「へえ。なんかよくわかんないけど…」
焼き鳥きた、と注文した分の焼き鳥を取り皿に取ってくれて
「あちいから気をつけろよ」
『うん』
と、おれが焼き鳥を食う仕草をじっと見られる
『あっ、ち、』
「言ったろ、熱いって」
『だって、汰一がずっと見てるからじゃん』
「関係ねえだろ」
ほら、ジュース飲みな、とオレンジを渡してくれる
『んん、』
べろがあつい、とジュースを飲んで冷やして
ようやくちょっと落ち着いた
「祈織、あのさ」
『…なに?』
「…いや。トマト。中すげえ熱いから気を付けろよ」
『うん』
と、今度はちゃんとふーふーして気をつけてたべる
「祈織、なんか変わってないな」
『……は?なに、どうした、急に』
「いや、別に。あの頃のままだなって」
『いや、けっこう身長伸びたけど』
「いや、そうじゃなくて…」
『汰一は…ちょっとなんだろ、がっしりした?』
「あぁ、そうかもな。鍛えてるし…」
『へえ、』
おれもあいつと一緒にちょっと鍛えようかな
「俺、祈織にずっと謝りたかったんだよね」
『…え?なんで?』
「覚えてんだろ、」
『だって、あれは……』
と、目をそらすと
汰一はグビっと一気にビールを飲んだ
「いや……俺もガキだったからさ、本当にお前に悪い態度とったし」
『だって…それは、おれが、お前の気持ちをわかんなかったから』
「いや、いやいや、それはちげえって」
すんません、お代わり
と、汰一はビールを一気に飲み干してからおかわりして
汰一が頼んだビールはすぐに来て
ぐびぐびと飲んでいた
「なぁ。続きなんだけど」
『え?うん、』
「俺…昔お前の事、好きになってさ……って今更いうと恥ずかしいな、それ」
『えー、と、うん…昔の、話でしょ』
「うん、昔の話だ。だから…いや、本当に悪かったなって。お前に振られたあと、あからさまにお前の事避けた事」
『……だって、おれは、汰一の気持ちに応えられなかったんだから、当然じゃん。つか流しちゃってたし』
「……まぁ、確かにあの流し方は酷かったけど」
『…ごめん、』
「いや、こっちすげえ勇気振り絞って言ったのに。お前『いや、何言ってんの。つか今日昼持ってきてないから購買いこ』って」
『………いや、本気だって思わなかったんだもん。お前だって、彼女、いたし』
「いや、そうだけど」
『……ごめん、お前の気持ち考えないで』
「いや、うん。それはそうだけど……今日は俺が謝ろうと思ってたんだよ。あの後……お前の事避けるような事してごめん。なんかさ、今でもすっげえ覚えてんだよね、あの時の顔」
あのときって、あれかな
おれが、最後に汰一と話した時、
『……おれ、どんな顔してた?』
「すっげえ傷付いたみたいな顔してた。でも俺あの時お前に振られた後だったからさ……振ったくせに傷付いたみたいな顔してんじゃねえよって思って…余計意地張ってた」
『……そうだっけ、』
「そうだよ。で、謝ろうとしても卒業したら連絡つかねえし……家から出てってるし」
『……汰一は、もうおれと会いたくないと思ってたから』
「そ、んな事、ねえ。ごめん祈織。俺が悪かった」
『おれ、汰一に言われるまで気付かなかったから。人の気持ち考えなすぎだって』
「それは、八つ当たりだって……振られたから、」
『おれは、汰一と今まで通りでいたかったんだ。汰一はおれの…唯一の友達だったから。ずっと一緒にいたいって思ってたし。汰一の事傷つけてるってことに気付かなかったけど。』
「いや、お前…そんなん、言ってなかったじゃん。言われなきゃわかんねえし……俺はてっきり俺の告白スルーしてって…」
『…汰一、おれのこと、怒ってねえの』
「だから、……怒ってねえって」
『…汰一、ありがとう』
ちらっと汰一の顔を見ると
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた
「なんか、ちゃんと話せばよかったな。意地張ってねえで」
『…そうかな、』
「お前言葉少なすぎ。ちゃんと言わねえと伝わらないだろって今更か」
と、ため息を吐いて言う汰一
『ごめん、』
「なんか祈織弱くなったか?すっげえ泣きそうな顔してんじゃん」
『だって、』
「泣くなって。ほら、ちょっと飲むか?」
と、ビールを差し出されたけど首を横に振った
『おれ、友達って汰一しか、いなかったんだよね』
「知ってる」
と、頭を撫でていた手を離して
おれの前髪をぐしゃっとかきあげ
顔を見られた
情けない顔してるかも、泣きそうな情けない顔
でも、汰一はそんなおれの顔を見て笑った
あ、懐かしい。おれの友達の顔だ、
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