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第202話

『あ』 やば、 紙、出し忘れてた 出張のやつ 一昨日出そうと思ってたのに 会社来れなくなっちゃって 手帳にはメモを書いてたのに忘れてた、 早く出さなきゃおれの仕事はともかく きょうへいの仕事が入っちゃうかも やばい、すっかり忘れてた、 どうしよ、と急いで 紙を書いて経理に持ってこうと その前にきょうへいの印鑑、と 急いできょうへいを探す 『あ、いた』 きょうへい、と見つけたと、廊下で見つけた きょうへいの後ろ姿に近付いて 声をかける 『きょうへい、あの』 「おお、どうした、慌てて。なんかあった?」 『おれ、忘れてて、これ、』 と、紙を出そうとしたが きょうへいがゴソゴソとおれの股間を確かめていた 『なに?』 「いや、慌ててたからおしっこでも漏れたのかと」 『ちっげえし、紙、出し忘れてて慌ててた』 と、書類の中から紙をだしてきょうへいに見せる 「あぁ、…ってこの紙か。これもう出したぞ」 『…え?おれ出し忘れてて、』 「俺もすっかり抜けてたんだけど、ヤナギが昨日出してくれたぞ。悪い悪い、伝えてなくて」 『えっと、ヤナギさん、』 と、急いでその場でタブレットを開いてきょうへいの予定を確認すると 確かに予定日に出張が入ってて、ほかの予約は切られていた 「伝えれば良かったな、悪い悪い」 『そっか、』 なんだ、 ヤナギさんやってくれてたんだ 『じゃあ大丈夫、』 と、その紙を席まで持って帰る ヤナギさんそんな事しなくていいのに、 おれできんのに、 つかよくこの紙出てないの気付いたな、 と、ちょっと八つ当たりというか モヤモヤというか情けない気持ちになって 裏紙にしよ、とその紙を手でメモサイズに切る 「どうしたの?いおりんブスな顔して」 『は?うっさ』 と、そんなおれのことを見て暇そうにしてるあきらくんは文句を言ってくる 「紙間に合った?」 仕事すればいいのに 『…ヤナギさんが出してくれてた』 「あー、良かったじゃん」 『…うん』 「どしたん?落ち込んでんの?」 『べつに』 「紙の1枚や2枚忘れたくらいでそんな落ち込むこと無くない?しかもまだ許容範囲の期間内じゃん」 『…出そうと思ってたのに。この前体調悪くて休んだ時、休まなかったら出せてたのに』 「いおりん弱っちいからなあ」 『あきらくんうっさ』 「なんだよ。人が励ましてんのに」 『あきらくんうっさ』 「いおりんの弱虫」 『弱虫じゃねえもん』 「忘れたものはしょうがないじゃん」 『…それだけじゃねえし、』 「何が?他にもなんかしたの?」 『……この前、送迎、おれしか予定空いてないと思ったから自分で行こうとしてたのに。ヤナギさんが予定調整したらあきらくんいけたじゃん』 「あー、一昨日のやつ?」 『うん』 「あれはさー、オレが柳瀬さんの為にちょい頑張っちゃったっていうか」 『がんばった?』 「いや、なんでもない。というかオレなんかしょっちゅう忘れるよ、紙」 『しってる 』 迷惑だからちゃんと出して欲しいんだよなあ、あきらくん 「ペーパーレスに早くして欲しいなあ」 『今色々変えてるところじゃん』 「だからべつにいおりんもたまに忘れたぐらいそんな気にしなくていいと思うけど」 『…だって、ヤナギさんなら忘れないじゃん』 「そりゃそうでしょ、柳瀬さんだもん」 『ふーん、』 「だからオレもいおりんも柳瀬さんみたいにカンペキに仕事するなんて無理だって、 」 『でも…そんなん』 「だって柳瀬さんだよ?そんなかなうはずないって」 『でも、そんなん、きょ…社長に、迷惑じゃん、』 「だって社長が柳瀬さんと同じくらいできるようになれって言ってるわけじゃないんでしょ?つか紙出し忘れて社長に怒られた?」 『…怒られてないけど』 「だったらいいじゃん。柳瀬さんが出しといてくれてなんも問題ない」 でも、 適うはず無いって 諦めてもきょうへいはきっと許してくれる おれが、 仕事でミスしてもきょうへいは怒らない 紙出し忘れたり、 上手く予定の調整できなくても 怒らなくて おれの事怒るとおれが泣くから? きょうへいはおれのこと怒れないのかな? あきらくんに言われたみたいに弱虫だから、 つか、元からおれになんも期待してないから できなくても怒んねえのかな、 「つか柳瀬さんみたいにオレら平民が仕事をしようとしたって無理な話だって、諦めよ。諦めてコンビニいこ」 『……グミ、買ってきて』 「一緒に行くんだよ」 行こー、とあきらくんはおれの手元にあった裏紙をメモ入れに突っ込んで 肩を組んでその場から歩き出した 「何グミにすんの」 『あのプチってやつ』 「ぶどう味?」 『うん、ぶどう味』 「最近いおりんぶどう味ハマってんね」 『ぶどう味、1番おいしいじゃん』 「おれメロン味のが好き」 『メロン味ってそんななくない?』 と、エレベーターの所まで行くと 「お、」 と、降りてきたエレベーターにちょうどきょうへいが乗っていて あきらくんはさりげなくおれの肩に回していた手を外した さっきそこら辺うろついてたのにどうしたんだろ、 『なに?忘れ物?』 「いや、ちげえけど」 『どっか行くの?おれのとこ?』 「大したことねえよ。ちょい確認来ただけ」 『なに?』 「お前こそどっか行くんだろ?あきらくんとコンビニ?」 「いおりんグミ食うんだって」 『急ぎじゃないから先に仕事、』 「あー、こっちも急ぎじゃないからいいって。コンビニ行っといで。つか俺にもコーヒー買ってきて」 『でも、』 「ほら、お前らも好きなの買っといで」 と、きょうへいはおれにお札を渡した 「ご馳走様でーす。おこぼれゲット。いおりんいこ」 と、あきらくんはおれの腕を少し引いた 急ぎじゃないならきょうへいのコーヒー買ってこよ、と頷いてコンビニに向かうことにした 「社長コーヒーなら会社のやつ飲めばいいのに」 あれまずいから飲んでる人いないだろ、

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