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第127話

『きょうへいなんで変な顔してんの?』 と、家の近くの駐車場に着くと そわそわしてなかなか降りない俺の顔を覗き込んで祈織が言った 「いや、もうちょい待てって、もう少しだけ」 『ねえ、もう行こうよ。おれおしっこ我慢してんだけど。漏れるだろ』 「ええ、我慢できねえの?」 『できない。漏れちゃったらどうすんの』 「わかったよ、行くか」 と、流石に漏らしたら大変、と お土産の菓子の入った紙袋をもって車から降りる 「どんな人?お前の両親」 『んー?普通だよ。母さん普通だしお父さんはあんまり喋らないかなー』 「そっか…」 家の前につき 深呼吸をしインターフォンを押そうとしていたが祈織はそんな俺を無視してさっさと玄関のドアに手をかける 「え、ちょ、チャイムは」 『おさないよ、そんなん。家だし』 「え、」 『ただいまー』 と、祈織はそのまま家に入ったから 俺も続いて入る 「おじゃまします」 と、間もなく足音が聞こえてきて 「あらいっくん。おかえり遅かったわね」 と、母親と思われる人物が顔を出す いっくん… 『うん、車できたから』 「おじゃまします」 「あら?いっくん、この人がお世話になってるっていう」 『うん、住ませてくれてる人』 「初めましてー、祈織の母です。いつも祈織がお世話になってます」 「久我匡平です、初めまして」 『ちょっとおれトイレ』 と、祈織はさっさと上がってトイレに向かってしまい そういや漏らしそうだったんだと思い出しながらも急に祈織の親と2人きりにさせられてしまう気まずい展開 「わざわざお越しいただいてありがとうございます、上がって下さいね」 「あ、いえ。急にすみません。おじゃまします」 と、出されたスリッパを履いてリビングに通される うん、普通の家 広すぎず狭すぎずの普通の一軒家だ 「突然おじゃましてすみません、一応これ、お口に合えば」 「あら、気を使っていただいてすみません、あの子が急に一緒に帰ってくるって言うものだから少し驚きましたけど。男手が必要だったので助かります」 『母さん、お父さんは?』 と、トイレから戻ってきた祈織は 俺の隣に腰を下ろしながら聞く 「お父さんなら客間で横になってるわよ、動けないから」 『そっかー。洗濯機と棚移動させるんだっけ?』 「あら、やってくれるの?」 『その為におれのこと呼んだんじゃん。男手必要っていうから一緒に来たし』 「あ、それなら先にそっち移動させようか?」 『うん、さっさとおわらせてゆっくりしよ。おれ疲れた』 と、先に風呂場の棚と洗濯機を移動させることにして 場所を聞き早速作業に取り掛かろうと 少し棚を解体し移動する 「こっちでいいか?」 『多分大丈夫、きょうへいありがとう』 「おう、これぐらい」 リビングに戻ろうとすると 『おれちょっとお父さんの所寄ってく』 と、客間だと思われる方に向かう祈織 『きょうへいも一緒に来て』 と、言われ 俺も挨拶をするために一緒に向かう 『お父さーん、』 「祈織か?」 『腰痛いの?大丈夫?』 と、部屋に入ると 畳の部屋に座るナイスミドル 祈織はお父さん似か 直ぐに祈織はお父さんの隣に腰を下ろすと お父さんは祈織の頭を撫でた 「あぁ、こんな格好で情けないね。そちらの方は?」 「久我匡平です。おじゃましてます」 『今、一緒に住ませてくれてる人。棚移動すんのも手伝ってくれたよ』 「親子共々お世話になり通しですみません」 「いえ、大変な時におじゃましてますので」 『お父さん久しぶり』 「そうだな、3年振りか?もっと帰ってくればいいだろ」 『だって姉ちゃん達にいじめられるし』 祈織はなんだかお父さんと仲が良さそうだな 「久我さんにご迷惑かけてないか?」 『…それは、わかんないけど』 「迷惑なんてかけてませんよ。仕事でもちゃんと働いてくれますし、毎日楽しく暮らしてます」 きょうへい、と祈織は立ち上がって 俺の手を引く 『お父さん、おれあっち行っているからなんかあったら言ってね』 「あぁ、わかったよ。祈織、ありがとう」 『うん』 「もういいのか?」 と、部屋を出て聞いてみる 『うん、会えたし』 「祈織お父さんと仲良いのな」 『お父さん昔から俺にやさしくしてくれんの。だから母さんより仲良いかも』 「へえ、お前甘えん坊だもんな」 『違う、甘えん坊じゃない』 お母さんといた時より甘えん坊な気がした 女だらけの家で可愛がられていたんだろうか リビングに戻ると お母さんがお茶とお土産のお菓子を出してくれる 『お父さんに会ってきた』 「お父さんいっくんに会いたがってたのよー、いっくん帰ってこないから」 『だってそんな帰ってくる用事ねえじゃん』 「そんな事ないわよ…それより、いっくん。ちゃんと久我さんの事紹介して?」 『あー、うん。えっと。くが…きょうへい、さん。おれのこと住ませてくれてる人で…会社の人』 「久我さんは上司の方?」 『うーん、上司?』 「直属の上司ってわけでもねえか?」 『そうだね?おれの上司は?やなぎさん?』 「まぁそうだな?」 「そうすると社内ではいっくんとあんまり関わりない部所なのかしら?」 『部所?っていうか?くがさん全部見てるから』 「あら?そうなの?」 『最近はずっとおれが後ろついてるよね?』 「そうだな?」 『上司っていうか社長だしね?』 「…しゃ、ちょうさん?え?いっくん、社長さんなの?」 「あ、はい、一応」 『言ったじゃん』 「聞いてないわよ!いっくん社長さんの所でお世話になんてなっていたの!?」 『言わなかったっけ?でも前のところもそうだったじゃん。事務所のオーナーのところ』 「それとこれとは話が違うわよ、もう、社長さんなんて…こんな何も用意していなくお恥ずかしい…って社長さんにリフォームのお手伝いなんてしてもらっちゃって。本当にすみません」 「いえいえ、そんな大した作業でもなかったので」 「お夕飯は食べて行ってくださいね」 「お気遣いありがとうございます。ごちそうになります」 『食べるの?帰ろうよ』 「…せっかくきただろ?」 「そうよ、お母さんはいっくんが普段どんな生活してるか知りたいわ」 『……普通だよ、そんなん』 「祈織はご迷惑かけてませんか?この子末っ子だったのでちょっと甘やかしすぎてしまって。家事とかもきっと…」 「まぁ家事は元から自分でも少ししてましたし、基本ハウスキーパー呼んでるので」 『…くがさんなんでもできるし、』 「社長さんすごいわね」 と、お母さんのその言葉に祈織は少し居心地悪そうに身をよじる 『ねえ、もうおれの部屋行こ。くがさんみたいだろ、おれの部屋』 「いいのか?部屋」 『うん、部屋行く。ご飯出来たら呼んで。行こ』 と、お茶とお菓子を持って立ち上がったから 俺も続いて立ち上がる 祈織の部屋か。 そういや、俺の家には祈織の部屋ねえなあ

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