135 / 212
第135話
「お土産あるから開けときな」
『うん』
と、祈織のシャワーを済ませて
とりあえず付けておいた汚した服を洗濯機に入れようとした時だ
「あれ?」
なんだこのタオル
うちのタオルじゃねえな
『きょうへ、』
と、いつの間にか後ろに立っていた祈織
に声をかけられ振り返る
「祈織、あのタオルどうした?うちのじゃねえだろ」
『…あれは、』
「うん」
『……下の階の人の、』
「…下の階の人?」
『………エレベーターで、おしっこ、もれそうで、下の階の人が、貸してくれた、』
「なんで?」
『下の階の人が、エレベーターいっしょに、乗ってて』
「うん、」
『おしっこ、漏れそうなの、ばれちゃったから』
「…ちんちんぎゅってしてたのか?」
『だって、』
「あー…もう」
『きょうへい、おこった、』
「…そうだな、」
『…ごめんなさい、』
「後でお詫びいっとくから」
と、情けない顔をしている祈織
俺はとりあえず新しいタオルと
お土産で買ってきたものをお詫びの品代わりに紙袋に詰め下の階の住民に謝りに行く準備をする
『きょうへい、あの、』
「ちょっと下の階の人の所行ってくるから」
『おれもいく?』
「いいって俺1人で。お前はおみやげ食ってな」
『えっと、うん、』
と、頷いたのを確認して頭を撫でる
おしっこ漏らしそうな所見られてんなら会いたくもねえだろ、と思いながらも
俺以外に祈織のそういう姿を見られたという事でもやもやしてしまい
少し祈織に冷たくしてしまったと後悔をしつつ
下の階に行き
インターフォンを押すとすぐに足音がして
ドアが開かれる
「はい、」
「あー、どうも」
「上の階の」
「あ、はい。久我です」
「どうされました?」
「…うちの、……が、お世話になったみたいで」
「いえいえ。大丈夫でした?間に合いました?」
「あー、まぁ」
間に合ってねえけど。
「ご迷惑おかけしてすみません。タオルも…お借りしたみたいで」
「いえいえ。タオルも捨てちゃっていいので」
「あ、これ。新しい物になるので」
「えー、今治じゃないですか。逆に気を使わせてしまったみたいですみません」
「ご迷惑おかけしたので。あ、あと良かったらこれも食べて下さい」
と、タオルとおみやげを入れた紙袋を渡す
「お、これ好きなんです」
「そうですか、良かったです」
「はい、一応エレベーターとかは汚していないのは確認しておいたので」
「そんな事まですみません」
「偶然乗り合わせただけですから」
「いや、本当にご迷惑おかけしてしまって」
「よくあるんですか?そういう事」
「……いえ、」
「弟さんじゃないんでしたっけ?」
「あ、はい。一応会社の者で」
「そうなんですね。特別な関係とか?」
「…いえ、それは」
「ただの隣人が聞いちゃいけないことでしたかね、忘れて下さい」
「…はい、」
「もし困ったこととかありましたら御相談下さいね?隣人の好で」
「いえ、今後この様な事が無いように気をつけさせます」
すみません、ともう一度お辞儀をして部屋に戻ることにした
なんか危険な感じするよなぁ、
気をつけよ。祈織男女問わずモテるからな…
部屋に帰ると
祈織は玄関で座って待っていた
「なに?ずっとここにいたのか?」
『…うん、』
「謝ってきたから心配すんな」
と、頭を撫で腕を組んで引いてたたせるが
何やら浮かない顔をしながら着いてくる
『怒ってた?』
「怒ってねえよ」
『…そっか、』
「お土産開けてねえの?」
『だって、』
「どれ食っていいかわかんなかった?」
と、大きな紙袋の中から
1つ箱を出して渡すと
祈織はそれを受け取り
何故か少しだけちらりとお土産の袋を見る
『下の人に買ってきてなかったでしょ?おれ食べて足りなくならない?』
「多めに買ってきてるから大丈夫だよ。要らねえの?」
『…いる、』
と、ようやく安心したのか
包装を空ける祈織
『…きょうへい、実家、どうだった』
「どうした?さっきもその話したろ?」
『…そうだけど、』
落ち込んでるのか
漏らして迷惑かけたから
と、ようやく理解して
「祈織、おいで。抱っこしよ」
『…抱っこ、』
「しねえの?」
『する』
と、おずおずの俺の上に乗ってきて
スンスンと匂いを嗅いでくる
「どうした?漏らしたのやだった?」
『…きょうへい、』
「なに?」
『…お見合い、すんの?』
と、不安そうな声で聞いてくる
そこで様子がおかしかった理由にようやく気付く
そういやさっき下の階の人の所に行く前も何か言いたそうな顔してたな…
「は?しねえよ」
『でも写真…入ってたじゃん。お土産の袋のなか』
「無理やり持たされたんだよ。ちゃんと断るから」
『誰に、』
「父さんと叔父さん。俺が結婚しないからって心配になったんだと」
『……』
「1回断ったぞ?ちゃんと。でもよく考えろって」
『…そっか、』
「大丈夫だよ、別にお見合いなんてしねえし」
と、祈織の背中をなでなでと撫でるが
『…したかったら、すれば、』
と、祈織は俺に寄りかかっていた身体を起こした
「は?なんで?しねえし」
『でも、』
「でもってなんだよ。なんでお前がそんな事言ってんの?俺しねえって言ってるだろ?」
『…だって、結婚、心配してんでしょ。きょうへいの家族、』
「いや、そうだけど………お前は嫌だろ?俺がお見合いなんかしたら」
『…おれは、』
至近距離でみつめてくる祈織の目が揺れている
『おれじゃなくて、きょうへいがしたかったら、すればっていってるのに、』
勝手に頭の中で、
祈織なら絶対お見合い嫌だって言ってくれるとどこかで期待していた
それなのに、こいつは一切俺のお見合いを止めない
「お前、俺が結婚してもいいの?」
『………きょうへいが、したいなら、するんでしょ、』
と、祈織は言って
俺の上から降りて背中を向け
お土産を食べ始めた
なんで止めねえんだよ
お前に嫌って言われたら
お見合いも結婚もしたくねえって言えるのに
「……風呂入ってくる」
『んー、いってらっしゃい』
と、こちらを見ないまま言った祈織
どんな顔してんだよ、お前
ともだちにシェアしよう!