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第143話

『…あ、』 「どうもこんにちは」 『こ、んにち、は、』 気まずい、と目を逸らす この人、この前エレベーターで一緒になった人、 謝った方がいいんだろうか、 迷惑かけたし、タオルダメにしたし できればもう会いたくなかった、恥ずかしい 『…このまえ、ごめんなさい』 「いえいえ。久我さんも謝りに来てくれたし気にしなくていいよ。君も大変だったね。あ、お土産ご馳走様って伝えといてくれるかな?」 『…あ、はい、』 「お兄さん…ではないんだっけ?」 『…はい、』 なんて言えばいいんだろ、 『おれが…いそうろうです』 と、どうにか答えて目を逸らした もう話したくない けど、その人は話しかけてきて 「そうだ、美味しいカラスミが送られてきてね。後で持っていってもいいかな?」 『え、からすみ?』 なにそれ、 「君はお酒とか飲む?」 『あんまり、飲まないです』 「久我さんは?」 『飲みます』 「じゃあ持っていくよ。久我さん家にいる?」 『あ、はい。今日は多分先帰ってます』 「そうか、そしたらすぐ行くね」 と、7階でその人は降りていった あの人、きょうへいと仲良いのかな、 家に帰るときょうへいが珍しくキッチンに立っていた 『何してんの?』 「おかえり。早かったな。飯作ってんの」 『なに?』 「…唐揚げ作ろうとして挫折したとこ」 『からあげ食いたい』 「挫折したって言ったろ」 『なんで?』 「…いや、揚げ物ハードル高ぇし。失敗したら嫌だろ」 『きょうへいならできる』 「なんだよ、その自信」 きょうへいなんでもできんじゃん 窓の掃除以外 『からあげくいたいなぁ』 「いや、諦めたって。今度な。食いたいなら今日買いに行ってもいいけど」 『いい、今度で。何作るの?』 「揚げ物以外で何食いたい?」 ええ、ちょっとからあげの気分だからな でもきょうへいが作ったものならなんでもいいけど、 あれ、そう言えばなんだっけ 下の人 『…からあげ、あれ、なんだっけ。なんか、から?なんか、持ってくるって』 「そんな唐揚げ食いたいか?」 『じゃなくて。から、…きょうへいがからあげっていうからわからなくなった』 「は?何?なんの話?」 『さっきエレベーターで』 と、続きを話そうとした時だ インターフォンがなる 『あ、』 「なんだ?」 『下の人、』 と、玄関に向かうきょうへいを追いかけながら言うけど スタスタときょうへいは玄関に歩いていって おれはあんまり顔を合わせたくないから 玄関から1番近い部屋のきょうへいの部屋のドアに隠れて そっと玄関の方を覗く 「はい」 「こんばんは」 「あ、こんばんは。どうかされました?」 「あれ?あの子から聞いてないかな?」 「え?いや、」 「この前お土産ご馳走様でした。美味しかったです」 「いえいえ。ご迷惑おかけしたのでほんの気持ちです」 「それでこれ。いいカラスミが手に入ったのでおすそ分けです」 「え、いや、いいんですか」 「はい、お酒飲むとお伺いしたのでよかったらおつまみにでも」 「うわ、すげえいいやつじゃないですか」 「はい、おいしいと思うので是非」 と、下の人はちょっときょうへいと話して帰って行って おれは会いたくないからずっとドアのところに隠れていて きょうへいが玄関のドアを閉めてリビングに戻ろうとするからついて行く 「お前。ちゃんと挨拶しろよ。つかなに?なんか言われてたの?」 『エレベーターでさっきあって挨拶した。それで、あとで届けにいくって』 「…言えよ、そういうこと」 『だって。言おうとしたじゃん』 「そうだったか?」 『そうだったのに、きょうへいがからあげって言ったからわかんなくなったんじゃん』 「なんで?」 『えっと、から?』 「なに?カラスミ?」 『うん、それ』 「なに、お前カラスミ知らねえの?」 『うん、知らねえ』 「お前たまにそういう所あるよなー。うまいよ。酒に合う。一緒に食お」 と、きょうへいはキッチンに戻って 切ったたけだったからあげようの肉をさらに少しだけ小さく切って竹串に刺す 『何にするの?にく』 「簡単に焼くだけ。串に刺してたらお前も食えるだろ」 と、焼き鳥みたいにしてくれる 『おれ、別に普通に食えるよ』 「お前案外食べれない食べ物少ないけど甘えて食わねえだろ」 『食うって』 「まぁいいだろ、居酒屋気分」 『じゃあ卵もして』 「たまごなー」 『おれも一緒に酒飲む』 「えぇ」 『だめなの?家じゃん』 「遅いからやめとけば?おねしょしちゃうだろ」 『…もういい』 と、きょうへいが料理してるのをもう見るのやめて着替えに行くことにした おれだってきょうへいと一緒に酒飲みたかったのになー 子供じゃねえから飲めんのに 「うぉ、いいねえ、カラスミ」 と、きょうへいは楽しそうにご飯の準備をしていた 『なぁ、』 「どうした?」 『下の人きょうへいと仲良いの?』 「そうでもねえけど。別にたまにはあるだろ、おすそ分けとか」 『そうかな?』 なんか違うんだよなぁ、あの人 なんかきょうへいの事久我さんってちゃんと名前で呼ぶし 『きょうへい、やっぱりおれもお酒のむ』 「ちょっとだけだからな」 と、きょうへいはおれにもお酒を分けてくれて 下の人にもらったやつもくれた 「今度あったらお前からもお礼言えよ」 『ええ、』 やだな、あの人とは あんまり会いたくないなぁ

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