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第194話
「…祈織、帰ろ」
『ならぶ、もうちょっとじゃん、』
と、トイレから戻ってきた祈織は
明らかに落ち込んでいて
歩き方も少し変だ
「出ちゃったんだろ」
『でてない、』
と、目を合わせず答えるが少し涙目だ
コートで隠れていて濡れている感じは見えないが恐らく漏らしてしまったんだろう
そういえば朝パット入れてたから全部濡らすのは免れたのかもしれないが
きっと中のパットはびしょ濡れだ
時間が経ったら冷えてきて
またトイレも行きたくなるだろうし風邪ひく
病み上がりなのに
「…祈織、帰るぞ」
『あとちょっと』
「おもらししたままお参りしねえの」
『……、』
「帰ろ」
『…うん、ごめんなさい』
と、諦めてとぼとぼと歩くから
背中を支えて家に帰ることにした
「…全部でた?」
『…うん、出た』
「見せて」
と、コートをまくって服を確認するが
黒いズボンを履いていたからパッと見そんな濡れている感じはわからない
「よかったな、そんな濡れてんのわかんねえ」
『そっか、』
「落ち込んでんの?」
『……、だって、』
「うける」
『いや、なんでだよ』
「おもらしして落ち込んでんのうける。早く着替えよ」
ほら、と手袋をしてやると
歩きにくいのか
おもらしして落ち込んでんのか恥ずかしいのか
俺の後ろをとぼとぼ歩く祈織
「靴と靴下は?」
『ぬれてない』
「そっか」
『パンツのなか、ぐじゅぐじゅして気持ち悪い』
そうだよなあ
全部出ちゃったしなあ
列並ぶ前にトイレ行かせておくべきだったな、失敗した
やっぱり病み上がりだとあんまりおしっこ我慢できなくなってるんだよなあ
『…』
すんすんと鼻を啜っていて
寒いのかいや、もうほぼ泣いてんだろう
着替え持ってきてねえしなあ
いつもはだいたい車移動だから着替えを持っていたが徒歩で神社まで来ていて
その上財布ぐらいしか持ってない、
家まではあと10分位…
我慢させられない距離でもねえけど…
泣いてると可哀想になってすぐにどうにかしてやりたくなる
『お参り、できなかった、』
「いいだろ、また明日行こ」
『…だって、』
と、またぐすぐす鼻をすする
おもらしして泣いてると思ったらそっちか?
「祈織、泣かない。大人だろ」
『大人なのに漏らしたから泣いてんじゃん』
「ふっ、」
ご最もな事言うから思わず笑ってしまった
『笑うなよ、』
「情けない顔してんのおもしれぇんだもん、お前」
『悲しいのに、おれは』
「ほら、手繋ご。早く帰ろ」
『…外で、変だろ』
「これならわかんねえよ」
と、手を取ってポケットに突っ込んでやると
ポケットの中できゅっと、俺の手を握ってくる
あー、かわいいなぁ、こいつ
「風呂でキレイにすんのみんなにバレそうだから部屋でタオルでいいか?」
『…うん、』
量が多くて靴や靴下まで濡らしてたらそのまま風呂に行かせるつもりだったが
さっきカフェでトイレ行ってからそこまで時間もたってなかったから量も多くなかったのが不幸中の幸いだ
ズボンとパンツは濡れたがほとんどはパットに吸い込まれていたから片付けも楽だ
ぐすぐすと泣いていた祈織だが
手を繋いだからか家に着くまでには
泣き止んで
「先部屋行ってな」
と、こそこそと家に入るからそのまま部屋に行かせる
「さて、」
と、俺はタオルを何枚か拝借し
何枚かは濡らしてから部屋に向かう
『きょうへぃい、』
部屋に入るとどうしたらいいのか分からなかったのか突っ立ったまま
祈織はまた泣きべそをかいて情けない声で俺の事を呼ぶ
あぁ、かわいい
なんもできなくて俺に頼ってくるところ
かわいい、と、頭を撫でてから
手袋を取ってからコートをぬがしてやる
「お、おしっこのにおいする」
『ば、ばか、嗅ぐな』
「脱いでて良かったのに」
『だって…手袋してたし、』
「手袋最初に外せばいいだろ?」
『だってぇ、』
あぁ、もう甘えん坊だ
今日1日甘えんの我慢してたしな。なんだかんだ
おもらしして我慢出来なくなったんだろう
「ほら、ここおいで」
と、タオルを敷いて立たせて
ベルトを外してやる
『冷たくてきもちわるい、』
「そうだな、タオル温かいのしてやるから」
靴下を脱がせてからズボンも脱がせると
ズボンは黒くてあんまりわからなかったが
祈織の好きな青いパンツは
濡れているところがハッキリと濃い色になってしまっていて
祈織の脚に張り付いていた
あーびしょびしょになってる、と
中身を零さないようにそっとパンツを膝まで下ろして
おしっこが滴り落ちるそうなパットはサッサと袋に入れて口を閉じる
そこからようやくパンツを全部脱がせて
濡れてしまった物はまとめて置いておいて
ようやく温かいタオルで拭いてやる
『あ、おしっこ』
「ええ」
温かいタオルで、気が緩んだのか
それとも俺がよくこれで残ったおしっこさせてやってるからクセがついてしまってるのか
「しちゃいな」
と、タオルで包んだままいうが祈織はいやいやと首を振る
『我慢するから、』
「我慢できないだろ、拭いてから新しいパンツとズボン履いてトイレいくの」
家なら腰にタオルでも巻いてやればトイレ行かせられるけどここは実家だ
もし部屋の外に出たタイミングで誰かに会ってしまったら困る
『で、も』
「ほら、抑えててやるからしちゃいない」
どうせ残ってるのが少し出るだけだ
『だって、やだあ、やだ、』
と、せっかく泣き止んでいたのに泣きべそをかきながら首を振るけど
先っぽをちょっとくすぐってやればいつものクセで
ちょろろ、とおしっこを漏らす
「ほら、ちょっとしかでなかっただろ」
『っ、ぁっ、や、やだっていったのにぃ』
と、本格的に泣き出してしまって
これはもう眠くてぐずっているんだな、と気づく
「ごめんごめん。早くキレイにしてちょっと布団入ろ」
と、さっさと新しいタオルで
股間も冷えてしまった尻も脚も拭いてやって
布団の上におねしょマットを敷いて座らせる
さっさとおむつ履かせようと履かせるタイプのおむつを出すが
『おむつ、やだ』
と、見つかって首を振る
「ちょっと寝るからいいだろ?」
『寝るの?』
「あぁ、ちょっと横になろ」
『やだ、寝ない』
「なんで?俺眠いから横になるぞ?」
『おれは、』
「お前顔ぐしゃぐしゃじゃん、何泣いてんだよ」
と、家から持ってきた家の匂いがするタオルで顔を拭いてやると
『…ないて、ないじゃん、』
と、案の定そのタオルが気に入ったのか
タオルに顔を押し付けたまま嘘をついた
よし、今のうち、と
タオルに気を取られているあいだにさっさとおむつをを履かせてスウェットを着せて
掛け布団までかけてやれば完成だ
ふぅ、どうにか片付いた
タオルに隠れたままぐすぐす言っていたが
よしよしと肩のあたりをぽんぽんしていたら
タオルの匂いの安心感も手伝い
次第に落ち着いてきて
すん、すん、と鼻を啜る音がゆっくりになって
それもゆっくりとした寝息に変わっていく
寝たか?とタオルをすこし引っ張り様子を見ると
タオルを取られるのがいやなのか眉間にシワを寄せて抵抗する
まだまだ赤ちゃんだな、こいつ
と、面白いのとたまらなく愛おしい
そして満足感という
なんとも不思議な気持ちになったが
おでこに少しだけキスをして
とりあえず俺は洗濯をしに行くことにした
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