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第136話
あれからお見合いの話は出なくて
おれも聞かないからきょうへいも教えてくれなくて
なんとなくその話題は出さなくて
なんとなくお互いいつも通りだった
でも、ずっとおれの中にもやもやが残っていて
夜も悲しくなって目が覚めたり
おねしょも増えてよけい嫌になっていた
チラッとだけ見たお見合いの写真
今どきお見合いなんてって思ったけど
きょうへいはおれより10個くらい歳上だから
もう結婚しなきゃいけない年齢なのかもしれない
社長だし
「なぁ、スイカ食お」
と、きょうへいは1口サイズに切ったスイカを器に入れて出してくれる
『…いらない、』
「いらないってお前好きだろ、スイカ。もう今年食えなくなるよ?」
『でもいらない』
「おねしょ気にしてんの?いいって。おむつ履いて寝よ」
『おむつしてもおねしょはおねしょじゃん』
「ええ、切ったのに食わねえの?今年最後だぞ?」
『…だって、』
「食わねえの?」
と、言われると食べたくなる
『…食うから、』
食いたい、と手を伸ばすと
きょうへいはすぐにおれの手にそれをのせてくれる
「お前意外にフルーツすきだよな、桃とか梨とか苺とか。あ、柑橘系も好きか」
『おいしいじゃん、食べやすいし』
「俺がお前のために食べやすくしてんだろ」
『そうだけど』
スイカうまい
水分いっぱいだからすぐ飲み込めるし
甘くてすっきりしておいしい
「でもお前いねえと俺もフルーツ食わねえからちょうどいいな」
『きょうへいフルーツ食べないの?』
「ひとり暮らしだとそんな食わねえからなあ」
『そうなの?』
「…ってお前何気ひとり暮らしした事ねえのか。実家出てるから忘れてた」
『うん』
きょうへいはおれが来るまではひとりだったのか
「1人だとわざわざフルーツなんて買わねえよ。1人で食うには量多いし。その前にあんまり自炊とかしなかったからな」
『そうなの?きょうへいいつも作ってくれるじゃん』
「いつもじゃねえけどな。お前家で食うの好きだろ」
『うん、きょうへいが作ってくれんの好き』
きょうへいが作ってくれる物はなんでも好き
早く家に帰って2人になりたい時とか
お腹空くとすぐにうどんとかしてくれる
朝だっておれが食べやすいように
おにぎりとかウィンナーもタコにしてくれるし
フルーツもいつも1口サイズに切ってくれるから手もベタベタにならないで食べられる
おれが、飼い犬だから、
きょうへいがご飯の世話してくれてて
でも、きょうへいが結婚したら
飼い犬辞めなきゃいけないんだ
おれは飼い犬だからきょうへいと結婚できないから
そこまで考えた所で
悲しくなってスイカを食べるのをやめて
テーブルに器を置く
「あれ?残ってんじゃん。食わないの?」
『…明日の朝、食う』
「まだ残ってるから明日新しいの切ってやるから食っちゃいな。もう食えないなら無理しなくていいけど」
『…だって、』
「おねしょ?」
『…、』
「別におねしょしてもいいって」
『それは、おれが、』
「ん?」
『おれが、きょうへいの、ペットだから?』
「どうした?急に」
『だって、おねしょやじゃん。迷惑かかるし』
「まぁおむつしてなかったらびしょびしょになるからなぁ」
『でも、犬だから、おねしょしてもしょうがねえの?人間みたいにちゃんとできないから、』
「何言ってんだ?お前」
『だって、』
「犬ってお前は人間だろ」
『…でも、ペットじゃん、』
「ペットとか関係ねえよ。お前だからベッドびしょびしょにしてもいいって言ってんだよ」
『なんで?』
「…かわいいから。お前の事が」
と、予想外の言葉に
少しだけ動揺した
きょうへいがそんな事言うなんて思ってなかった
ペットの世話は飼い主の役目だからって
言うと思ってた
『…かわいいっておれ、子供じゃないし、』
「まぁ、たまに赤ちゃんだけどな」
『ちげえし』
「…お前の事、かわいいし、大事に思ってるから世話すんのも嫌じゃねえんだよ、俺は」
『なんで、そんなこと、いうの』
「…なんだよ、恥ずかしい事無理して言ったのに」
そんな事言われたら、
きょうへいが結婚すんの嫌って
ずっとおれの事大事にしてって言いたくなっちゃうじゃん
『おれ、我慢してたのに』
「何を?」
『…お見合い、』
「していいんだろ、」
『するんだろ、きょうへいのバカ』
「じゃあなんで不貞腐れてんだよ」
『…だって、きょうへいの家族が、結婚した方がいいって言ってんだよ、おれがなんか言えねえもん』
「なんで?言えばいいじゃん、それくらい。お前俺がお見合いすんのどう思ってんのか」
『…そうじゃないじゃん。おれだけわがまま言えないじゃん。きょうへいと、家族の人の将来というか、』
「お前子供だと思ってたらいつの間にかそんなん考えるようになってたんだな」
『なんだよ、それ』
「いや、別に。つか俺もお見合いも結婚もしたいと思ってねえし」
『…でも、お父さん、』
「親父は別にいいんだよ。あれは叔父さんに流されてるだけだし叔父さんのは冷やかしだし。大体うちは跡取りのコタがもういるから俺はどっちでも問題ねえの。景子さん2人目出来てるし。ミサもいるし」
『でも、』
「なぁ、何?でもって」
『だって、』
「なぁ祈織、でもとかだって、じゃなくてお前はどう思ってんの?お前の気持ちを教えて欲しいんだけど。俺がお見合いしていいの?」
そんなの、
『嫌に決まってんじゃん!わかってんだろ、そんなの』
「だったら最初からそう言えばいいんだよ」
と、きょうへいはおれの頭を撫でた
『わがまま、言いたくなかったんだもん』
「好きなだけ言えばいいだろ?」
『困るじゃん、きょうへい』
「さっきも言ったろ?俺はお前の事がかわいいから困らされんの嫌じゃないんだよ」
『…じゃあ、お見合いしないで、』
「あぁ、お見合いしねえから。今日は安心して寝な」
『…うん、』
「お前最近いっつも夜泣いてたもんなー」
『…泣いてないもん』
「覚えてねえの?お見合いいやーって泣くからいっつも夜もよしよししてやったろ?」
『………しらないもん』
覚えてねえけど、
最近起きたらいっつもきょうへいが抱きしめてくれていたのはわかる
「お前毎日夜泣きするからよしよししておしゃぶりさせて寝させてたの覚えてねえの?」
『赤ちゃんにしてるじゃん、』
「次嫌なことあったら起きてる時にちゃんと俺に言えよー」
と、きょうへいに笑われた
なんだよ、
おれが、お見合いいやなの分かってるのにわざわざ言葉にさせられたのも恥ずかしかった
おれはきょうへいの赤ちゃんでも飼い犬でもなくて
ちゃんと対等になりたいから
やっぱりもっとしっかりしよう
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