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第169話
『…きょうへい、ちょっといい?』
と、送迎を終えたようで祈織が社長室に戻ってきた
「…あぁ、」
と、持っていた書類から目を離し
祈織の方を向くと
すぐに隣にきて俺の手元を覗き込む
「なに?」
『いそがしいなら、いい』
と、控えめに1歩下がる
「…なに、話あるんじゃねえの」
と、冷たい言い方になってしまった事を自覚する
まだイライラしてんな、俺
『えっと、おれ、きょうへいに』
と、目を逸らしながら
もじもじと自分の股間をいじっていて
「…祈織、おしっこ行きてえんじゃねえの?おもらし治そうとしてんだからちゃんとトイレ行くんだろ」
『ちが、トイレ、行きたくない』
と、すぐに股間から手を離すが
またすぐにもじもじと股間に手が伸びていく
「…祈織、嘘つくなよ。それかわからないのか?ちゃんとトイレ行くって決めたんだから行けよ。行きたいんだろ?」
『うそじゃねえし』
そう目を逸らした祈織
そんないじってんだから行きたいに決まっていた
それなのに頑なに行きたくないという祈織にため息が出る
「そうかよ。じゃあ漏らしても知らねえからな」
と、思わず当たってしまう
俺本当にダメだな今
早いとこハッキリ気になる事は聞いた方がいいのか
『きょうへい、おこって、』
「…怒ってねえよ」
いや、嘘に鳴るけど。
でも
実は付き合うとか言われたり
また嘘をつかれたりしたら立ち直れない
「…祈織、やっぱり俺今ちょっと忙しいから急ぎの用事じゃなかったら後にして」
『…いそぎじゃ、』
と、もごもごと言っていて
でも祈織も何か言いたそうな顔をしていた
「……なに、なんの話し?」
『…話していい?』
「あぁ、そんな時間ねえからちゃんと話せよ」
と、祈織の目を見ると
びくっと肩を揺らす
『…昨日のこと』
「……何、」
俺のイライラの核心を付いてくる話題に
自分でも空気をピリつかせてる事がわかる
そんな事したら祈織だって話しにくいだろうと思うのにどうにもできない
『昨日、嘘ついた…あきらくんと会う予定もなかったし…汰一とも会ってない』
「へえ、それをなんで俺に言おうと思ったの?」
『きょうへい…おこってるし』
「じゃあ俺が気付かない振りして普通にお前に接してたら隠しておくつもりだったって事か?」
『それは、』
俺すっげえ大人気なくてはずかしいこと言ってる
自分の心の狭さに余計イライラがつのる
『そうかも、しれないけど…おれ、きょうへいに嘘ついたからあやまらなきゃってずっともやもやしてて』
そうもじもじとまた股間をいじりながらいう祈織
怒られると思っているのだろう
そういやこいつおもらししたりおねしょしたりで落ち込んでる時とか赤ちゃんみたいにちんちん触るよな
怒られると思ってびびってるのと
悲しくなって不安定な時もこうする事を思い出す
悪いことをしたと自分でもわかっててちゃんと話に来たのだ
「…ごめん祈織。話聞くから教えて」
自分の大人気なさに反省をし
できるだけイライラを表に出さないように伝える
『…うん、あの、ごめん。おれ嘘ついて、』
「うん、教えて」
と、イライラを抑えると
今度は不安になってきた自分の情けなさにため息が出る
昨日祈織が女と会っていたと聞いて
不安になり八つ当たりをしていたのだ
もし、彼女ができたと言われたらどうしよう
そんな事言われたら
俺はまず立ち直れないし
何もわからず刷り込みで依存してくる祈織を甘やかして引き止めているだけの俺が何か言えるはずがなかった
だいたい、女と付き合う方が正しいだろ、世間的にも将来的にも
『あの、昨日会ったの…』
「…うん、」
しかし俺の考えなんて無駄だったようで
『みーちゃん、なんだ、』
「……は、?だれ?」
『みーちゃんだよ、みーちゃん。』
「え?みーちゃ、って、ミサ?」
『うん、みーちゃん』
「………は?なんで、」
まさか、ミサと祈織が、と頭を過ぎったが
『昨日、朝電話きて』
「は?それで?」
『会うことになって、理由はちょっと…言えないけど。きょうへいに言わないでって』
「え?なんで?え?」
『内緒にするはずだったんだけど…おれが嫌でみーちゃんにお願いして会ったことだけはきょうへいに言っていいか、聞いた』
「…いや、それ間違えなくミサが迷惑かけてるってことだよな?」
『でも、みーちゃん、シャツも買ってくれたし…ごはんも…ってそうじゃなくて、』
「いや、何が?」
『みーちゃんだったからとかそういうことじゃなくて…おれ、別にあったのは悪いことしてないんだけど』
「うん?」
『きょうへいに嘘ついたのは…悪いことだった…ごめんなさい』
「…いや、ミサがなんか迷惑かけたからだろ。それなのに俺がお前に八つ当たりしたんだよ。俺が悪かったな、ごめんな」
『きょうへいは、わるくない』
と、明らかに俺が悪いのに
泣きそうな顔でそう伝えてくる祈織
俺の妹が迷惑かけたのに八つ当たりとか何やってんだよ俺
すげえ反省する
「おいで祈織」
と、腕を引いて抱きしめてやる
「さっき、会社のやつが祈織が女と会っていたの見たって話してるの聞いて勝手に嫉妬してたんだよ、情けねえ。悪かった」
『…へえ、』
と、少しだけ何かを考えるように言ったあと
すぐに吹き出して笑った祈織
「なんで笑うんだよ」
『うれしかったから』
「何が」
『きょうへい、おれが女の人と会ってんの嫉妬するんだと思って』
「するだろ、そんなん」
『だから、うれしいなぁって』
と、すぐに俺の首に腕を回し抱き着いてくるから
よしよしと背中を撫でると嬉しそうにぐりぐりと肩におでこを擦り付けてくる
「勝手に嫉妬してごめんな」
『そういうの、するのおれだけだと思ってたからうれしい』
そんな訳ねえだろ、
絶対祈織が俺に対する依存より
俺が祈織に対する執着の方が強いだろ
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