53 / 212

第53話

ブーとマナーモードのアラームが鳴って 2時間経ったことがわかった 『あ、汰一。おれ、そろそろ今日は帰ろうかな』 「ええ、まだいいじゃん…って祈織今日調子悪いんだっけ?」 『あー、うん。ちょっとだけ』 「そっか、じゃあ今日は帰ろう……祈織さえ良ければ、また会わない?」 『えっと、おれは、全然いいけど』 「よっしゃ、じゃあ予定決めたら連絡するから」 と、汰一は 俺がお酒飲んでないからって今日は奢ってくれて店を後にする 「祈織家どこ?駅だろ?」 『あ、おれ、ロータリーに、来てくれるから。車で帰る』 「……あー、なんだっけ。社長の所住んでんだっけ」 『うん、けっこう近いから迎えに来るって。さっき連絡したら職場いたみたいでおれ拾って帰るって』 「あー、そっか。じゃあ迎え来るまで一緒に待つか?」 『いいよ、別に。子供じゃないし』 「そっか、じゃあまたな」 『うん、ばいばい』 と、手を振ると 汰一はすぐに人混みに消えていき さむ、とおれはポケットに手を突っ込んで きょうへいを待つ なんか、ちょっとだけ ずっとどっかに引っかかっていたもやもやがマシになった気がした よかった、汰一と会って それにしても冬本番で寒い トイレ行ってくれば良かったかも なんか、おむつの中濡れてる感じするし… しかも、それで冷たくなったからか、 おしっこまでしたくなってきた もぞもぞとコートの中で脚を擦り合わせていても最近全く我慢ができない身体は ちょろ、ちょろちょろ、とおしっこをこぼしてしまっていた 『っんん、』 やだ、オレンジジュース飲みすぎたかも、と 座り込みそうになった時だ 『わっ、』 ぴたっと、ほっぺたに暖かい物が当たって びっくりして振り返る 「わ、びびりすぎ、」 急に動いたのがいけなかったのか 驚いたのがいけなかったのか おれのゆるゆるの括約筋は呆気なく決壊して しゅううぅ、とおむつの中におしっこが溢れかえって脚が少しがくがくする 『っぁ、っ、た、たいちぃ、』 「祈織、どうした情けない顔して。驚いた?」 『お、どろいた、帰ったんじゃ、』 「ほら、待ってる間寒いから。温かいの。カイロにしときな」 と、先程おれのほっぺたに当てたペットボトルの温かいお茶をおれの手に持たせてくれる 『え、これ、かってきてくれたの、』 「あー。まぁ。うん、」 『あ、ありがとう、』 と、おもらししているのがバレないように できるだけ平静を装う 汰一の前で、全部おしっこ、でちゃった…… 「いいって、じゃあ、また今度な。連絡するから」 『うん、今度はおれが奢るから』 と、手を振ると ちょうどこっちに向かってくるきょうへいの車を見つけた 『あ、来たっぽい』 「そうか、ちょうど良かったな。じゃあな」 ばいばい、と汰一に手を振って 汰一が手を振ってくれたのを見届けてから きょうへいの車に向かった 『きょうへい、』 さむい、とすぐに車に乗り込んで きょうへいの顔を見た しかし、 「だれ?」 と、きょうへいは汰一の方を見ていて 目が合わなくてちょっとむっとして 『きょうへい、』 と、もう一度きょうへいの名前を呼んで きょうへいのほっぺたを両手で掴んでおれの方を向かせる 「うわっ、手冷たっ」 『ただいま』 「おかえり、シバ」 と、ようやくきょうへいと目が合って 安心した 『きょうへい、おれ、おむつの中におしっこ漏れた』 「酒飲んだの?」 『飲んでない、』 「帰るまで我慢できるか?」 『うん、』 「じゃあ急いで帰ろ」 と、きょうへいの温かい手でおれの手を掴んで離させて 少しだけ手を温めるようにすりすりと触ってくれてから車を発進させた 『…あれ、汰一。高校の同級生』 「…あきらくんじゃなかったんだな、今日」 『うん、今日は、汰一と話す約束…してたから』 と、車で家に着くまできょうへいはずっと無言で おれも何となく、なんて言ったらいいか分からなくてずっと黙っていた 「シバ、おむつ替えような」 と、家に着くと きょうへいはすぐにソファにタオルを敷いておれのおむつ替えの準備をしてくれたから おれもジャケットを脱いでかけて ベルトを緩めてそこに寝転がる おむつ、もこもこになってそうで見られんの、恥ずかしいな 「いっぱいでてんな、おしり冷たかったろ」 『…おしっこ、いっぱい漏れちゃって。おれ、我慢できなくなってる』 「いいよ、キレイにしような」 と、きょうへいはすぐにタオルとかも用意してくれておれのおむつの横を破っていく 「おしゃぶりするか?」 と、言われたけど しない、と首を横に振って ちんちん触らないように、太ももに手を置いて きょうへいに拭いてもらっている間は我慢する 温かいタオル気持ちい、 きょうへいにおむつしてもらうの好き、落ち着く 恥ずかしいけど はい、と自分でおしりを上げて拭きやすいようにするときょうへいは少し笑って 「シバ、いい子」 と、褒めてくれて余計恥ずかしくなった おれ、赤ちゃんじゃねえのに お尻を拭くと そのままテープのおむつを履かせられてしまって赤ちゃんみたいだけど おむつの中にいっぱいおしっこ漏らして赤ちゃんと同じだからしょうがなかった 『きょうへい、抱っこ』 と、おむつが終わるとすぐにきょうへいの上にのせてもらう きょうへいはいつものようにすぐによしよしと背中を撫でてくれた 『きょうへい、』 「どうした?」 『…この前、偶然駅であったんだ、汰一と…ってきょうへい汰一知らないよね?えっと、おれの高校の、同級生で…前、名古屋で一回会ったんだけど』 「知ってるよ、お前の、高校の頃の友達で。お前のこと……好きなやつだろ?」 『高校の頃の話ね。それで……おれ、汰一に酷いことしたんだ、昔』 「何したの?」 『汰一に、告白されて……でも、おれ本気だって思わなかったし、流して。それで普通に接してたんだ。汰一は友達だったから、ずっと一緒にいると思ってたしなんも変わらないで今まで通りだと思ってた』 「…うん。それで?」 『そしたら、汰一に言われた。祈織は人の気持ち考えなすぎだって……おれは、汰一と友達だったから。今まで通りにしたかったのに。汰一からしたら人の気持ち考えないで今まで通りにするなんてすげえ酷いやつだなって、言われて始めて気付いたから』 「…そういうもんか?」 『いや、そうでしょ?おれ、友達とかいた事ないからよくわかんねえけど……それでね、その後汰一はおれのこと避けるようになった』 「まぁ……学生だしな、」 『……それで、汰一が、その時の事ごめんって、今日』 「そうだったんだ、」 『おれは……おれがわるいことしたから汰一が怒ってんのなんて普通だと思ってたし…謝られるなんて思ってなかった。汰一もうおれのこと嫌いになったってずっと思ってた』 「あぁ、」 『でも、そうじゃないって言ってくれて…なんか、少し安心したっていうか…もやもや、少し無くなったんだ』 「そっか、よかったな」 『うん、それでね、』 「うん、」 『おれ、汰一の言った通り、人の気持ち…わかるの、苦手だから、きょうへいに嫌なことするかもってずっとこわかった』 「…は?俺?」 『うん。でも、今日、ちょっと汰一と話せてわかった』 「何が?」 『きょうへい、おれが嫌なことしたら、言って……おれ、頑張ってなおすから。何かあったら、ちゃんと話したいって。だから……きょうへいは、いなくなんないで』 と、きょうへいの目を見て言ったら 何故か大きくため息を吐いたきょうへい 「……お前最近おかしかったのそれか」 『……何が?』 「お前、その同級生と駅で会ったのっていつ?」 『この前、きょうへいと電車で取引先行った時?え?何が?』 「お前トイレ行ってちょっと俺とはぐれた時か?」 『え、うん、なに?どうしたの?』 「はぁ、そういうことかよ」 と、またため息を吐いたきょうへい 『なに?』 「祈織。お前その同級生に会ってからずっとその時の事1人でぐるぐる考えてて不安になってたろ」 『…えっと、そうかも、』 「だから最近妙に甘えん坊だったんだな。トイレも出来なくなるし」 『あ、まえんぼう、じゃないもん』 「甘えん坊だよ。俺にベッタリだったじゃねえか」 『だって……きょうへいとずっと一緒にいたいんだもん、』 「シバ。俺がお前から離れるって言ったか?」 『…言ってない、』 「だろ?だったら1人で不安になってるだけ無駄じゃね?」 『だって……汰一も、急に、おれの事避けたから』 「俺がそんなことするわけねえだろ」 『…そうだけど。不安に、なったんだもん。だから、全部きょうへいと一緒が良くなったから』 「シバ。俺はお前が不安に思う事全部無くなるまで全然一緒にするよ」 と、きょうへいに言葉にしてもらって 安心できた きょうへい好き、とぎゅっと、抱きついて すりすりと身体を擦り付ける だから、ちゃんと全部言おうって、 『…うん、きょうへい、』 「なんだ?」 『おれ、悪いことした』 「…何した?」 『きょうへいに、心配して欲しくて、わざとおしっこ漏らした』 「……いつの話だ?」 『…ヤナギさんと電話してる時。自分でトイレ行けたのに。きょうへいにして欲しくて、おしっこ漏らして。その後、おむつしてもらって…おむつの中にもわざとおしっこした』 「そっか、」 と、きょうへいは頭を撫でてくれた 「そんなんしなくても、大丈夫だから。もうわざとおしっこしなくていいから」 『………えっと、その後のは、わざとじゃない』 「……は?」 『おしっこ、何回かわざと漏らしてたら…本当におしっこわかんなくなっちゃった』 「…勝手に出ちゃうのは本当って事?」 『うん、』 「……シバ。トイレトレーニング、しような」 と、きょうへいはまたため息を吐いた 『きょうへい、おれ、こんなんだけど嫌じゃない?』 「嫌だったら抱っこしてねえよ」 と、背中を撫でてくれた やっぱりきょうへいはおれの飼い主で、 おれは、やっぱりきょうへいの事が好きだった

ともだちにシェアしよう!