145 / 212
第145話
「お前って童貞だったっけ」
『…なんだよ、朝から』
と、朝からきょうへいにされたなぞの質問に首を傾げながら無視して歯を磨く
「いや、俺以外とした事ないよなって」
『…そうだけど、なに?』
「いや、別に」
と、きょうへいは俺の頭をぽふぽふ撫で髭剃りを始めた
なんだよ急に
童貞だけど。
…まぁいいや、とそのまま口をゆすいで
きょうへいにネクタイをいつも通り巻いてもらうことにした
『今日はフレンチトーストの気分』
「そういや最近行ってなかったな。行くか」
『うん、そうする』
と、フレンチトーストを食べに連れて行って貰うことにして
荷物を準備する
「あ、祈織。新しいパンツ鞄に入れとけよ」
『ええ、』
「お前昨日替えたから自分で持ってるやつ使ったろ?」
『そうだけど…』
昨日は送迎でちょっとタイミング逃して少しだけ濡らしただけだから大丈夫なのに
最近おもらしはしてないし。
昨日はおねしょしたけど…
おねしょだけだから昼間は大丈夫なのに、と思いつつ
きょうへいが持ってるのもこもこパンツだけだから
仕方なく大人パンツを専用の袋に入れてバッグの中に突っ込む
持ってなくても大丈夫だし
「ほら、準備できたか?」
『うん』
「よし行くかー」
と、2人で家を出てきょうへいの車に乗り込もうとしたが
「あ、今日帰りの時間ズレるだろ。車お前ので行きな」
『ええ、きょうへいと同じ車がよかった』
「まぁ帰りタクシー使うならいいけど。今日俺遅くなるし。でも祈織今日送迎三昧だろ?なら自分の車のがいいだろ」
『…んんん、わかったよ、そうする』
自分の車を運転するのは嫌いじゃない
でも、朝のきょうへいと2人で出勤したり
車で2人っきりでいる時間の方が好きだからちょっと残念に思いつつ
仕方なく自分の車に乗り込み
きょうへいの後に続いて車を出す
きょうへいはおれと出勤のとき話せないの何とも思わないのかな?
それぞれの車に乗って向かう喫茶店は何だかいつもより寂しくて
さっきまで食べたかったフレンチトーストもあんまり食べたくなくなってしまった
いつものように奥の席に向かい合って座ると
きょうへいが目の前にくるから
じっときょうへいの事を見るが
きょうへいはすぐにメニューを手に取り
「フレンチトーストでいいか?」
と、きょうへいは確認してくれるけど
『なんかココアだけにしようかな』
「なんで、食いたかったんだろ」
『そうだけど、』
「食えるなら食いな」
と、きょうへいはフレンチトーストと
自分のモーニングプレートのコーヒーセット
「ココア?」
『カフェラテ』
とフレンドトーストを注文する事にしたから
いつものカフェラテにした
おれココア飲むの、フレンチトースト食べない時だけじゃん
しばらくしてフレンチトーストと
きょうへいのモーニングプレートが運ばれてきて食べ始めようとするけど
『きょうへい』
「どうした?」
『今日は帰ったらドラマ続きみたいんだった、録画してたやつ』
「あぁ、そうだな。飯食ったら見ような」
『うん、あと、ハート送って。今日来てない』
「あぁ、忘れてた、悪い」
と、きょうへいは食べ始めた
『なぁ、きょうへい』
「…祈織、冷めるから早く食いな」
『でも、あれ、会社のこと、今日は送迎の待機の時にきょうへいのファイルまとめるじゃん、』
「あぁ、会社ついたら送っとくから」
『…うん』
と、そりゃそうだけど
なんか物足りなくて
カフェラテだけ先に砂糖をいれてくるくると交ぜる
「祈織、自分で切れねえの?切ってやろうか?」
『…できるし』
「じゃあ早く食えって」
『いいじゃん、おれが何先に食おうと』
「そんな時間ねえのわかってんだろ」
『…だからココアだけでいいって言ったんじゃん』
んだよ、べつにそんな急いで食わなくてもいいじゃん
きょうへいはため息を吐いて
おれのフレンドトーストを食べやすいように切り分けはじめてしまった
きょうへいに呆れられたかもって
もやっとしたものが広がる
「なんで機嫌悪いんだよ」
『…悪くねえし』
「じゃあ何いじけてんの。お前がフレンチトースト食べたいって言ったんだろ」
『だって。今日車別々だから車で話せないじゃん。だからおれはまだきょうへいと話したかったのに』
「食いながらでもできるだろ、会話」
『…でも、だって……きょうへいなんか変』
「何がだよ?」
『なんか、あんまりおれのこと見てないじゃん』
「そんな事ねえって」
『うそだし、メニューしか見てなかったじゃん』
「…そんな事ねえだろ」
『だって話した時も携帯見てたじゃん』
「…祈織。早く食いな。時間なくなるから」
『…おれ、きょうへいになんかした?』
「べつになんもねえって。ちょっと考え事してただけ。悪かったって。ほら、切ってやったから自分で食えるだろ」
と、きょうへいは
顔を上げておれのことをちゃんと見てくれた
『ほんとに?おれと話したくないとかじゃない?』
「ちがうって。悪い。今日ちょっと遅れ気味だったから早く済まそうとしちゃったな」
『…うん。……フレンチトースト、食うね』
「ああ、食って会社ついたら、車で話せない分ちょっと2人で話してから働こうな」
『うん、そうする』
と、今まであんまり食べたくなかったフレンチトーストもすぐに食べれて
早く会社に向かいたくなった
会社までの道のりも1人だけど
車の中できょうへいと何話したいか考えておこう
ともだちにシェアしよう!