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第68話
車に乗ってもシバは膨れていて
なんにも話さなかった
「シバ、いつまで膨れてんの」
『……膨れてないもん』
「じゃあなんで喋んないんだよ」
『……べつに』
「ちんちん触んな」
『…やだ』
「外でちんちん触んの恥ずかしいぞ」
『……外じゃないもん、車の中じゃん』
と、もみもみと手を動かしながら言うシバ
「……何がやだったんだよ、せっかく旅行来てんのにどこ行くか気になんねえの?」
『………』
「俺は観光行くからシバはちんちん触る方がいいか?」
『………きょうへいと、一緒の方がいい』
「じゃあちんちん触んのなしな」
『………うん、』
と、手を離したが
窓の外をずっと見ていて俺の方を見ない
しかし不意に、
『きょうへい、』
と、ぽつりと口にした
「どうした、」
『……おれ、きょうへいに怒られたのやだったんだもん』
「シバがわざとおむつでおしっこしたから怒ったんだろ」
『だって……きょうへい寝てたし……』
「おむつ自分で外すのできなかったか?」
『…できなくないけど、つまんなかったしちんちん先っぽむずむずして嫌だったからそのままおむつにした、』
「それで?」
『おむつの中、おしっこいっぱいになって、じゅわわって温かくなった』
「気持ちよかったか?」
『おしっこ、したのは気持ちよかったけど……すぐ、おしっこ冷たくなったし、どうしようって、なった』
「シバ、おむつでわざとおしっこしたらダメって俺言ってんだろ?」
『……うん、おれが、わるかった』
「そうだよ、シバ悪い子したから俺怒ったんだろ?」
『……怒ったから、きょうへい嫌になった?』
「……嫌になってねえよ」
『じゃあ……どうしたらいいの?おれのこと怒ってんの、』
「シバ悪い子したんだろ?そしたらどうすんだ?」
『……きょうへい、おむつの中にわざとおしっこしてごめんなさい』
「よし、ちゃんとごめんなさいできたな、シバ」
『おれのこと嫌いになってない?』
「なる訳ねえだろ」
『じゃあ、いっしょに、』
「シバ」
『…なに?』
「俺と一緒に観光してくれるか?」
と、聞くと
ぱぁあ、と効果音がつきそうな程顔が明るくなり
幻覚か、ぴょこんと立った耳とぶんぶんと振り回されるしっぽが見える
少しこちらに身体を乗り出して
『うん、なぁ、どこ行くの?観光、何見んの?』
と、ニコニコと聞いてくる
その顔を見ると
ちょっと怒りすぎたか、と思わず後悔してしまう
「とりあえず芦ノ湖」
『あしのこってなに?なにあるの?』
「何って言われると……まぁ、湖か?」
『湖?』
「綺麗だぞ、きっと」
『へえぇ』
「後海賊船ある」
『海賊船?海賊いるの?』
「いるかもな」
『へええ、きょうへい、楽しみ』
「楽しみだな」
と、ちらりとシバの方を見ると
もうちんちんいじるのはやめていて
芦ノ湖を調べ始めていた
忙しいやつだな、まったく
『おれきょうへいに怒られてもういっしょに観光できないかもって悲しかったし、後悔したけどきょうへい許してくれてよかったー』
と、ウキウキしながら言うもんだから
意地悪言いすぎた罪悪感と
こいつこんなにかわいくて大丈夫なのか?と心配になった
◇◆
『えええ、これ?うわぁあ、なにこれ』
「それどういう反応だよ」
『すげえなって』
「すげえよな。寒くねえ?」
『ちょっと寒いけど平気』
「シバ、写真撮るからそこ立って」
『え、なんで』
「せっかく旅行来たし」
『つかなに。そのカメラ』
「昨日買った」
昨日思い立ってつい買ってしまったカメラだ
シバと旅行と思ったらつい買ってしまったあたりは俺もかなり浮かれてるようだ
「ほら、そこ立って」
『ええ、』
といいつつ立ってけど微妙な表情で
「笑って」
『恥ずかしい』
「いいから」
と、シバはぎこちない笑顔を見せたから
かしゃりと写真を撮る
「ふっ、変な顔」
と、撮った写真を確認して思わず笑ってしまう
『おいぃ、変なら消してよ』
「やだよ、かわいいもん」
『変って言ったじゃん』
と、嫌がってこちらに手を伸ばしてくるシバの事も写真を撮っていく
『ちょ、何撮ってんの』
「いいじゃん、記念」
『なぁ、俺ばっかり撮ってないできょうへいも一緒に撮ろうよ』
「俺はいいって。シバ撮りたくて買ったんだもん」
『やだ、撮る』
と、カメラを持ってる俺の手に手を重ねカメラを奪ってくる
「つかどうやって撮んの、三脚とか持ってねえよ」
『いいから』
と、シバはカメラを持って俺の隣に来て手を伸ばす
『 いくよー』
と、言って顔を寄せてくるからカメラに視線を向けると
そのままかしゃりと撮ったシバ
『出来た』
「見せて」
と、撮った写真を確認すると
「俺らしか写ってないじゃん」
『いいじゃん』
と、せっかくの背景はほとんど写ってない俺らのツーショット
シバの目線はカメラのレンズじゃなく
シャッターに向かってるようで
若干視線もずれているが
「……このシバかわいすぎ」
『え?どこが?かわいくなくね?なんかボケってしてる顔しちゃったかも』
「いいじゃん。お前ほんとかわいいな」
『ええ、変な顔ってこと?やだから消して撮り直す?』
「やだよ、消さない」
と、シバからカメラを奪い返す
『もっときょうへいの顔撮りたいのに』
「俺はシバ撮りたいからダメ」
『えええ、』
「ほら、シバ、海賊船いるじゃん」
『おお、近く行く』
と、早速海賊船に向かったから
そのシバも写真で撮る
『きょうへいも早くー』
「おお、行く」
『おれもきょうへいの写真いっぱい撮ろー』
「そんなん撮っても面白くないだろ」
『きょうへいばかだなー』
と、すぐにiPhoneのカメラを向けてくる
なんだよ、馬鹿って
せっかく旅行来てんだから
写真撮るなら俺なんかより景色撮ればいいのに
『ほら、きょうへい、そこ立って』
「だからいいって」
『いいから!ほら、わらえよー』
と、言われて何となく恥ずかしかったがカメラに視線を向けようとするとか
カシャカシャと写真を撮るシバ
『…きょうへい変な顔』
と、写真を見て笑うシバ
「変な顔なら消せよ」
『やだって』
と、すぐにiPhoneを隠して
俺には見せてくれなった
俺の写真なんて撮って何が楽しいんだか
シバと違って見てて楽しい顔してねえだろ
『きょうへい』
「なに?」
『おれ、楽しいんだけど』
「へえ。シバ、俺も」
と言うと
嬉しそうな顔をしてだらしない顔で笑う
『おれやっぱりきょうへいのこと好きだなー』
と、シバはかわいい事を言いながら撮った写真を眺めた
なんだそれ、そんな楽しいか?
そんな楽しそうにすんなら
もっと早く旅行連れて来れば良かったな
『ほら、きょうへい。ぼーっとしてないで行こ』
と、少しだけ俺の手を掠めて俺を呼び
どんどん進んでいくシバ
うわ、手繋ぎたくなってきた
さすがに外じゃまずいのか?
初めての男同士の旅行、
友達、とはおよそ言えない関係性ということに今更ながら少し戸惑ってしまった
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