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第138話

「あぁ、お前がいてくれて本当良かった」 「そんな大袈裟な。やっぱりシバくんとかには言えないんですか?」 「あいつには言えねえって。ヤナギもシバには内緒にしといてな」 「はーい、了解っす。なんかあったらまたご相談しますね」 送迎の待機時間中に 社長室に入ろうとしたタイミングで聞こえてきた会話を思いだす きょうへいとヤナギさんの会話だ おれに言えない事、 おれができないけど ヤナギさんならできる、ヤナギさんが居てくれてよかったって、きょうへい言った おれにはそんな事言わないのに はぁ、とため息を吐いて時計を見る もうすぐ待機時間も終わるから迎えの準備しなきゃ なんの話ししてたんだろ、きょうへいとヤナギさん ヤナギさんがいてくれて良かったって それでおれに言えない話、 おれに言えないって事は 仕事のことじゃないのかな 会社に帰るまでの間もずっともやもやと考えてしまった 最近すぐにきょうへいの言動で不安になる おれってそんな弱かったんだっけ こんなんだからきょうへい、おれに言えないでヤナギさんに頼るのかな、 最近、お見合いの事とかも不安になって きょうへいに心配かけてた しっかりしよ、と パシパシとほっぺたを叩いて 気合いを入れて 社長室のドアを開けた 「おお、おかえり祈織。大丈夫だった?」 『うん、べつに普通』 「そっか。俺時間空いたから焼売買ってきたぞ。あと肉まんも」 『すき、それ』 「じゃあ早く帰ろ」 と、きょうへいは鞄を持ってくれようとするけど 『大丈夫』 と、自分で持って きょうへいの後をついて行く 「祈織、送迎から帰ってからおしっこ行った?」 『行ってない、べつに平気』 「平気じゃねえよ、一応帰る前に行っとこ」 しょうがない、と思いつつトイレに行くと きょうへいはおしっこをさせてくれる 『きょうへい、おれ自分でできるよ』 「さっき漏れちゃったろ?」 さっきはさっき、 今は今だし さっきはちょっと失敗したけど 今はあんまりトイレ行きたくなかったし トイレまで来たら自分でできるし 『自分でできるから赤ちゃんにすんな』 「わかったよ。ごめんごめん」 と、きょうへいはズボンを元に戻してくれて 『おれ、もう赤ちゃんじゃねえから自分でできるし、きょうへいもおれに頼っていいんだよ』 「そっか、ありがとうな」 と、笑われてしまった おれは本気で言ってるのにな でもきょうへいに言っても きょうへいはおれには求めてないことわかってるから言わないけど だっておれはペットだし 『にくまん、』 「腹減ってんの?」 『うん』 「早く帰るか」 『早く食べたい』 「551あるだろ?それが期間限定で出てたから買ってきたんだよ、肉まんじゃなくて豚まんか」 『551?』 「関西の豚まん有名な店。知らねえ?」 『うん、知らない』 「知らねえんだ。うまいよ」 と、きょうへいは車に乗る前におれの頭を撫でた 『なんで頭撫でたの?』 と、シートベルトを締めながら聞いてみる 「…べつに、何となく」 『なんとなく、』 「お前が可愛い顔してたからだろ」 『してないよ、そんなん』 「してたろ。無意識」 『きょうへいおれがかわいいの好きだからなあ』 おれがかわいかったらそうやってかわいがってくれる 多分きょうへいが求めてるのはかわいいペットだ しっかりしようと思ってたけど そんなん意味無い気もしてきた それなら きょうへいの前ではかわいい方がいいのかな、ずっと 『きょうへいはさ』 「うん、どうした?」 『おれのどんな所がかわいいの?』 「なんだよいきなり」 『いいじゃん、教えて』 「ええ、どんな所?」 『かわいいっていつもいうじゃん』 「……顔?」 『………かお?』 そんなん言われたらどうしようもないじゃん、 きょうへいの前でかわいくしようとしてたのに、 顔はどうにもなんないじゃん 「お前俺の前だとかわいい顔するからな」 『ええ、顔以外』 「なんだよ、そんなん急に言われてもわかんねえって」 『…かおかあ、』 「他にもあるって」 と、きょうへいは遠くを見ながら言うから おれは車の窓に寄りかかって目を閉じた 『…おなかすいた、』 「帰ったらすぐ食おうな」 顔かぁ… 顔がいいとかはまぁよく言われるけど かわいいって言うのはきょうへいくらいだか そんなかわいい顔してないと思ってたなぁ キャストの子とかにもかわいい系の子いるし もっとかわいくなる為になんかした方がいいのかな あきらくんに今度聞いてみよ あきらくんなんか顔に色々塗ったりしてるし 「お前俺にすげえ懐いてるだろ?」 『うん?それが?』 「…かわいいなぁって」 『…そっか、』 「うん」 『じゃあおれきょうへいにはずっとかわいくすんね』 べつに、かわいいって言われても嬉しくねえけど きょうへいはきっとおれがかわいい方がうれしいし 「どうやんの、それ」 『…わかんないけど、かわいくするから』 「お前かわいくなりてえの?」 『ずっとかわいくするから、』 「うん、?」 『きょうへいもずっとおれのこと大事にしてよ』 「そんなん、当たり前だろ」 きょうへいなら、 そう言ってくれると思ってたけど 言葉にしてもらわないとすぐに不安になる めんどくさくないかなって思いながらも言ってしまった 『…おなか、すいた』 「そうだな、早く帰ろうな」

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