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第151話

いつも通りに戻っているつもりだった ただ、祈織は 以前に増して甘えん坊になって ちょっとしたわがままが増えていた でも、それはそれで求められている感じがして 悪い気分ではない 付き合ってなくても このまま依存させて 俺から離れなくなればいいとすら考えてしまう 「あれ、どうした?自分で着替えたの?今日」 『うん、着替えられるし』 「ほら、ネクタイだけしてやるから」 『後ででいい』 と、ぷい、とさっさと家を出る準備をしてしまう あれ、今日は甘える気分じゃねえのかな 「朝飯、どこ行く?」 『あんまりお腹空いてない』 「スープの所にするか。今くえなそうならお持ち帰りにしよ」 と、祈織を 助手席に乗せて出発して しばらくすると 仕事の話をしていたが ふと黙り込んで窓の外を眺めだした祈織 今日は機嫌あんまり良くねえのかな、と あんまり気にしてなかったが 『ぅ、っ、んっ、ぅえ、っ』 と、口元を抑えた祈織 「あ!?どうした?吐いた?」 『んっ、きもちわ、る、っ、はきそう、』 「大丈夫か?どうした急に」 運転しながらちらっと隣を見ると 顔を真っ青にして口元を抑えていた 「ちょ、ちょ、ちょ、待って。すぐ寄せるから」 と、すぐ路肩に寄せて 窓を開けてやる 「ほら、どうした?気持ち悪くなっちゃったか?」 袋、と後ろに置いていた荷物に手を伸ばし 祈織のおむつを捨てるようの黒い袋を出して 開いてやるが首を横に振る 「気持ち悪いなら1回吐いちゃいな」 と、背中をさするが首を横に振る 『むり、おれ、吐くの苦しくてできないから、』 「じゃあどうする?我慢すんの?」 『ちょっと酔っただけだから…大丈夫、』 「お腹痛かったりは無いか?」 『ない、』 と、その様子を見てわかる 朝から体調良くなかったな、こいつ 「…そしたらちょっと落ち着いたら帰るか。もう今日は寝てよ。お前朝から具合悪かったんだろ」 『やだ、ちょっと酔っただけだから、』 「でも朝からなんか身体おかしかったんだろ?」 『ちょっとだけ、ぼーっとした』 「…熱でてんのか?」 と、おでこを触るが熱は無いようだ 「熱はねえか…どうした」 『…わかんね、ん、きもちわるい』 「ちょっとだけ車動かすから、吐きそうならそこに出しちゃいな」 とりあえず空気吸わせるか、と 車を停められるスペースを探しても近くにコンビニなどなく どうするか、と少し迷ったが 「3分くらい我慢できるか?辛かったら吐いちゃっていいから」 『…うん、窓開けてたらちょっとマシ』 会社に連れて行っても良いが結局こんな状態じゃ働かせられない とりあえずこんな路肩じゃどうしようもない、と祈織の服を緩めてから 車を発車させるが やはり祈織は気持ち悪そうに目を閉じている 『んん、ぅ、ぇ、っ』 「ちょっと我慢してな、すぐ着くから」 と、声をかけながら車を移動させ 駐車場を探す 「ほら、着いたから」 『んん、あれ、ここ』 「そう、ホテルだよ。ほら、契約してる部屋空いてんだろ、この時間」 最近新規で契約したホテルが今の時間帯は空いているはずだ とりあえず少しここで休ませて様子を見ることにした 祈織は車を降りたが やはり気持ち悪いようで 地面にしゃがみこむ 『んっ、はく、』 「大丈夫か?ほら」 と、口元に袋を当て背中をさすってやるが 背中をぴくぴくさせるが 吐けないようで辛そうに息をするだけだ 「落ち着いてからでいいから動けそうになったら部屋行こうな。ちょっと俺鍵とってくるから」 と、一刻も早く部屋に寝かせてあげようと先にカギを取りに行こうとしたが 『や、やだ。行っちゃやだ』 と、しゃがみながらも俺の裾を掴む 「鍵とってきたらすぐ戻るから」 『や、やだっ、きょうへい、いっちゃやだ』 と、スーツがシワになるくらい裾を握るから 「わかったよ、お前が動けるようになったら一緒に行こ」 と、隣にしゃがんでやると 少し落ち着いたのか ふぅ、と息を吐いた 「抱っこしてくか?」 と聞いても首を横に振る 『…治ってきた、歩ける、』 と、ゆっくりと立ち上がって息をするが ただ顔は真っ青だ 「じゃあ部屋でゆっくりしよ」 背中を支えて中に連れていき 鍵をもらって部屋に行き 「ほら、1回スーツ脱いじゃおうな」 と、ジャケットを脱がしてやると 『ん、自分でぬげる』 と、カチャカチャとベルトをはずしてズボンも脱ごうとするが だるいのかベルトを外しただけでごろごろとする 「脱がしてやるから」 『…じぶんで、できる』 なんだ? 妙に意地っ張りだな、こいつ そういう祈織を無視して ズボンを脱がしてやるが 『じぶんでできるし、』 「いいよ、やってやるから」 『…んー、』 「ちょっと横になってな。貧血だろ、多分」 『んー、そうかも』 「俺飲み物とか買ってくるからゆっくり寝てな」 『…やだ、きょうへいいったらやだ』 「すぐ戻って来るから。なんか欲しいものとか」 『なんもいらない』 と、ふん、と不機嫌に言う祈織 体調悪いから機嫌も良くねえな さっさと買って帰ってくるか 「じゃあ飲み物だけ」 と、荷物を持つが 『やだって!きょうへい行くなよ』 と、ベッドに横になっていた祈織は起き上がり 俺を捕まえるように抱きついてくる 「飲み物ないだろ?」 『そんなのいらない!おれはきょうへいに一緒にいてって言ってんじゃん。なんでどっか行こうとすんだよ』 「…わかったよ、一緒にいるから」 やっぱり機嫌も悪いな、と よしよしと背中を撫でてやると 祈織は俺の胸に顔を埋めぐりぐりと押し付けてくる 『なんでわかってくんねえの?おれ、やだって言ったじゃん』 「ごめんって。一緒にいるから」 『きょうへいなんでおれのこと置いてくんだよ』 「だからもう置いてかねえから。ごめんな、許して」 『…やだ、』 と、完全に機嫌を損ねてしまった ここまできたら甘やかして1回寝かせないと機嫌良くならないな、と よしよしと、もう1度背中を撫でもう一度横にさせる 「ごめんって。どこも行かねえから」 ベッドに寝かせて布団をかけてやるが すぐに頭まで布団を被りぷい、とそっぽを向いてしまう 「なぁ、顔見せて」 よしよしと少しだけ出ている頭をしばらく撫でていると ようやくもぞもぞ動いて ちらりとこちらを覗いてくる 泣いてなかったか 『…なんできょうへいわかってくれなくなったの?』 「もう一緒にいるって言ってるだろ?」 『…おれのこと、ほっとかない?』 「ほっとかないって。ほら、もう1度寝てな。辛いんだろ」 貧血だろうから 寝る前に少しでも水分やエネルギーを取らせたかったが とりあえず1度起きてから様子見だな、これは 『きょうへい、』 「どうした?」 と、祈織は寝るかと思ったが目を覚ました 『おれ、自分でもめんどくさいってわかってるけど…どうしようもできなくなってる』 「大丈夫だよ、めんどくさくねえから。体調悪いのに1人になるの嫌だったよな。俺がわからなかったんだよ、ごめん」 『ごめん、』 と、祈織は俺に背を向けるように横に身体を向け目を閉じた 祈織の小さなわがままはたしかに増えていた ただ、俺がそんなわがままばっかり言わせているのかもしれないと言うことにようやく気付いた

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